半分になった脳でも、正常な脳の神経ネットワークを凌駕できることが判明

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
  • [原文]
  • Kaori Myatt
半分になった脳でも、正常な脳の神経ネットワークを凌駕できることが判明
てんかんの治療で子供時代に大脳の半球を切除しなくてはならなかった大人の脳のfMRIスキャン。Image: Caltech Brain Imaging Center

脳が半分になったら、機能も半分になっちゃうんじゃ!?

そこが人間の驚異的なところなんでしょう。目の見えない人の嗅覚が非常に発達するとか、音感や感覚が優れるとか...そんな話は聞いたことがありますよね。

複雑に絡み合う脳の神経ネットワーク。どうやら完全な脳よりも半分になった脳のほうが、神経ネットワークがよくなる場合があるらしいです。失われた機能を補うための、人間の自然の力なのでしょうか。

米ギズモードのGeorge Dvorsky記者の報告です。


深刻なてんかん治療では、脳を半分も切除するようなケースがあります。最近、このような大脳半球切除をした人たちを観察して、脳の一部が失われても残りの半分が機能を補うことを示した論文が発表されました。

人間の脳にはすばらしい自然の能力が備わっています。機能を大きく損なってしまった場合に、その失われた機能を補う力がはたらくようになっているのです。実は、これは昔からよく知られている現象なのですが、学術誌『Cell Reports』に掲載された最近の研究では、幼少期に大脳半球切除術を受けた人たちが大人になったケースを追跡調査した結果が報告されています。これらのケースではいずれも脳の半分を切除したにもかかわらず、驚異的に残りの脳の異なる分野が神経的なつながりで失われた脳をカバーして機能を補正していることがわかっているそうです。

神経医科学の権威、カリフォルニア工科大学のドリット・キールマンらによるこの論文では、脳がその大部分を失ってからどのように自身を再構築していくかについてを詳しく研究しています。この研究では、これは「認知が補正されること」の証拠であるとしています。

「大脳半球切除術を受けたこの論文における被験者は、非常に高い能力を見せてくれました。言語能力にはまったく問題がなく、画像撮影をするときに少し会話するのですが、普通の人たちとなんの変わりもありませんでした」とクリーマン博士。「初対面では脳のほとんどがないということを忘れてしまうほどでした。コンピュータの画面に映し出されるfMRIの画像を見て、脳が半分しかないんだという現実をまざまざと見せつけられることになりました。今でもこの被験者たちが、普通に歩いたりしゃべったりしながら、この研究のために時間を割いて研究室まで来てくれたというこの事実に、驚愕するばかりです」

大脳半球切除術という大変な手術を受けた後にも、認知能力が非常に良好なケースがあるのです。この研究は、脳にどのような神経学的なプロセスが起こっているのかをさぐることが目的でした。

この研究の被験者は男性が4人で女性が2人。全員が20代と30代で、早い人では生後11ヶ月のときに、もっとも遅い人で11歳のときに全員が大脳半球切除術を受けています。これらの被験者のほかに、対照実験の比較となる統制群として6人の完全な脳を持つ人も被験者としています。

fMRIを使用して、被験者たちがリラックスしている安静状態の脳における、自発的な脳の活動に関連する信号を観察。視覚、動作、感情、そして高い思考を司っていることで知られる脳の領域に、特に集中して観察を行ないました。次にこのデータと、1842人の普通の人の脳のスキャンデータを網羅した「Brain Genomics Superstruct Project」のデータベースのデータと比較しています。

仮にこのスキャンがまったく通常と異なる脳ネットワークを描き出したとしても、そう驚くべきことでもありませんでした。なにしろ半分だけの脳が、通常ならもう半分が行なう機能も肩代わりしているのですから。でも...その予想は外れたんです。

驚くべきことに、大脳半球切除術を受けた患者の脳の活動は、安静状態のときの正常な脳に見られるものとまったく同じだったのです。しかし、そこには大きな違いがありました。半球だけしかない脳には、正常グループの脳よりもすぐれた神経ネットワークの接続性が見られたのです。

「この結果を総合すると...大脳半球切除後に大脳のネットワーク間のインタラクションが再構築されたということになる」と論文には記されています。社会性、運動神経、意思決定など、左右の脳が関係している機能を、片方だけの脳でどう補うのか、またどのようにして脳の機能が損なわれるのか、そんな疑問は尽きません。そしてそれらの疑問に、答えは出ていません。

これからの研究では、これらのつながりと「行動との相関性を調査する必要がある」とのこと。

今回の研究は準備的なものですが、これからを見据え、本研究チームでは実験の設計に改善を加えて、もっと大きな被験者グループでこの結果を検証していきたいとしています。

大脳半球切除術が被験者の幼少期に行われたことも、脳が激変した環境にすんなり適応したひとつの要因ではないかともされています。この研究結果は、外傷性の損傷や神経機能の損傷を受けた後にも、脳が機能を再構築する方法を知る糸口となりました。

「脳が半分しかないのになんの支障もなく生活できている人がいる一方で、脳卒中や自転車での転倒や脳腫瘍によるごく小さな脳の損傷なのに機能に深刻な影響が認められる場合もあります」とクリーマン博士。「機能の補正につながる脳の再構築の基本原則について探るのが私たちの使命です。脳の手術をするときの、より細かい設計を組み立てる際にも参考になりますし、脳損傷を受けた人たちの助けになるかもしれません」

人間の脳には私たちがまだ知らない驚異の世界を秘めているともいえます。デリケートで壊れやすい一面と、強靭な一面とを併せ持っているのです。

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