ついにその日がきてしまったか…
Appleが世界スマートウォッチ市場の半分を抱え込み、水際に追い詰められたFitbitがGoogleに買収されることが正式に決まりました。海外の反応をまとめてどうぞ。
安くない?
まず一番驚いたのは買収額の低さです。Facebookのオファー額の2倍とはいえ、21億ドル(2272億円)ぽっち。2015年のIPO直後の絶頂期(1株51.90)からすれば叩き売り同然で、1株7.35+20%プレミアムです。え?と思ってグラフで確認してみたら…

Apple Watch発売数か月後のピークから企業価値が85%も落ち込んでいるんですね…いやあ…ブルートだ…。今年はVersa Liteの売れ行きも芳しくなく、7月の決算報告でAppleと明暗を分け、一時10億ドルを切ってしまい、急ぎ、サルベージモードに入った模様です。まあ、それでもFitbitの本年売上予想は14.5億ドルという立派なものなので、「Googleの買収額はその2倍ですらない。買収交渉は普通最低3倍がベースライン。Fitbitが足元見られているのがわかる」というアナリストの指摘(下)は正しいかと…。
Fitbit 2019 revenue estimates are $1.45B so Google buying for $2.1B is not even 2x revenue.
— Ben Bajarin (@BenBajarin) November 1, 2019
When negotiating an acquisition 3x revenue is usually the baseline. This is telling about the state of Fitbit.
空母Googleに乗っかる以外、カードはあまり残されていないか、要求を吊り上げるのが途中でばかばかしくなるほどバラ色の未来をGoogleが見せてくれたか、でしょうねー。
また買収? 独禁法大丈夫?
Fitbitは一貫してヘルスを前面に押し出しているフィットネストラッカーのパイオニア。初めてプレゼンしたとき会場で見ましたけど、「体に万歩計を装着して、それをスマホアプリでチェックして」というのは当時まだ誰もやっていなくて、それはそれはすばらしいイノベーションでした。やっと世に出て、喜ばれて、広まって、すごいなー!と喜んでいたら、GAFAが胸筋ピクピクさせて右から左から…という絵に描いたような展開で、まさにこういうのを競争阻害と言うんだよね、と見る向きも少なくありません。
アメリカでは折しも9月から48州と2地域の司法当局がGoogleなどを反トラスト法(独禁法)違反の疑いで調査中です。その最中にまた買収!?なんで!?という反発の声(下)も出ていますよ。
Google is under anti-trust investigation and is gobbling up Fitbit — a company that stores some of our most private health data.
— Rep. Katie Porter (@RepKatiePorter) November 1, 2019
It’s time for anti-trust enforcers to do their jobs instead of keeping us all under the rule of monopolies. https://t.co/zkozJtc6e8
Why should Google be permitted to acquire even more companies while they’re under DOJ antitrust investigation? https://t.co/QwnEuYB6De
— Josh Hawley (@HawleyMO) November 1, 2019
GAFA分割派の議員らも「俺たちを見くびるなよ」と早くも戦闘モードに入っていますので、そっちの胸筋ピクピクが勝った場合、買収は頓挫となります。それも踏まえて、両社は1年かけて独禁法違反に相当しないか調べ、仮に違反で買収見送りとなった場合、GoogleからFitbitに2億5000万ドル(約270億円)支払う約束になっています。これは買収額の12%なので、かなり手厚い配慮と言えそう。まあ、Googleは「うちのウェアラブルはさっぱり売れてません」、「スマートウォッチは作らせるばかりで自社では作ってません」という主張で押し切れると踏んでいるんでしょう。
「データは広告に使いません」ってホントに?
長年のFitbitファンからは「生体データはGAFAと切り離したいからFitbitを使っていたのに…」という戸惑いの声もたくさんあがっています。これを見越して、Googleハードウェア部門トップのRick Osterloh上級VPは「生体データをGoogle広告には使いません」と明言しているのですが、それさえも…
「DoubleClick買収したときもそう言ってたよね(遠い目)」
「Nest買収したときもそう言ってた気がする(創業者らが抗議辞任し、投稿も削除されていて確認できない)」
…と言われてますよ。ついでに「Facebookに買われたWazzUpもそう言ってたな(創業者らが抗議辞任)」という派生発言もあったりして。
「けっきょくFitbit買収=ヘルスデータ買収」というツイートには、こんなに膨大な数のRTが集まっていますよ。
FIXED: Google buys your health data for $2.1 billion. https://t.co/TpVwBRgYXQ
— Douglas A. Boneparth (@dougboneparth) November 1, 2019
ヘルスデータ逃げ場なし、と。だれもこれをスマートウォッチ戦争とは見ていなくて、ヘルスデータの勢力図が固まってしまったんだ、と諦観した瞬間と感じていることがわかります。
Nestの二の舞にならないといいね…
不信感が先に立ってしまうのもムリはなく、Googleのこれまでのハードウェア事業の大型買収はどれもあまりうまくいっていない印象なのです。表でどうぞ。

HTCはもともとAndroidのフラグシップ端末をつくっていた会社なので目立った波風もなく、でしたけど、Fitbitは「独自OS」、「APIを公開してサードパーティーと連携している」という点では、HTCよりNestに近い立ち位置です。そのNestがあんな冷遇を受けた後なのでFitbitファンは気が気じゃないのだと思います。Fitbit買収を決めたトップは、統合の難しさを嫌というほど経験したOsterloh元Motorola社長なので、うまくケアしてくれることを願いたい…!
10年後のFitbit
編集部から「期待しかない」というお題をもらったのに、不安なことばかり4つも書いてしまって、なんだか申し訳ないのですが、以上4つはすべてGoogleに対する注文です。Fitbitには期待しかありません。
創業者のジェームズ・パークCEO(ハーバード中退)とエリック・フリードマンCTO(イエール大)の2人は、任天堂Wiiを見て衝撃を受け、これのちっこいの創る!と考えFitbitを開発しました。いろんな箸にも棒にも掛からない会社を連続起業して体がぶよぶよになっていたのがFitbitでフィットに戻った♡という逸話はあまりにも有名。
ローンチ10周年でステージに立った10月の動画(上)でも3'33"から同じ話をしていて、この2人、10年間まったくブレがないんですよ。経営者が回転ドアみたいにクルクル変わって、言ってることもコロコロ変わる会社とは全然違う! これは「初期投資が思うように集まらなかった」(2'00")ことと関係があるかもしれませんね、いい意味で。一国一城の主の煌めきと魂が、得体の知れない巨大な魔物に吸い取られないことを祈るばかりですわ。
司会者に「今から10年後、ウェアラブルはどうなってるの?」と聞かれ(5'45")、ちょっと顔を見合わせてニコニコし(もうGoogle買収が決まってたんでしょうね)、2人はこんな風に答えています。
エリック「ウェアする(手首を指して)ものですらないのかも。インプラントとか。自分をよく知るガイダンス。友達みたいな感覚かな。ハードを超越したもの、データかと」
ジェームズ「ですね。これからはデバイスを超えたものが主役になります。データをどう役立つものに変えるのか。僕らはもうウェアブルの先を見ています」
なるほど、医療と健康、データで勝負、と考えた場合にGoogleが一番の身売り先だったんでしょうね。裏切るなよ~Google! バラ色の未来を見せては梯子を外し続けるGoogleを、これからも注意深くウォッチングしていきたいと思います。