脱・GAFA依存!
欧州委員会は先日、EUの技術力を"倫理的に"強化する5カ年計画に着手しはじめたことを明らかにしました。金儲けではなく「人々のために」役立つデジタル戦略を目指すEU。どのような取り組みが計画されているのでしょうか?
米テックジャイアントからの自立計画
発表によると、5カ年計画で特に注目すべき計画はふたつあります。ひとつは、人工知能やデータ収集などの分野に数十億規模の公的資金が投下されること。もうひとつは、人々のために技術が用いられることを保証する新たな規則を起草すること。いずれも、EUのテック経済が米国大手テック企業の独占的慣行の餌食にならないことを目指す方向性を示しています。
今回新たに提案されたロードマップについてNew York Timesは、Googleのような米ジャイアント企業への経済的依存に対する懸念を示していると指摘。ヨーロッパにはニッチ/中規模の技術メーカーがあるいっぽうで、多くの場合、同マーケットの雇用や税収はシリコンバレー、中国、韓国に流れているようです。
先日発表された文書によると、5カ年計画として何らかの具体的な法的措置を講じる準備が整うまでに、コンサルティングなどに数か月かかるようです。現在のところわかっているのは、こうしたプロセスで多くの公的資金が注ぎ込まれること。
膨大な公的資金を産業支援に投下する
たとえばHorizon Europeは、デジタル/産業/宇宙分野のAIにフォーカスした研究で150億ユーロ(約1兆8000億円)という膨大な収入を得ています。さらにDigital Europeプログラム(DEP)は、"データプラットフォームとAIアプリケーションの展開"に約25億ユーロ(約3000億円)。
欧州委員会によれば、こうした資金の大部分を「信頼性が高くエネルギー効率の高い、データ共有やクラウドインフラストラクチャなど、ヨーロッパのデータスペースに関する欧州High Impactプロジェクトに投資」できるとの見方を示しています。また、価値の高いデータセットをさまざまな共通データスペースで再利用できるようにするうえで、DEPによる各国当局の支援も可能であることを表明しています。
理想的なデータ管理の市場を作り出す
EU一般データ保護規則(GDPR)として知られるデータプライバシー法は、EU市民に個人データ保護のために堅実な枠組みを定めているいっぽうで、 データの移植などに関する現実的なルールが敷かれていませんでした。そうしたなかで、今回の発表によれば、欧州の規制当局が個人データと非個人データの両方に対して安全で単一の市場を作り出すことが目標とされています。
その市場というのは、理論的には「新しいデータフローを可能にし、消費者を保護し、競争を促進する」ものだといいます。ヨーロッパは今後数年間は拡大し続けるであろう、約500億ドル(約5兆5000億円)規模のデータ市場に参入する機会を与えることになるでしょう。
「現在は少数の大手ハイテク企業が世界のデータの大部分を保有している状態ですが、欧州にとっては今後、大きなチャンスが待ち受けています」と表明する欧州委員会の意向は次の通り。
今後数年でデータ量が急増し、ストレージはクラウドからエッジに移行します。 EUはデータ保護、基本的権利、安全性、サイバーセキュリティ、さらには内部市場や公共サービスにおける大規模な相互接続に関する強力な法的枠組みに基づいて構築することができます。
市民、企業、組織は、非個人的データから収集された洞察に基づいて、より良い意思決定を行なう権限があります。データは公的/私的、あるいは新興企業/大手企業に限らず、すべての人が利用できるものであるべきです。
スイス(正確にはEUでなくシェンゲンエリア)在住の身からすると、こうした計画はとってもヨーロッパらしいなという印象です。特に、目先の経済成長を優先するよりもまず、合理的な判断を模索するところ。
議論好きなローカルな人たちとの日常会話でもときどき思うのですが、「本来私たちってどうあるべき?」という原点回帰的で、地に足がついたマインドセットがあるような気がしています。(もちろん、そううまくいくことばかりではないけれど。)
5カ年計画は長いようですが、もしかするとあっという間に成果が見えてくるかもしれません。今回の政策は他地域にとってGAFA依存脱却の成功例となるのでしょうか? 今後もEUの動向に注目していきましょう。
訂正[2020/02/26]記事初出時、ユーロ/円のレート計算に誤りがありました。謹んで訂正いたします。