思ってたのと違う。「すべて自分次第」なカメラ。
背面液晶を隠した「撮ることに集中しろ」と言わんばかりのデザインが発表直後から大きな話題を集めている、富士フイルムのデジタルミラーレス一眼「X-Pro3」。この2019年最大のダークホース的カメラを1週間ほど使ってみました。
結論から言うと、その印象はとにかく意外なものでした。
というのも、一見「ギリギリまで割り切ったエクストリームなカメラ」なイメージのプロダクトですが、実際に使って感じたのは「徹底的にカスタマイズできる、許容範囲の広いカメラ」というものだったのです。
X-Pro3

これは何?:富士フイルムのデジタルミラーレス一眼
価格:21万4500円前後〜
好きなところ:チタン部分の高級感。柔軟なカスタマイズ性。進化したフィルムシミュレーション。
好きじゃないところ:チタン以外のボディ材質がチープ。思ったよりエッジーなカメラではない。
第一印象は「戸惑い」。どう使いたいのかを問われるカメラ

X-Pro3を使って真っ先に感じたのは「どう使うか」がユーザーに委ねられているということ。
オートかマニュアルか?
EVFかOVFか?
撮影後のEVFプレビューを使うかどうか?
露出計を使うかどうか?
フィルムシミュレーションに画作りを任せるか、それともRAWで後から手を入れるのか?
これらを選べるのと同時に、選ばなくてはなりません。

まずは、背面液晶が隠れているというX-Pro3の“アナログ全開”なイメージに引きずられてか、OVFを使って露出計をOFFにし、ISOとシャッタースピード、フォーカスまでをすベてマニュアルで操作してみました。
しかし、レンジファインダー機ではないためOVFではピントを合わせづらく、MFのメリットをほとんど感じられませんでした。そこでAFへ変更することに 。

一見すると「マニュアル機」といった印象のX-Pro3ですが、そこは最新ミラーレス機。当然シャッタースピードもISOも(純正レンズを使用すれば絞りも)すべて「A(オート)」が用意されています。

つまりフルマニュアルから、部分的なオート、そしてスマホカメラのようなフルオートまで、自由に選ぶことができるのです。

これによって「面倒くさいカメラ」として使おうと思えばそういうカメラになりますし、「手軽に使おう」と思えばどこまでも楽ができるカメラにもなります。

さらに言えば、背面液晶が隠れているとはいえ、簡単に撮影した写真を確認することができます。
実は、液晶を引っ張り出さなくとも、撮影後に右手親指で「PLAY」ボタンを押せば、ファインダー内ですぐに撮影画像を確認できてしまいます。
つまりこれは「X-Pro3らしさ」を消そうと思えば、どこまでも消せてしまうということ。
だから「こう撮りたい」という意思を強く持っていないと、普通のデジカメにさえなってしまいます。
「新しいカメラを買うことで自分の写真が変わるかも」なんて淡い期待は捨てましょう。これはドM向きに見せかけて、ドS向きカメラです。

さて、話題を戻すと、今回のレビューにおける最終的なX-Pro3の撮影設定は「絞り以外すべてオート」に落ち着きました。
そのコンセプトは「旅の終わりにフィルム現像を楽しむ」というもの。

コンパクトフィルムカメラのように、OVFでできるだけオートで手軽に撮って、最後にMacで写真を確認したときに「そういえばこんな写真も撮っていたね」なんて感覚や、「こんなきれいに撮れていたんだ!」という驚きを楽しみたかったのです。
まるで、「どう写真と向き合いたいのか」に柔軟に合わせられるエミュレーター的なカメラ。
自分なりのコンセプトを立てて設定することで、X-Pro3の印象は大きく変化しました。
兎にも角にも「クラシックネガ」。フィルムシミュレーションが楽しい!

しかし、X-Pro3が”擬態”するばかりの無個性なカメラかというと、そんなことはありません。
持ち出したくなるクラシカルなルックス、背面の小さな液晶と合わせて、積極的に楽しみたくなるのが「フィルムシミュレーション」。

富士フイルムはこのフィルムシミュレーションを「フィルムを長年作ってきた当社ならではの、豊かな色再現性と階調表現をフィルム取り替える感覚で設定できる機能」と定義しており「富士フイルムのカメラはJPGが綺麗」という評判の大きな要因となっていました。
そんな人気機能が覚醒。この”小窓”によって「フィルム取り替える感覚」がよりフィジカル感を強め、その真価を発揮したように感じられるのです。

そこに加えて見逃せないのが、新搭載されたフィルムシミュレーションである「クラシックネガ」です。
VSCO等の実在フィルムを再現したプリセットやフィルターに比べ、これまでのフィルムシミュレーションの画作りは大人しめで「JPEG設定を言い換えただけでは?」という声も聞かれていました(実際そうなのですが)。
しかし、このクラシックネガはちょっと突き抜けています。

どうでしょうか?
この思い切ったノスタルジックな画作りは、使うフィルムによって写真が大きく変わるフィルム写真のあの感じを味わうのに十分です。
なんてことのない風景を撮っても、上の写真のように少しブレたりピンボケしていたりしても、シャッターを切るだけで「写真」として成立しているこの感じ。
これはデジタル時代になって以来、写真から久しく失われていたものではないでしょうか。

そんなクラシックネガとX-Pro3のハード的特性から出てきたのがこの写真。
イルミネーションの表現としてこれはこれでアリですし、撮った本人からすればむしろ記憶と強く結びつく一枚となった気さえします。
精細な液晶画面ですぐにプレビューしていたら、このような写真は「失敗した」とすぐに削除していたかもしれません。それを免れたとしても、素直な作りのJPGだったら、Macで表示した時点で削除していたかもしれません。

光学ファインダーで実際の風景を見ながら撮った写真。それが微妙にブレていて、なおかつ現実の風景とは違うレンズ、センサー、プロセッサを通した色味となっている。
その“写真的飛躍”は「旅の終わりにフィルム現像を楽しむ」という今回の撮影コンセプトに見事に答えてくれたと思います。

ただし料理写真など、クラシックネガが適していないシチュエーションも少なくありません。
そんな時は背面液晶を確認しながらフィルムシミュレーションの種類を変えたり、後からRAWのプロファイルを変更することで、別のフィルムシミュレーションを使用したり、普通のRAW現像のように1から画作りすることもできます。

フィルム感覚の描写を味わいながらも、デジタルならではの利便性もしっかりと享受できる。
そんな、X-Pro3が持つ個性と汎用性のバランスが、少しずつ心地よくなっている自分に気づきます。
カメラへの信頼が、シャッターを切ることを楽しくさせる

数多くの写真家が「写真は、量が質を作る」と言い切っています。
彼らのドキュメンタリー映像には、失敗写真を恐れずに次々とシャッターを切り、フィルムを消費していく姿が収められています。

X-Pro3を使用して感じるのは、シャッターを切ることの楽しさ。
軽快なシャッターフィーリングとプレビュー確認を抑制する隠し液晶は、シャッターを切るテンポを速くします。

そして画作りを行なってくれるフィルムシミュレーションは、まるで腕の良い現像屋さんが写真を仕上げてくれるよう。
「どんな写真になるかな?」という期待とともに、失敗への不安を軽減し、シャッターを切ることを手助けしてくれます。
デジタルなんだから、いくら撮ってもフィルム代も現像代もかかりません。「つまらない写真になるかもしれない」なんて、本来は気にしなくていいハードルを、X-Pro3はさらに低くしてくれます。

もちろん、その結果としてつまらない写真が撮れている可能性もあります。でも、その先に傑作が待っている可能性も十分にありえます。

「まずはシャッターを切らなければ始まらない」
X-Pro3はその勇気を後押ししてくれるカメラとして十分な資質を持っています。
結局は、どう使うか。何がしたいのかを自分に問う必要があるカメラ

X-Pro3は最新の頭脳を備えながら、どんな使い方にも対応できる強靭な肉体を持ったカメラです。
一見アナログでアナクロな見た目ですが、最新の高機能ミラーレスカメラとしても、フルマニュアルカメラとしても、高級コンパクトフィルムカメラとしても振舞うことができます。
そのため、背面液晶が隠れているというエッジーな見た目から想像するような、不便なカメラではありません。むしろ不便な使い方をするには、ある程度の意思が必要となります。

油断すると背面の液晶を引き出すか、PLAYボタンを押してファインダー内で撮影したばかりの写真を確認してしまい「X-Pro3じゃなくてもいいじゃん」状態になってしまいます。
使い手の行動を規範するようなカメラではなく、使い手の写真への向き合い方を映し出すようなカメラです。 ここを誤ると、かなり期待外れという印象になってしまうことでしょう。

しかし、自分の中での撮影コンセプトさえ固まってしまえば、如何様にも答えてくれる。
特に「フィルムカメラのようにデジタルを楽しみたい」という要望には、かなりの部分で答えてくれることでしょう。

ただし、注意点が一つ。
見た目はレンジファインダーカメラのようですが、機能的にはレンジファインダーではありません。

光学ファインダーでピント合わせするには、ファインダー内に出てくる小型EVFを見ながらフォーカシングしなければなりません。レンジファインダー機のように「二重像を合わせてマニュアルフォーカスしたい」という要望だけはどうしても叶えられないので、どうかお間違えなきように。
まとめ
・自分なりの「写真の楽しみ方」に対応してくれる柔軟性あるカメラ。
・受け身で使うにはまったく不向き。意思が弱ければ普通のデジカメとして使えてしまうため、液晶非搭載のライカM10-Dのようなエッジーさを期待するのは間違い。
・描写性能はX-T3と同等。撮影効率重視であればX-T3を。
・スタイリッシュなデザインとチタンの美しい仕上げは国産メーカー随一。しかしプラスチックとゴムが悪い意味で目立つ。
・このカメラが自分に合うかどうかは、店頭で触ってしっかり見極める必要あり。