スマートグラスの現状:普及しないのはフィクションの世界観が強すぎるから

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スマートグラスの現状:普及しないのはフィクションの世界観が強すぎるから
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スマートグラス、あぁそんなのありましたね。

スマートグラスは、決して幸先いいスタートを切ったとは言えない始まりでした。価格が高いうえに見た目もイマイチ。Google Glassが初めて出た当初は大きな話題になったものの、それは、私たちのもつスマートグラスのイメージとは技術的にほど遠いものでした。私たちのもつイメージ、つまりアニメや映画でさんざん出てきた、相手を見るだけで(戦闘能力など)すべて知ることができるSFチックなメガネです。現実のスマートグラスは、フィクションの世界でスマートグラスに慣れてしまった私たちの期待に応えられるものではなかったのです。

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問題解決のイチ手段としてスマートグラスが有効であると、一部の有識者は考えていたようですが、一般消費者の心は動かず。一般消費者にとって重要なのは、めっちゃ便利なスゴイアプリ・機能なわけで、これがガジェットメガネのもつマイナス点を大きく上回らないことには普及しません。しかし、スマートグラスに生きる道がないのかと言われれば、答えはNO。あるのです、企業向けという道が。

スマートグラスの生きる道、それはビジネスシーン

一般市場で木っ端微塵に敗れ去った感のあるスマートグラスですが、その裏で企業からの関心は高まりつづけています。

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たとえば生産工場のラインで、たとえば3Dモデルを製作する建築事務所で、たとえば医療現場で。ありとあらゆるビジネスシーンでの利用が想像できます。だからGoogleはそちらにぐっと舵を切ったのです。

消費者向けGoogle Glassのプロジェクトが2015年に終了、Glassは通称「夢工場」とも言われるGoogleのXラボ扱いとなりました。そこで開発が続けられ、2017年、Glassは企業向けのEnterprise Editionをリリース。今年はついにGlass Enterprise Editionの第2世代がリリースされました。企業向けGlassってどんなものだろう? 米Gizmodo編集部が、カリフォルニアのXラボまで見にいってきました。

Google・Xラボで見たGoogle Glass

市場が変わることで、GoogleのGlassに対する考えも変化したことがよくわかります。ひとことで言えば、企業向けGlassは何よりも実用性重視。安全性が高く、部品はモジュール式、さらに安全帽との組み合わせで使える仕様もあり。一方削除されたのは、職場では必要ないと思われる友達へのメッセージ機能的なもの

ラボでは、リアルな使用状況を想定したデモを体験しました。とある道具を修理するために部品を選ぶというシナリオでしたが、Glassは修理工程を教えるとともに、選んだ部品が適切かどうかを読み取りチェックしてくれました。

XラボでGlassプロジェクトを担当するJay Kothari氏は効率性が重要だとし、「企業向けに注視することで、Glassが日の目を見る日は近づくと思います」「1日をより効率的に過ごせるようになります」と語ってくれました。

Microsoftも企業向けに注力

スマートグラス活用を企業ユーズに見出したのはGoogleだけではありません。MicrosoftもHololens 2で、企業向けアプローチを強めています。Maicrosoftのデモでは、マシン修理や3Dモデル構築というシーンでのHololens使用を体験しました。一般向けではないけれど、特定の職場では非常に重宝するわけです。

スマートグラスの使用を職場に限定することで、スマートグラスが抱える複数の問題がクリアされるという利点もあります。価格が高くても、見た目がおしゃれじゃなくても問題なし。だって職場のツールだから。さらに、家やレストランや映画館などの公の場で着用しないので、プライバシーや他人への配慮も必要ありません。

エプソンはB to B to Cスマートグラスの開発を続行中

Google、Microsoftの他に、スマートグラスの開発続行組として注目したいのはエプソン。エプソンと言えばまずプリンタですが、プロジェクタも主力商品であり、プロジェクタはスマートグラスの重要な要素のひとつです。プロジェクタの新たな使い道として、スマートグラスに白羽の矢が立ったのも自然な流れと言えます。

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エプソンの初代スマートグラスMoberio BT 100が登場したのは2011年のこと。見た目は少々野暮ったくも、最初から企業向けを想定。その後、路線は完全企業向けのB to Bから、B to B to Cへ。ビジネスtoビジネスto消費者。これは、エプソンが特定のタスク向けに開発されたスマートグラスを企業や個人に貸し出すという方法。レンタルの見返りにはエプソン製品の価値ある露出と普及があり、一気に大市場に打って出るリスクを抑えられるというわけです。

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現にBT 200はドローン業界から注目を得た上に、パイロットのスマートディスプレイとしても利用されました。一部消費者は、自分好みに改造するなどしており、エプソンの思う特定タスクのための効率化は成功といえます。現在は、より軽く、より多くの機能があるBT 300、BT 30cモデルが出ています。

では、スマートグラスはこの道をそのまま進んでいけばいいのか? エプソンのMoverioスマートグラス担当のEric Mizufuka氏は、Epsonのスマートグラスは常に装着するタイプではなく、特定タスクに向けたのが成功の鍵だと語る一方で、取捨選択のジレンマも語ってくれました。

市場を拡大するのに必要なキーファクターは3つ。価格、素晴らしいユーザー体験、そして魅力的なデザイン。現在のスマートグラスでは、どうしてもこのうちのひとつ、魅力的なハードデザインに制限がかかってしまいます。エプソンは価格とユーザー体験を取り、デザインは捨てたというわけ。

その結果、エプソンのスマートグラスは一般受けするプロダクト、カジュアルに装着できる商品ではなくなりました。3要素を考えれば、GoogleはGlass初代でユーザー体験とデザインを重視していたのを、企業向けにシフトすることでよりユーザー体験に重きを置いていったと考えることができます。Microsoftは、最初からユーザー体験重視で、Hololens 2で端末のサイズや掛け心地というデザイン要素を少しプラスした感じです。

一般向けスマートグラスもまだ不十分

一般向けにスマートグラスが普及する日は来るのでしょうか? デザインとユーザー体験に重きを置いた、一般消費者向けスマートグラスFocalsを開発するNorthを訪ねてみました。

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Google Glassよりも日常に溶け込んでいるNorthは、地図検索、メッセージ、Uber呼び出し、Alexa連動などが可能。実物を見るため、ニューヨークはブルックリンのショールームに行ってみました。ここでは、最高のグラスを選ぶため、ユーザーの顔を3Dスキャンし、フレームの色や形を選ぶことができます。


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オーダーしてから数週間後、完成したFocalsを受け取りにいけば、使い方チュートリアルを受けることも可能。ちなみにお値段は600ドルから。正直、手間とお金と時間を使ってまで欲しくないという意見があっても不思議ではありません。それを上回る機能なり、スゴイアプリなりがあれば別ですが、現状はネット接続に問題があったり、直射日光下だと見にくかったりとまだまだ。初期Google Glassよりはいいけれど、一般ユーザーを巻き込むには不十分。

いや、仮にNorthのスマートグラスが完璧だったとしても、必要性を感じなければ人は買わないわけで。スマートウォッチに心拍計機能が搭載され、命を救うツールになって初めて普及が進んだのがいい例です。携帯電話の電波状態がよくなり常につながる=緊急時にも使えるとなって普及が進んだのと同じことです。

スマートグラスには、まだそれがありません。Frog DesignのデザイナーChuck Yust氏はまだまだ未発達な分野であるスマートグラスをこう評しています。

「この手のテクノロジをユーザーが進んで取り入れるのは、日常生活の問題点の解決策になることが必須です」

山積みの問題が解決されるまではSFの中のモノでいいかも?

アニメや映画でさんざん見てきただけに、そもそも機能への期待値が異常に高いスマートグラス。その上、最近はNetflixオリジナルの『ブラック・ミラー』や『アイアンマン』で、スマートグラスの恐ろしさが描かれることもあり、なんとなくこの手のテクノロジーに不安を感じている人がいるのも事実です。

SF小説作家のMadeline Ashby氏は「今の現実でいっぱいいっぱいというのが本音なのでは」「他者や不都合な事実を排除した自分だけのリアリティを作り出したところで、問題は尽きない。そういう中で、人々はスマートグラスだけでなく、ARやVR含め、また別の現実を作り出すことに不安を抱いているのでは」と解説しています。

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苦しい道を進んでいるかもしれないスマートグラスですが、なくなることはないでしょう。Googleしかり、Microsoftしかり、この分野の開発・試行錯誤を続けます。Northも第2世代をリリースしたばかり。FacebookはARグラス開発、Appleも2022、2023年頃にスマートグラスリリースの噂があります。Amazonだって少々方向性は違うものの、スマートフレームをリリースしました。

このうち誰かが壁をぶち破るかもしれません。破れないかもしれません。誰もが認めるアプリ・機能、付け心地、カスタマイズ可能なデザイン、低価格化、クリアすべき問題は山積み。たとえ、スマートグラス自体の技術がクリアになっても、プライバシーやセキュリティなどの社会的問題もあります。

…と思えば、山積みの問題がいつか解決されるまで、スマートグラスはSFの中のモノであった方が幸せなのかもしれないですね。

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