本物の手描き看板って初めて見た。スゴいわ…。
私、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を劇場鑑賞した人と、そうでないファンの間には超えられない壁が存在していると思っています。40年以上前に、銀幕であの世界を見た人の心に灯ったワクワクは、その後に生まれて『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が『スター・ウォーズ』の劇場初鑑賞というレベルの私の感じる「好き」を遥かに凌駕しているし、それこそ、「彼らは劇場で一体何を目撃したんだろう?」と思わせられるほどの熱狂ぶりなんですよね。だから、「旧三部作を劇場で見たファン」は別格だと思ってるし、かなりリスペクトしています。
そんな風に考えている私なんですが、この間、すごい人に会ってきたんですよ。ファンからしてみたら「伝説」レベル。どんな人物かというと、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1977年)の手描き看板制作に携わった人。あの頃の『スター・ウォーズ』熱の立役者のひとりですよ。盛り上げる側ですよ。日本にどれくらいそんな人がいます?
そしてそんな方が、今回、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』で、再び手描き看板を描いたんですって。
というわけで、ギズモードは、日本における『スター・ウォーズ』大ヒットの立役者のひとりである、手描き看板絵師の北原邦明さんにインタビューしてきましたよ。見習い時代のこと、師弟関係のこと、看板職人としての仕事のこと、SFが大好きでご自身も『スター・ウォーズ』のファンであることなど、色々聞いてきましたよ〜。
『スター・ウォーズ』の歴史の始まり=北原さんのキャリアの始まり

── 42年前に『新たなる希望』の手描き看板を描いた時、こんなにもヒットすると思っていましたか。
北原邦明さん(以下北原さん):相当な話題作でしたよ。ニュースでも行列を作っているような様子が流れていて。
僕は入ったばかりで、手伝いとしてトレースして下書きするような立場でした。まだ、入ったばかりで、仕事のあれこれはわかっていない状態でしたね。でも、『スター・ウォーズ』はすごく見たいなと思って見に行きました。僕はオープニングのタイトルクレジットが流れた時に鳥肌が立って。それ以来はまりましたね。

──海外でも話題になっていたようですね。そんな話題作を描くとわかった時、どんなテンションでした?
北原さん:その時は仕事としてやっていますからね。でも、看板の世界って、多少なりともみんなが注目してくれるので看板自体はやりがいを感じました。
──『スター・ウォーズ』って多種多様なキャラクターが登場しますが、看板を描いている時に、一体どんな映画なんだろうって不思議に思いませんでした?
北原さん:それがまたワクワクするじゃないですか。僕は子供の頃からSFが大好きで、小さい頃はテレビにかじりついて『スタートレック』を見ていたんです。
──今回『スカイウォーカーの夜明け』の看板の話が再びきて、どう感じましたか。
北原さん:それは、嬉しかったですね。手描きの看板って、映画祭の時とかに描いて欲しいという依頼はくるのですが、もう描く仕事は少ないですから。
過去40年で変わった手描き看板を取り巻く環境
──『新たなる希望』の頃と違って今は随分とデジタルツールが発達していますが、手描き看板で何かデジタルツールを使うことはあるのでしょうか。
北原さん:離れた距離から見て確認する作業にデジタルカメラを使うようになりました。現像しないでもその場で確認することができますから便利ですね。

── しかし、デジタルで便利になった一方、デジタルの発展が手描き看板の仕事を追いやる結果にもなっていると。もう手描き看板の仕事は減っていくだろうと感じさせられたのはいつ頃でしたか。
北原さん:やっぱり出力機の登場ですね。最初の頃は、スプレーでインクを飛ばしていく出力機があったんです。凸凹のところでも絵を描けるので、すごいものがあるなぁと思いました。
その後、インクジェットが発達して。手描きがなくなったのはそういった機械技術の発達が理由のひとつでしょう。早くて正確ですから。
手描きをやっていたのは、当時そんな機械がなかったからです。印刷でも大きなポスターはできましたが、一枚だけ必要という場合は高額になってしまったんです。量産するならいいんですけどね。一枚だけ作るというと手描きが手頃だったんですよ。

── 手描きの仕事はいつ頃まであったのですか。
北原さん:14年くらい前までは普通にありましたよ。新宿の職安通りにあった東京宣伝という大きな会社が最後まで手描きをやっていたんですが、そこが辞めたのと同じ時期に一斉に手描きはなくなったと思いますね。

──プリントと手描きだと制作期間にどれほどの差があるのでしょう。
北原さん:今回の『スカイウォーカーの夜明け』の看板は、2週間かかりました。制作の様子をタイムラプスで撮っています。プリントだと、2時間くらいでできてしまいますね。

看板から感じる「アナザー師弟ストーリー」
──そういえば、手描き看板絵師という仕事は減っていますが、ジェダイのように弟子入りを?
北原さん:弟子入りというべきか…。特に教えてはくれないんですよ。自分で師匠の絵の書き方を見ながら学ぶんです。何人もの職人がいるんですが、絵には個性が出るんですよね、ハケのタッチで表現の幅が変わってきたり。
この絵は、1番うまかった人の絵ですね。
看板を見れば誰が描いたのかわかるんですよ。私は、なるべく自分の好きな絵を描く人の側に行って学びたいと思っていました。
私が尊敬していた人はチェーンスモーカーで。軍手をした手でタバコを吸うのですが、ギリギリまで数から軍手が焦げて真っ黒になっていました。部屋に入ると、タバコの煙のせいで雲ができているようなこともありました。タバコ嫌いな人は、あの人の部屋に入れなかったですね。
北原さんは、目を輝かせながら師匠の話をしてくれました。そして、そんな想いを理解した後に看板を見ると、映画の公開を伝える目的以上のものを感じられるような気がしました。それは職人が持つ「粋」なのか、時代の流れと共に活躍する場をなくした「哀」なのか、手描きだからこその「芸」なのか。とにかく、プリントのポスターからは感じられない強い力がありました。
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』手描き看板を目撃せよ

ちなみに、この手描き看板を拝めるのは、TOHOシネマズ日比谷で1月9日(木)まで。その後どうなるのかは未定で、別の手描きの仕事が入れば上書きしてしまう可能性もあるのだとか。看板はキャンバスを1から作る仕事なので、キャンバスが使える限り上書き上書きを繰り返し、写真に撮って残さない限り失われていく「刹那的アート」なんです。
私たちは『新たなる希望』公開の時にタイムスリップすることはできませんが、41年前に手描き看板を見ながら「『スター・ウォーズ』を見ようかどうしようか」とワクワクした気持ちを、『スカイウォーカーの夜明け』の手描き看板を眺めることで擬似体験することはできます。
この機会に是非、『スター・ウォーズ』の聖地に足を運んでみてください。
おまけ

20年くらい前にアメリカで買った旧三部作のポストカード。イラストってなんともいえない味があって大好き。今回の北原さんの絵もポスターになれば良いのにな。
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
公開日:12月20日(金)全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2019 ILM and Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.