「安全な」地球温暖化なんてないよ。

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  • author Brian Kahn - Earther Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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「安全な」地球温暖化なんてないよ。
Photo: Getty Images

「安全な世界」ではなく、「少しでも危険じゃない世界」を目指さなければいけないところまで、地球温暖化は差し迫っているようです。

わたしたち人間は、本能的に「安全な世界」で生きることを強く願っています。

そんなわたしたちが、過去10年くらいずっと地球温暖化の「安全なレベル」を探し求めてきたのは、驚くようなことではありません。科学文献でも、気候変動に関する交渉でも、報道メディアも「安全な」地球温暖化の定義を伝えようとしてきました。

パリ協定は2度未満(気温上昇を産業革命前比で2度未満に抑える)を「安全」としました。海抜の低い島諸国は、1.5度未満じゃないと国家を存続できないと強く訴えました。1.5度も2度も、壊滅的な温暖化を避けるため、適応策を誤らずになんとかできるレベルを保つためのボーダーラインのように扱われてきました。

最近は、1.5度が「安全」の基準として定着したようです。そしてわたしたちが2020年代にどんな行動を起こすかによって、1.5度未満に抑えられるかどうかが決まります。

激しさを増す地球温暖化の影響

オーストラリアで猛威を振るうオレンジの炎と煙が、わたしたちに警告しています。2019年のオーストラリアにおける平均気温は、安全なはずの1.5度未満の壁を越えて観測史上最も暑い1年になりました。熱波と干ばつは気候危機の特徴でもあり、オーストラリアの森林火災が激化した原因でもあります。延焼面積は、2020年1月13日の発表で2770万エーカー(北海道と岩手、福島の合計と同じくらい)まで拡大しています。

オーストラリアで起こっていることは、化石燃料の使用によって平均気温が約1度上昇した世界各地にこれから起こり得ることを示唆しています。気温が1.5度上昇した地域にオーストラリアと同じ影響があるとは限りませんが、森林火災は気候危機が人間と自然環境に与える壊滅的な影響と、わたしたちの生活を支えているシステムがどれくらい気候危機に対してもろいかを見せつけています。

ニューサウスウェールズ州だけでも、過去数カ月間で12億以上に及ぶ動物の命が森林火災の犠牲になっています。また、燃え広がる炎から逃れるために、数千人が海岸まで追い詰められました(これらの人々はオーストラリア軍がボートによって避難させることに成功。過去最大の避難作戦になったそうです)。過去最大の森林火災は、ボランティアの消防士たちが命がけで消火活動を行なってきました(つい最近やっと給料が支払われることになりました。超遅い)。

「安全」ではなく「危険が少ない」世界を目指して

こんなの、巨大な石油企業でもない限り、「安全」だなんて言えませんよね。気候変動は、利益を求める化石燃料産業とその恩恵を受ける政治家たちの数十年にわたる嘘と誤情報によってもたらされました(オーストラリアのスコット・モリソン首相は石炭産業と深いつながりがあります)。これらの勢力は、この期に及んでもまだ気候変動の影響を軽く扱って、わたしたちをさらに危険な状況に追い込もうとしていますが、比較的小さな気温上昇でもこんなことになっているようでは、この先に待っているのは致命的な未来です。

それでも、「人類終わった」とあきらめる必要はありません。気温上昇を0.1度でも低く抑えることが大事です。つまり、二酸化炭素排出量を1トンでも減らす必要があるのです。

わたしたちが変えてしまった気候がもたらす差し迫った危険を避けるためには、二酸化炭素排出量ゼロ社会への転換を急いで、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が1.5度未満達成のために必要としている「根本的な社会システムの転換」を果たさなければいけません。

そうしていく中でわたしたちが忘れてはいけないのは、決してそれがすべての場所のすべての人に「安全な世界」をもたらすわけではないということです。

それでも守らなければいけない弱い人たちが絶えることはありません。災害にも見舞われます。1.5度未満に抑えても、人類が繁栄できそうな世界には見えません。

でも、それ以上気温が上昇した世界よりもよっぽどマシなことは確かです。

今よりも安全な世界になることがないとしても、少しでも危険が少ない未来を残すためには、たとえどんな状況になっても、あきらめたらそこで試合終了ってことですね。