ピークオイルを迎える前に、温暖化の影響がマックスなんですけど…。
北米トヨタのCEOであるJim Lentz氏が、2020年までに世界はピークオイル(石油の需要が供給を上回る)を迎えると予測したのが2009年のこと。正式に2020年を迎えたことですし、ちょっとここで彼の「予言」が当たっていたかどうかを検証したいと思います。
ピークオイル予想はことごとくハズレ
Lentz氏は2009年11月17日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催された「Commonwealth Club of California」でこう述べていました。
石油価格が上昇するのは疑問の余地がありません。未来のエネルギーを予測するモデルでは、2010年代の終わりにピークオイルを迎えることになりそうです。それが2017年になるか2020年になるかはわかりませんが、だいたいそのあたりになるでしょう。
Lentz氏は天然ガスのピークが2050年頃になる可能性が高いとしたうえで、他の燃料へのシフトがトヨタの挑戦になり、燃料セル車についてはまだ遠い道のりだと語っていました。
「10〜12年しか時間は残されていない」という見方を示したLentzでしたが、ご存知のとおりピークオイルはまだ訪れていません。2010年には1バレル82.54ドルに達した原油価格(インフレ補正後)も、それ以降は下落し、2019年には46.25ドルまで下がりました。
今ではピークオイルの話題を耳にしなくなりました。どうしてかというと、私たちは埋まっている石油を見つけるのがとにかくうまくなったんですよ。フラッキング(水圧破砕法)のように、届くはずのなかった場所を掘り尽くす技術まで身につけましたしね。
ピークオイルが来ても来なくても、地球が住めない環境になるまで、化石燃料の採掘を続けることでしょう。
20世紀に話を戻すと、多くの人たちがピークオイルのコンセプトについて躍起になって語っていました。1909年には、25〜30年分しか石油は残っていないと言われ、その後もそういう主張が度々繰り返されてきました。
・「地質学者によるとアメリカの石油は10年以内に枯渇する可能性も」(1966年8月3日|Brandon Sun)
・「アメリカ国内の原油は20年以内になくなる。政治次第で国外産の原油も残りは40〜50年」(1972年5月|Bulletin of the Atomic Scientists)
・「不運なことに、原油生産は2020年までにピークを迎え、それ以降は減産へ向かう」(1996年|ノーベル化学賞受賞者Richard Smalley氏)
・「世界の石油供給量は早ければ2010年にピークを迎え、減少し始める。原油価格は急上昇し、経済悪化につながると石油化学専門家グループ」(2002年5月25日|Index Journal)
石油生産は、温暖化を止めるためにやめるべき
ピークオイルのコンセプトが、石油と内燃機関エンジンへの依存を断たなければいけない理由ではありません。もっと単純に、私たちにとって生存可能な気候と、地球上に暮らす多くの生物種のために石油を見限る必要があるんです。
「Lentz氏のピークオイル時期の予想が間違いだったのなら、科学者も気候変動についての予測も間違ってるんじゃないの?」と指摘しようとする人、ちょっと待ってくださいね。
気候変動は「未来の問題」ではなく、私たちが今まさに目撃している問題なので、未来を予測する必要なんてありません。
世界は疑う余地なく気候危機の真っ只中にあります。オーストラリアを見ればわかりますよね。全土の日平均最高気温は観測史上最高を更新、2019年の年平均気温も観測史上最高を記録、森林火災は過去に例がない勢いで燃え広がり、軍によって避難させられた町もあります。
少なくとも25人の命が奪われ、まだ行方不明者もいます。12億以上の動物が森林火災によって殺されたと推測されていて、大気汚染が世界で最悪のレベルに達している都市もあります。首都キャンベラで飛行機から降り立った高齢者が、大気汚染がひどすぎたために呼吸器系疾患で亡くなったという悲しいニュースもありました。
オーストラリアの状況は悪化するばかりです。世界はその現実をみつめなければいけません。
今後数十年のうちにピークオイルに達する可能性はあるでしょう。でも、それはもう問題じゃないんです。Lentz氏の予想が不正確だったという事実がトヨタに危機感をもたらして、真剣に代替エネルギーへの移行に取り組み始めてくれることを願います。
トヨタは、2025年までに自動車販売台数の半分を電気自動車にしたい意向を表明しています。しかしながら、全米で販売されている電気自動車は、全体の約1.3%に過ぎません。
もしも人類がこのまま脱化石燃料を果たさずにガソリン車にでも乗り続けようものなら、地球はほとんどの人が住みたくもない星になってしまうことでしょう。
何度でも言いますが、オーストラリアを見てください。私たちは今、未来を垣間見ているのです。
美しくない未来を。