ちょちょちょっと、かなりイイよこれ!
スマートフォンやタブレットの処理性能があがるにつれ、「PCがなくてもコンピュータ作業はできるのでは?」という意見をたまに聞くようになりました。スマホ向けチップの性能アピールで「ノートPCに匹敵するパワー!」とか言ってますよね。
とはいえ、スマホやタブレット向けのOSやアプリはできることが限られているので、いつからともなく「OSはパソコン、チップはスマホ(などのモバイル向け)のマシンがあればいいのになあ」というアイデアがささやかれるようになりました。で、それを実現したのがMicrosoft(マイクロソフト)とQualcomm(クアルコム)がタッグを混んだ「Windows on Snapdragon」というプロダクトで、その最新機種がこのSurface Pro Xです。
今回、マイクロソフトから実機を借りて2週間みっちり使い倒したわけですが、結論から言うとマイクロソフトはWindowsとモバイル向けチップの融合を見事にやってのけました。
Surface Pro X

これはなに:CPUをインテルのPC向けチップから、クアルコムのモバイル向けチップ(ARMチップ)に載せ替えたSurface Pro
価格:14万2780円から。キーボードとペンは別売りで3万2560円
気に入った:広いディスプレイ、軽快なレスポンス、スマートに使えるペン、低発熱
気になった:ややバギーな挙動、処理性能を考えると割高
スマホみたいにサクサク使えるPC。これは理想のマシンでは?

試用している2週間、Surface Pro Xの使用感は理想的とも言えるものでした。ボディが薄い。スリープからの復帰が早い。バッテリー長持ち。ネット接続も早い(というか常時接続)。どこに文句をつければいいの?
利用感はかなりスマートフォンやタブレットに近くて、「なるほどこれがスマホ向けのARMチップの威力ね(正しくはスマホ向けではなく「SQ1」というカスタムチップですが)」となりました。PCを開くときの「よっこいしょ」という感覚が薄くて、スマホをアンロックするくらいの気軽さで、フル機能のPCにアクセスできるんですよね。
PCを持ち運んで仕事するタイプの人間にとって、Surface Pro Xの軽快さはやみつきになるレベルです。





あと地味に感動したのが、ほとんど発熱しないこと! 長時間の作業の後でも、Surface Pro Xの背面の温度は人肌より低いです。PCを長く使っていると熱がこもって処理落ちしたりすることがありますが、このマシンならその心配はなさそう。
意外とたいていのアプリは動く
マイクロソフトはSurface Pro Xを発売するにあたり、搭載されているARMチップ「SQ1」ではすべてのWindowsアプリが動くわけではない旨をアナウンスしています。このマシンを買うかどうか検討するにあたり、一番のハードルがソフトの互換性で、そこを気にする人も多いでしょう。
が、あまり心配しなくていいのでは、というのが私の感触でした。

たしかに、高度な処理を要求されるプロフェッショナルなソフトウェアやゲームは、このマシンではまず動きません。でも逆に言えば、専門的なソフトでなければ動くわけで。
私はふだん仕事用にSurface Pro 6を使っていますが、Surface Pro Xが届いたその場ですべての環境をPro Xに移し替え、その後2週間のあいだ、Pro 6にいっさい触れずにすべての仕事をこなすことができました。メールやチャットを使った諸連絡、記事の編集はブラウザ上で行えますし、Officeもきちんと最新バージョンが動きます。Slackもあるし、なんならチャット統合アプリのFranzも動きます。画像編集に使うPhotoshopだって(2018年バージョンですけど)動きます。
さらにWindowsユーザーならなにかしらお世話になっているであろう細々したソフトウェアも、私の利用範囲ではすべて使えてしまいました。
私の環境で唯一のネックだったのは、Adobe Lightroomがブラウザ上で動くオンライン版しか対応していなかったこと。たまたま2週間にわたって写真の作業がなかったのでセーフでしたが、もし撮影取材が入っていたなら、LightroomのためだけにPro 6を引っ張り出していたでしょう。
PCを使う仕事は世の中にたくさんありますが、ブラウザとOfficeアプリがあれば片付くものは多いように思います。もし、あなたの仕事がブラウザとOfficeで完結する...例えばエグゼクティブや営業マンなら、Surface Pro Xはベストパートナーと言ってもいいでしょう。
パーフェクトとは言いきれないあれこれ



さきほど理想的なPCとは言いましたが、弱点がないわけではないです。
中でも気になったのは、ARM版Windows10の挙動の怪しさ。たま~にコンマ数秒の待ち時間が発生したり、日本語入力アプリ(IME)にMS-IME以外のアプリを選ぶと、入力が止まるときがあったりします。
なお、米Gizmodoのレビューではブルースクリーンが数度発生したそうですが、私のケースではそこまでのクラッシュは1度も起きませんでした。
とはいえこれらの弱点はバグに分類されるもので、将来のアップデートで克服しうる弱点です。
MicrosoftはWindowsとモバイルの両立を成功させつつある
じつはMicrosoftが「モバイル向けチップを搭載した軽快なWindowsマシン」に挑戦するのは、Surface Pro Xが初めてじゃないです。
2012年に発売された初代Surfaceは、Windows RTというOSにNVIDIA(エヌビディア)製のARMチップを組み合わせたマシンで、動作はまあいいけど使えるのはWindows Storeのアプリだけ...という、ビミョーなマシンでした。その後、後継機のSurface 2も登場しましたが、生き残ることはできず。PC向けのパワフルなチップを採用し、フル機能のWindowsが動くSurface Proシリーズが誕生して、そちらが成功することになります。
Surface Pro Xは初代Surfaceと同じくカスタムされたWindows+モバイル向けチップという組み合わせですけど、アプリの互換性を大きく向上させて、多少の課題はあっても初代の失敗を回避しています。
半年ほど前に Lenovo Yoga C630のレビューで「1年後に期待したい」と言っていたWindows+ARMチップの組み合わせですが、マイクロソフトは早くも理想形に近づきつつあるように見えます。このあとに控えているSurface NeoはIntel(インテル)製チップの搭載が予告されていますが、今ならARMチップも選択肢として十分あり得ますね。
まとめ
- ・いわゆる「オフィスワーク」ならまったく問題なし。あてはまる人は多いのでは?
- ・処理性能はそこそこでも、スタンバイからの復帰やログインなど「挙動の速さ」は魅力的。
- ・AdobeがARM Windows向けの対応に前向きなので、1年ほどすれば化けるマシンかも。
- ・日本語入力でMS-IME以外の選択肢が現状ないのがひっかかる。
- ・キーボードとペンをフルにそろえるとけっこう高額。しかしペンを省く選択肢は考えにくい。