この面白さを共有したい。
公開前から各地で大評判だった上田監督最新作『スペシャルアクターズ』。前作の『カメラを止めるな!』は思いもしなかった衝撃の展開が待ち受けていましたが、本作は畳み掛けるような笑いの数々が見た人を襲います。
見終わった瞬間からツイッターに書き込み、面白さを宣伝したくなるレベルで、私は速攻で友人と一緒に観にいく約束を取り付けたほど。というのも、友人が面白がるリアクションを横で見たいんです。見終わった後に「いい映画紹介してくれてありがとう!」と言われたいんです。そして、『スペシャルアクターズ』はそんな経験を約束してくれる作品なんです。
さて、そんな『スペアク』ですが、ギズモードは上田慎一郎監督と主役の大澤数人さんに40分の単独インタビューをする機会に恵まれました。直接色々と伺ってきましたよ。
しんどい時にしんどいと弱音を吐ける相手がいた

──『カメラを止めるな』の成功のあとはかなりのプレッシャーを感じたと思いますが、どのように打ち勝ったのでしょうか。
上田慎一郎監督(以下、上田監督):台本の二稿ができるまでは、今まで陥ったことがないようなスランプに陥ってなかなか筆が走らないことがありました。それを支えてくれたのは周りにいる仲間です。
ポスタービジュアルを作ったのは自分の妻なのですが、彼女は監督補として現場にも毎日来てくれました。また、音楽をフルスコアで作ってくれたのは、幼稚園からの幼馴染でもある鈴木伸宏です。妻も彼も時に耳に痛い意見も言ってくれました。
自分がしんどい時に、しんどいと弱音を吐ける相手がいてくれたことで走りきることができました。
──大澤さんも製作中は気絶しそうだったとのことですが、踏ん張りをきかせてくれたのは何でしたか
大澤数人(以下、大澤):チョコレートですかね。チョコレートを食べると落ち着きました。
上田監督:数人は現場で撮影が終わるごとに「ダース」を一粒食べる習慣がありました。
──監督は俳優さんの演技を引き出すためにどんなことをしましたか。
上田監督:今回は数人に限らず現場経験が浅い人が多くいました。現場に入った途端、スタッフとカメラの数に圧倒されてしまい、萎縮して、その人が持つ本来の良さを出しきれないことがありました。そんな時はリラックスしてもらえるように声をかけることもありました。
その一方、数人の場合はプレッシャーで気絶しそうになりながら頑張っているというシーンが多かったので、リラックスされるとまずい場合が多々ありました。なので、心を鬼にして、あえて厳しいことを言ってプレッシャーを与えるようなことがありました。
──具体的には?
上田監督:数人を呼び出して、「お前は主役だから、ちゃんとやってくれないとあかん」と言ったことがあります。おっぱいボールを階段に落とすシーンがうまくできなかったんです。人と一緒のシーンより、一人芝居のほうが難しいんです。
僕はそんなに強く言うことはありませんが、その時は自分としては語気を強めたと思っています。「こんなぐらいのことは事前に頭で考えてきてくれないと、時間がかかってしょうがない」と言ったこともありました。でも、それは緊張して気絶するという設定だったからであって、普段はそんな言い方はしません。
──大澤さんは監督が怖くなかったですか?
上田監督:僕は鬼監督ではありませんよ(笑)。
大澤:はい、後半で富士さん(スペシャルアクターズ社長役の富士たくや氏)にやっているような、リラックスすることで持ち味が出てくる役者さんへの対応を自分にもしてくれた時には泣きそうになってしまいました。
──では、自分だけに対応が違うことは感じていたのですね。
大澤:はい。なので、上田耀介くん(スペシャルアクターズ社員シナリオ担当役)に相談していました。
上田監督:本当に倒れられては大変なので、絶妙な塩梅でやりました。励ましつつもプレッシャーを与えるといった風に。
15人に恋をした

──監督は脚本も存在しない時にキャスティングを始めたそうですが、俳優さんたちの合格の基準はなんでしたか。
上田監督:主にふたつあります。
ひとつはその人に惚れたかどうか。恋愛と一緒で、人が人に惹かれる時に明確な理由はありません。15人に恋をしたとしかいいようがありませんね。もっと一緒にいたい、もっとこの人を見たいといった気持ちが、映画を作る上でのモチベーションになりました。
もうひとつは、まだ物語もない状態だったので、とにかく15人のチームを作る気持ちで選びました。数人のようなタイプが魅力的でも、同じタイプを15人選んだところで物語はできません。女性がいて、年配の方がいて、不器用な人がいて、器用な人がいて、といった風に、バランスを考えました。
──作品作りにもっともインスピレーションを与えた俳優さんは誰ですか。
1,500人もいたので熟考を重ねましたが、数人と宏紀(和人の弟役)の2トップで物語を展開させようと早い段階から決めていましたね。
──演技初心者の方達と映画作りをする上で工夫したことはありますか。
上田監督:バラバラに撮った時に感情やテンションを上手くコントロールできる人たちばかりでなかったので、だいたい脚本通りに撮影する「順撮り」で撮りました。
たとえば、冒頭と終盤は同じオーディションのシーンですが、話の流れ上、最初は下手で最後は少しうまくなっている必要があります。しかし、それを1日でどちらも撮影しようとしたところで、上手くいきません。なので撮影した場所も変えてちゃんと分けて撮りました。
順撮りで取れたことで、彼らの成長のドキュメントにもなったと思います。数人が気絶しそうになりながらも演技を続けたことが、彼の成長の記録になりました。しかし、それがフィクションの中でも成り立つように、ドキュメントとフィクションが入り混じるようにしようと、いろいろな場面で考えていました。
──大澤さんは主役を勝ち取りましたが、応募しようと思ったきっかけはなんでしたか。
大澤:以前、松竹ブロードキャスティングの映画作りのワークショップを受けて勉強になったので、もう一度受けてみようと思っていました。
上田監督:1,500通の応募があって、書類選考で200人に絞りました。200人は、1コマ40分の枠でオーディションをして、実際に見させてもらいました。それから200人を50人に絞って、25人ずつ丸一日かけて全員じっくり見ました。その50人を最終的に15人に絞りました。15人でワークショップを3日間やったあと、リハーサルを兼ねたものを数日間やってから脚本を書き始めました。
ワークショップをやった後に物語を考えようと思っていたので、『スペアク』の脚本の前に書いていた超能力者のSFコメディのプロットを渡して、それを元に即興劇をやってもらいました。
──大澤さんは弟役の河野宏紀さんとの相性がバッチリでしたが、息のあった演技の秘訣はなんでしたか。
大澤:住んでいる場所や母親が死んだ時期といった脚本に書かれていない設定を一緒に話し合いました。それぞれの役のバックボーンは個々で考えてと監督に言われましたので。設定を練るために、ふたりでカフェに行ったりしました。大野兄弟に限らず、(他の役者さんたちも)設定は自分たちで考えていました。
上田監督:役の履歴書と言われる設定はみんなに任せました。話し合いもしたし、数人と宏紀だけでリハーサルしたりしていましたね。
──その考えた設定は上田監督に共有するのですか。
上田監督:はい。基本的には俳優に任せましたが、おかしい部分があればいいましたね。
上田監督流の映画作り

──監督の作品からは俳優たちへの愛と、俳優たちの魅力を観客に伝えたいという熱意がヒシヒシと伝わってきますが、その情熱をカメラに落とし込むために使っている特別な技術のようなものはありますか。
上田監督:『カメ止め』と今回の作品の15人全員は自分で選びました。そんな15人全員に見せ場を作る意気込みで脚本を書きました。全員の代表作にしたいと。
また、キャラとポジションを被らないように配置したこと、たとえば同じ年頃の若い女の子を多く出演させると観るほうがごっちゃになってしまったりもするので、金髪にしたりメガネをかけさせることでキャラを被らないように工夫をしました。
技術が特別に突き抜けているわけではないので、その人が持つ魅力を発揮できるキャラクターと状況を心がけました。芝居をさせないように圧をかけたというのもあります。
──では、素だったのでしょうか。
上田監督:素の状態というか…、芝居をさせる余裕を持たせませんでした。芝居の技術がない状態で芝居をさせると、誰でもなくなってしまう。なので、意図的にキャパオーバーさせることでその人の魅力を発揮させた、ということです。
──監督の作品は、映画でありながら舞台のようでもあると思います。これは意識してのことでしょうか。
上田監督:舞台的かどうかはわかりませんが、ライブ感を出そうとしているからかもしれません。舞台は生ですよね。自分はしっかりと段取りを組んで撮影するだけではなく、時にはもう2度と撮影できないかもしれないテイクを撮ろうとしています。目の前で起きているように見える熱量を持ったシーンを作ろうとしているのはあると思います。
また、自分の作品はコメディベースなので、寄りのサイズがそこまでなく、引きのサイズが多くあります。誰を見てもいいというサイズ展開があるからかもしれません。
──では監督の言うライブ感とはどういったものなんでしょうか?
上田監督:僕は段取りっぽく撮られているものが好きではないんです。『カメ止め』と『スペアク』を作って感じたのですが、ふたつとも脚本もリハーサルも練りこんでいるのに、現場では(その作り込みを壊して)ドキュメントを取ろうとしていたんです。僕は、フィクションの中にも、作り手なり演じ手なりのドキュメントが入っているのが好きです。作り込まれたフィクションは、よくできた映画で終わってしまいます。よくできた映画で終わらないのは、作り手なり演じ手なりのドキュメントが混ざっているから。そういったものが、特別な映画になると信じています。
──大澤さんの役所は他に類を見ない設定でしたが、監督から役作りや演技のアドバイスはありましたか。
大澤:「ハァハァ」といった荒い息遣いの度合い等を監督が指示してくれました。このシーンはもう少し上げて、こっちでは下げてと言った風に。カルト集団への潜入捜査のシーンの撮影が始まってからは特に「ハァハァ」の度合いを指導されました。
上田監督:パニック症候群やPTSDといった、プレッシャーが原因で倒れてしまう役は過去の映画にも出てきます。なので、そういった作品を参考資料としてみてもらいました。
お蔵入りしたSFヒーローもの
──『スペアク』はもともと5人の超能力を持ったヒーローが悪と戦う設定だったそうですが、なにが理由でボツにしようと考えたのでしょうか。
上田監督:『カメ止め』は、人力で困難を乗り越えるところが見る人との距離感を近くしていたと思います。しかし超能力者という設定にしてしまうと、それだけで見る人との距離ができてしまうし、超能力が使えるとなると汗をかきながら頑張る必要がなくなってしまいます。それでは自分の資質とあっていないというのもありました。
それだけでなく、このメンバーとこの予算規模でその設定をやろうとすると、茶番になるだろうとも考えました。『アベンジャーズ』は破天荒な設定ですが、あの予算だから説得力を持たせられている。しかし中途半端にやるとリアリティを担保できないと判断しました。
──なるほど。TVシリーズのバットマンみたいになってしまうということですね。
上田監督:あー、それはちょっと見たことないですね。
(実写TVシリーズバットマン参考)
これからもファンとの交流は活発に

──監督はTwitter上でのファンとの交流が活発ですね。私もリツイートやコメントをいただいて、作品単体でなく、監督や俳優さんのファンになりました。こういったファンとのSNSを通した密な交流は今後も続けていく予定でしょうか。
上田監督:はい、今現時点ではそう思っています。
今以上に忙しくなることはないと思います。『カメ止め』も『スペアク』も、俳優たちが有名なわけではないので、メディアの質問は僕に集中しているので、今が1番忙しいと思うんです。しかし今後、有名な俳優さんたちと仕事をするようになれば、その人たちがメディア露出をしていくことになるはずなので、比重は軽くなっていくと思います。
監督がこんなに取材を受けるのは珍しいと思います。今後は空いた時間で見てくれる人たちの交流を続けていきたいです。今1番忙しいときでもできているので、今後もできると思います。
──『スペアク』が公開されると大澤さんの人生はガラッと変わると思います。心の準備はできていますか。
大澤:いえ、いや、まだちょっと準備はしていないです。
──では、上田監督からアドバイスはありますか。同じような道を辿ると思いますが、先輩として何か一言お願いします。
上田監督:そうですね、まずは『スペアク』公開に向けて届けることに全力を尽くしてほしいという気持ちがあります。
と同時に、公開後が1番注目されると思うので、次に進んでほしいとも思っています。忙しくなるとは思いますが、次のオーディション情報を探したり役者として次に進んでほしいと思っています。
(大澤さんが驚いたような表情で監督を見る)
──大澤さん、まさか俳優のキャリアをこれで終わらそうなんて考えていませんよね?
上田監督:この作品頼みではなく、自分が1番波に乗れる時に、次に走れる準備をしてほしいと思いますね。
『スペシャルアクターズ』はお世辞と忖度抜きに本当に面白いです。何度も何度もツイッターで良さを呟いたほど面白いです。見終わったら、なんで私がこんなに『スペアク』推しだったのか理解してもらえるはず。
きっと、「この面白さを誰かに知ってほしい、でも自分だけの秘密の『スペアク』であってほしい」って変なジレンマに苛まれるはず。それほど特別な作品になると思います(こんなに絶賛しているけれど、それは別に「ムスビル」の多磨瑠様プロマイドを作ってほしいからとかではありません。ほしいけど!)。
今回のインタビューの最後に、憧れの「ムッスー」と「やっ!」のポーズを一緒に撮らせてもらいました。

『スペシャルアクターズ』は大好評上映中! ネタバレに気をつけて劇場に足を運んでくださいね。
Source: 映画『スペシャルアクターズ』, YouTube(1, 2)