犬に食べられたソフトバンクマネー

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  • author satomi
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犬に食べられたソフトバンクマネー
Photo: Wag

犬の散歩アプリWagに投じた326億円は、どこに消えたんでしょうね…。

有望企業に、湯水のようにお金を投じて市場No.1を狙う、孫正義氏のビジョンファンドの戦略が裏目に出た好例として語り草になっているWag。7500万ドル(約82億円)の出資を募るWagに対し、ソフトバンクはそれまでの倍の6.5億ドル(約700億円)の評価で3億ドル(約326億円)を出資して、47%の株式を取得。役員2名を送り込んだのですが、2年近く経っても伸び悩んた状態のまま、3億ドル(約326億円)未満という出血プライスで会社を売りに出し、最終的には株をすべて手放すことになりました。

どうしてこんなことになったのか、流れを整理してみましょう。

ハリウッド生まれのワンちゃん散歩代行アプリ

Wagは2015年、Joshua&Jonathan Viner兄弟らが創業した会社です。歌手のマライア・キャリー、日本語が話せる美人女優オリヴィア・マンといったセレブが出資・推奨するハリウッド発ワンちゃん散歩代行アプリとして、全米100都市にサービスを展開しています。

ソフトバンクマネーが入ってトップ交代

2018年1月にソフトバンクのビジョンファンドから大型出資が入り、兄弟に代わってベテランのHilary Schneider氏(Lifelockを創業してSymantecに売却した実績あり)がCEOに就任。

2018年中期にはフィリピン、同年秋にはアリゾナ州フェニックスにコールセンターが開設され、一見拡大路線に見えたのですが、2019年初頭にはそれまでカスタマーサービスのあったハリウッドヒルズのオフィスが閉鎖となってスタッフが大量解雇され、ただ単に人件費の安い地域に対応窓口が移転しただけであることが判明。上層部も新CEOが住むサンフランシスコ&シリコンバレーの人に入れ替わって、ハリウッド色は徐々に薄れていきました(CNNが伝えた元社員たちの証言より)。

テクノロジーの不在

ただ、いくら人がシリコンバレーに入れ替わっても、テクノロジーが急に進化するわけではありません。Wagは、どこにでもあるオンデマンドサービスアプリに過ぎず、以下の動画でもSchneider CEO(当時)が「ペット関連テクノロジーは?」と聞かれ、答えに四苦八苦しています。

ここでは監視カメラ、埋め込みチップといった自社技術とは関係ないものを挙げて「使ってる人はいますか?」と会場に質問し、「自分も犬糸状虫症の予防接種の時期を忘れてしまうのが悩み。忘れないようにすることまで含めて、自動化が進んで、飼う楽しみだけになる」と未来を展望して上手に交わしていますけどね…。

今後のプランを聞かれても「成長、成長、成長」と言うだけで具体論は一切なくて、ひざに置いた犬の話題に逃げて、笑って誤魔化しています。痛い…

Wagのミッションは「JOY」。「最高の会社です」と言っていますが、秋には辞めてShutterfly新CEOに転身しました…
Apartment List – SPARK

競合に国内シェアを奪われ、海外進出は空約束で終わる

テクノロジー不在のまま、Wagは最大手のRoverを追いあげるどころか、ずりずりと失速し、2018年初頭には23%あったシェアが16%まで落ち込み、2019年第2四半期には売上が前年同期から12%近く減少(Second Measure調べ)。期待した海外進出も遅々として進まないまま、国内10都市に広げた程度で終わっています。やる気あんのかい!となりますよね…。

創業者の兄弟は今…

WeWorkと同じように、Wagも、本業の停滞とは裏腹に、ソフトバンクマネーを手にした人びとは急に起業づいて、ほかのビジネスにまい進しています。Wagブラザーズも経営を退いて半年後、投資ファンドを立ち上げてWagを退社し、2019年初頭にはな~んと犬と全然関係ない電動自転車シェアサービスのWheelsを創業して達者でやってるんですよ。またセレブ、ハリウッドがウリですけど、ソフトバンクから大型投資を取りつけた実績もちゃっかりPRに使われて。

露と消えたソフトバンクマネー。3億ドル投じて47%取得した会社を3億ドルで売りに出したという11月時点の報道に目を回す記者たち

それが可能ならこんな仮説も成り立つ

WeWorkの国家予算レベルのスキャンダルで霞んでしまっていますが、Wagの件も、7500万ドル(約82億円)要る会社に3億ドル(約326億円)投じる意味がわからないよ、と言われています。上の動画で記者さんが言っているように、Wagの手元には1億ドルがまだ手付かずのまま残っているんだとか。何もかもがおかしなことだらけの流れを見て、Bloombergがこんな面白いことを書いてました。

会社をそこそこ大きくするのにそこそこお金が要るときも、ソフトバンクに頼めば、めちゃ大きくする規模のお金を出してくれるので、そっくり銀行に寝かせておいて、そこそこ大きくする分だけ使えば、ソフトバンクはそこそこレベルの成長にがっかりする。「すみません、思ったほど伸びませんでした」と言えばずっと低い評価で株を手放してくれる。めちゃ大きくしないで手元に残しておいたお金で買い戻しは十分可能だから、(そこそこ)会社を大きくする出資が元手ゼロでもらえることになる!

まあ、現実には役員2人を会社に送り込んでいるのでまさかそんなことは…と思いたいですけど、Wagはこれだけ膨大な費用を使いながら、海外進出はおろかグルーミング、ペットホテル、獣医の他業種展開も一切実現できていないので、こういう妄想も成り立ってしまうんですよね…。

Sources: CNNBloomberg