認定された人しか開けられないと。
MicrosoftはSurface発表イベントで、意外なものを打ち出しました。あ、折りたたみスマホのSurface Duoもすごかったんですがもうひとつ、「スタイリッシュで薄いのに、修理もしやすいラップトップ」としてのSurface Laptop 3です。
たしかに、ネジを外しただけでぱかっと開けられるSurface Laptop 3には驚きでした。自分のガジェットくらい自分で直したいと思っている人たちはみんな、そのデザインを絶賛し始めました。ただ残念ながら、Surface Laptop 3はまだユーザーが自力で直すのは難しいし、技術者であってもMicrosoftが認定した人じゃないといけないようです。
誰向けの「修理しやすい」なの?
発表イベントで、Microsoftのチーフプロダクトオフィサー、パノス・パネイ氏はこう語りました。
「我々は(Surfaceの)デザインの純粋さにフォーカスし続けているし、それは非常に大事だと考えています。でも私たちは、保守のしやすさ、修理のしやすさといった、法人顧客(commercial customers)にとって大事な要素も加えたかったのです。」
「保守しやすい製品にはたいてい、ラインが加わり、余計な重量や厚みが追加され、保守用に作った『隠しドア』と呼ばれるものが見えてしまいます。でもSurface Laptop 3では、そうはしませんでした。」
パネイ氏はSurface Laptop 3のキーボードを本体から外し、モジュール風でいかにも修理しやすそうなデザインを披露してくれました。彼はまた「それを実現するツールがある」とも言ったんですが、その「ツール」がすぐ手に入るようなものなのか、入手できるとしてどういう人が手にできるものなのか、といった詳しいことはつっこんで話しませんでした。でもその後わかったのは、Microsoftがその「ツール」とかリソースへのアクセスを許可するのは彼らが認定する技術者だけで、一般ユーザーは対象外、ということなんです。
たしかにパネイ氏もプレゼンのとき、「でも自分でバラそうとしないでくださいね」と釘を刺してたんです。その後イベントの場で米GizmodoがMicrosoftの人に確認したところ、ユーザーが自力でSurface Laptop 3を分解した場合、保証対象外になってしまうと言われました。
Microsoftは「修理する権利」に反対気味
「Right-to-repair」(修理する権利)の考え方的には、本来デバイスが壊れたら、自力で直していいはずなんです。でも現実には、我々が何らかのデバイスを修理したいときに、自力で直せるのか、誰か詳しい知り合いに頼めばいいのか、それとも町の修理屋さんに持っていくのか、はたまたメーカーに問い合わせるべきなのか…スキルレベルの見きわめが難しいこともあるし、保証されるのかされないのかがわからないのもあるしで、迷ってしまうことがありますよね。こうなる原因は、マニュアルとかWebサイトに小さい字で長々と書いてある注意書きを読み解けない我々が悪いのかもしれないんですが、メーカー側がわかりやすく伝えてくれてないところにもあるんじゃないでしょうか。
Microsoftはまさに、あえて伝えてくれない側の人たちでした。たとえばMicrosoftが本社を置く米ワシントン州では、修理する権利を保証する法案があったんですが、ワシントン州のJeff Morris議員はiFixitとのインタビューで、Microsoftが中心になってその法案をつぶしたといって批難していました。またMicrosoftはEntertainment Software Organizationという業界団体の会員なんですが、その団体もやっぱり修理する権利に反対しています。さらに2018年、米連邦取引委員会(FTC)はMicrosoft(と他の主要メーカー)に対し、製品保証に関する文言がサードパーティでの修理をしないよう誘導する内容になっていると警告しました。
ただしMicrosoftには、製品下取りとかバッテリーやパッケージのリサイクルといったプログラムもあります。それでも、今までユーザーの修理する権利に激しく抵抗してきた経緯があるので、それをチャラにするのは難しいです。
「法人顧客」のための修理しやすさ
じゃあSurface Laptop 3の「修理しやすさ」は誰のためにあるのかというと、カギはパネイ氏のプレゼンにそのまま入っています。「法人顧客(commercial customers)」という言葉、法人ユーザーと言い換えてもいいでしょう。だとしたら、今回のデザインが普通の個人ユーザーにメリットをもたらすとは考えにくいです。モジュール風のデザインは見栄えは良いですが、この感じだと個人ユーザーに対しては修理に必要なガイドやツール、パーツといった必要なものが公開されないんじゃないかという気がします。Microsoftとしては、あくまで対企業のビジネスの中で、LenovoやDell、HPといったライバルの優位に立ちたいのだと思われます。
とはいえ、Surfaceのすっきりしたデザインを維持したまま修理しやすくした技術は評価すべきだと思います。2017年に初代Surface Laptopが出たときは、さっそく分解したiFixitが「接着剤だらけのモンスター」と呼んで10段階中ゼロを付けたんですが、それと比べればかなりの進歩です。
iFixitのKyle Wiens編集長は米Gizmodoに対し「(パネイ氏が)ステージでやったようなことは他のSurface製品では不可能だった」とコメントしました。米国の消費者団体、U.S. Public Interest Research Groupの修理する権利キャンペーンを主導しているNathan Proctor氏も、「そんなにハードルの高い話じゃないですが」としつつ、Surfaceの修理しにくいデザインからの脱却を評価しています。
Proctor氏は「わかってることは少ないですが、非常に良かったと思います」と語り、少なくとも修理にかかる時間が短縮するだろうと評価しました。ただ、Surface Laptop 3とかその修理しやすさについて、分解してない現時点ではわからないことがまだたくさんある、とも言っていました。
「正しい方向に進んでいるのは確かだと思います」とProctor氏。「ただ疑問なのは、『修理ツールや情報はどれくらい広く配布されるのか? その他にどんな問題があるか?』ということです。でも私は、Microsoftがより修理しやすい製品のために開発時間を割くとしたら、信じてもいいと思います。彼らがその努力をちゃんとするのは良いことだし、修理する権利キャンペーンがメーカーのふるまいに影響を与えられることの証明でもあるのです。」