新ジャンルなのか、ハリボテ一発ネタなのか。
Neonとは会社の名前であり、その会社の唯一の製品の名前でもあります。これを「製品」と呼べるなら、ですが。
CES会場でNeonは生命体だと説明を受けたんですが、物理的な体はありません。Neonとはコンピュータ上に作られた存在だそうですが、AIアシスタントではありません。って結局、Neonとは何で、人工人間とは何なんでしょうか?
ここまでで、何だそりゃと思われたなら、それは仕方ないです。CES 2020に先がけてNeonにまつわる噂が加速しはじめ、それとSamsungの関係とか、CESでの発表内容とかが取り沙汰されました。Neonが出せるものを出しきったらしい今、僕は多分、それが何なのかわかったと思います。噛み砕いていきますね。
Neonを作ってる人と会社

NeonはStar Labsが率いるプロジェクトで、Star LabsはSamsungが出資する独立のスタートアップ/インキュベーターです。NeonとStar LabsのCEOであるPranav Mistry氏は、Samsungの研究開発を担当するグローバルシニアバイスプレジデントでもあります。彼にはこれまで、初代Galaxy GearとかウェアラブルコンピューターのSixthSenseといったニュータイプのガジェットを作りだしてきた実績があります。
で、Neonとは?
短く言うと、Neonとは『Halo』におけるCortanaとか『Red Dwarf』におけるHollyみたいな、コンピューターが作り出す生き物です。それは考えたり学んだり、自身のバーチャルな体を操ったりができ、固有の性格や記憶を持っている、または少なくともそうあることが目標とされています。Neonは物理的な体を持たず(そのソフトウェアを動かすプロセッサとかコンピュータのパーツはあるんですが)、なので『攻殻機動隊』の電脳みたいなものと考えてもいいかもしれません。Mistry氏はNeonを、「テクノロジーの魂」を見つける手段だと言います。

とにかく、昨今みんなが接触しているSiriとかAlexaとかとは違い、Neonはデジタルアシスタントじゃありません。Neonは人間を助けるために存在しているのではないし、すべての質問に答えるべく作られてもいません。彼らは失敗もするし感情もあるし、もしかしたら自由意志まであるかもしれないし、おそらくは死ぬ可能性もあります(最後のははっきりしませんが)。
人間みたいなNeon、それがどしたの?
Neonが人間っぽいのは、人間をモデルにしているからです。Neonはコンピューターを使ってさまざまな人間の顔や表情、肉体を記録し、それらの情報をCore R3というプラットフォームに埋め込みました。Core R3はNeonの外見や動き、反応を自然なものにするための基礎となっています。

ちなみに「Core R3」のRとは、「Reality・Realtime・Responsiveness」というNeonが重視する3つの特性を表しています。Realityとは、Neonが何かのコピーとか俳優のキャプチャではなく、それ自身であるということ。Realtimeとは、Neonがロボットみたいに事前にプログラムされたコードなのではないということ。そしてResponsiveness(反応の良さ)とは、Neonが人間と同じように刺激に応え、Mistry氏いわくわずか数ミリ秒のレイテンシーでリアクションできることです。
すごそうだけど、それだけ?

なるほど、感情とか自由意志とかだけじゃご不満でしょうか? それなら、NeonにはSpectraという学習プラットフォームがあり、新しいスキルの学び方や感情の育み方、記憶の保持の仕方といったことを学んでいきます。Core R3がNeonの全体的な見た目とかクセ、動きを担っているとすれば、SpectraはNeonの性格や知性を支えています。
あとNeonはお話もできます。
Neonはスカイネット?
そうですね。いや違うか。多分…? それを判断するには時期尚早です。
ナイスだけど、NeonのCESでのプレゼンはどうだった?
CESではNeonの人工人間のコンセプトについて説明があった後、Neonの人たちが人間の外見の記録とモデリングを始めました。Mistry氏のデモでは、Core R3エンジンが十分賢くなり、Neon自らリアルなアバターを動かせるようになったことが示されました。

次にMistry氏ともうひとりがNeonの能力のライブデモを試みましたが、そこからがちょっと微妙な空気になりました。Neonの名誉のために言っておくと、Mistry氏自身が彼らの技術はまだ初期段階にあると前置きして、彼らがやろうとしているタスクや課題の複雑さを考えると、ライブでのデモは難しいんだと予防線を張っていました。
デモの序盤はスムースで、Mistry氏が3体のNeonを紹介し、周りにあったディスプレイの列に表示させました。3体とは、航空会社スタッフという設定のKarenに、ヨガインストラクターのCathy、そして学生のMayaです。そこからタブレット経由の操作で、各Neonはいくつかの動作、たとえば笑ったり話したりといった芸を見せました。ただこのときNeonたちは自力で動いたわけじゃなく、人の手による操作が必要でした。
ヒューマノイドのソフィアのデジタル版を想像していただくと、当たらずとも遠からずです。
各Neonはすごくリアルで、CGにありがちな、たとえば最近の『スターウォーズ』のレイア姫の若いときみたいなぎこちなさはありませんでした。実際、Neonが動いて笑うように言われたとき、ブースに集まってた人たちは衝撃(と、もしかしたら恐怖)のあまり小さくどよめいたくらいです。
でもそこからMistry氏は第4のNeonを登場させ、さらにNeonのニューラルネットワークを可視化したものを表示しました。つまりNeonの脳の絵です。Neonに英語、中国語、韓国語を話させた後(AlexaとかGoogleアシスタントより、ちょっとロボットっぽいしゃべりでした)Mistry氏はさらなるアクションをデモしようとしました。でもそのときデモがフリーズしてしまったようで、Neonが命令に対し、きちんと反応しなくなってしまったんです。

この段階でMistry氏は聴衆に謝罪し、彼らのチームが問題を修正してCES開催中に、より深いデモをお見せすると約束しました。ただ本記事執筆時点では、それはまだできていません。
しかもengadgetなどによれば、どよめくほど自然に見えたデモの多くが、じつは合成でなく単なるリアルな人間の動画だったことも発覚しています。人間のアシスタントじゃない、人工人間というコンセプトは興味深いんですが、実体としてはまだ人に見せられるほどのものがあまりできてないのかも…?
結局、製品としては何になるの?
少なくとも言えるのは、Neonが最終的には何らかの製品になるということです。いまはまだ完ぺきじゃないですが、Mistry氏は彼の作品を世に出したいのだと言ってます。2020年終盤のどこかで、NeonはNeon一色のイベント・Neon World 2020の中で、Neonソフトウェアのベータバージョンを立ち上げる計画です。このソフトウェアはCore R3を載せていて、ユーザーは自分で自分だけのNeonを作ることができるそうです。Neon社としては、Neonに生命と感情を与えるSpectraソフトウェアの開発を続けていきます。
価格は? ビジネスモデルは?
…どうもそういうものは、なさそうです。Mistry氏は儲ける方法を心配するより、Neonが「ポジティブなインパクトをもたらす」ことだけを望んでいるそうです。Mistry氏はまた、Neonプラットフォームはビジネスパートナーも使えるようになると言い、Neonを使って物を売ったりコールセンター代わりにしたりを可能にしていくそうです。Neonがいろんな役割をこなせれば、いろんなサービス業の代わりになれて、それがビジネスになっていきそうです。
Neonとセックスできる?

まあそうなんでもセックスと結び付けなくてもいいんですが、でも多分、なんでもセックスに結びついちゃうんですよね。この場合、「合意とは何か」みたいな哲学的な問題提起にもなりそうです。
もっと知りたい場合は?
Neon.lifeを見てみてください。
ほんとに?
ほんとに。
これからどうなる?
…どうなんでしょうね。NeonはCESにありがちなトンデモ一発ネタなのか、どうなのか。Neonの背景のアイデアはすごく興味深いし、SF作家がもうずっと書いていたことなんですが、でも今は、Neonがどれくらいちゃんとしてるのかもはっきりわかりません。

Neonが自分自身でどれだけのことができるのかとか、真に自律的な人工人間を作るという目標を達成するのにどれくらいかかるのかとかはよくわかりません。
真のリアルとは何か? それは奇妙で、野心的で、人類史の新たな時代の始まりとなるかもしれません。でも今はどうかっていうと、まだちょっとトンデモ感が拭えないんです。