「スーパーマン」や「バットマン」でおなじみのDCコミックスの人気ヴィラン、ハーレイ・クインを主人公に据えた新作映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』。
ハーレイがジョーカーと別れたところから始まるお話だけど、昨年の話題作でアカデミー賞も受賞した『ジョーカー』とは繋がりがない立ち位置の作品なんですが、まぁこれがめちゃくちゃに面白かった!
今回はそんな『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』をレビューします。ラストまでは踏み込まない内容ですが、ストーリーやキャラクターには触れるので気になる方はお気をつけください。
シンプルなストーリーと各方面でハイレベルな作品
さてさて、まずはストーリーですが、ジョーカーとついに別れたハーレイ・クインが因縁の深い犯罪王ブラックマスクことローマン・シオニスに捕まって、ダイアモンドを盗んだスリの少女カサンドラを追わされることに。
そして、その中でシオニスのクラブで歌手をしているブラックキャナリー、シオニスの手下を殺す謎の暗殺者ハントレス、シオニスを追う刑事レニー・モントーヤと出会い、事態は思わぬ方向に転がっていくという展開。
そんなわけでストーリー自体はシンプルなのですが、序盤はハーレイ・クインが独特の語り口で物語を説明している形式で時系列が前後している構成で、ともすれば見づらい映画になっていたと思うのですが、絶妙な編集のおかげでテンポも良くってすごく面白い。
編集もさることながら、絵面としても超かっこいいシーンがたくさんあって脚本も撮影&プロダクションデザインも編集などなど制作面のレベルが凄く高い。監督のキャシー・ヤン監督はこれでまだ長編映画が二作目の新進気鋭監督なのですが、その才能をバッチリと発揮していますね。
LET’S 👏 FREAKIN’ 👏 DO 👏 THIS! 👏 #BirdsOfPrey@DojaCat@Normani@theestallion@halsey@IAMSUMMERWALKER@Saweetie@LaurenJauregui@kflay@charlottelawr@maisiehpeters@WHIPPEDCREAM@babygothxx@GALXARA@cynthialovely@iamjuceefroot@sofitukker@ADONA_music@jurneesmollettpic.twitter.com/449ORKq1Dr
— Birds of Prey (@birdsofpreywb) January 9, 2020
音楽では、有名女性アーティストを起用し劇中でかかる曲はすべて女性アーティストによるもの。どれも非常に印象的で、パワフルな女性主人公映画である今作にマジでピッタリ。劇場を出たらすぐサントラが聞きたくなるタイプの映画ですよ!
ちなみに、今作はハーレイ・クインの映画初登場作『スーサイド・スクワッド』で描写された彼女の生い立ちと、元カレであるジョーカーには言及するものの、基本的にはまったく関係のないお話。なので、まっさらな状態で見られる作品。
そして改めて言っておきますが、この世界のジョーカーとホアキン・フェニックス版のジョーカーは元がDCコミックスのジョーカーであるだけでまったく関係ありません。そういうもんなのです。
さらに今作のアクションシーンには『ジョン・ウィック』のチャド・スタエルスキ監督と『アトミック・ブロンド』のデヴィッド・リーチ監督の二人が創設したスタント会社「87eleven Action Design」が関わり、スタエルスキ監督も一部シーンの撮影を行なっているので、アクションがかなり良い。
DCコミックスの作品ではあるものの登場人物はほぼ全員スーパーパワーを持っていませんが、『ジョン・ウィック』的なアイデアに溢れる凶器攻撃シーンも多く、マーゴット・ロビー(ハーレイ・クイン役)を始めとする役者のフィジカルの良さも存分に活かし、アクション目当てで見に行っても十分に満足できる作品となっています。なんというか『チャーリーズ・エンジェル』の現代的リメイク版という感じ(実際のリメイク版も公開中だけど)。
個人的に一番お気に入りなのは、バイク&カースタントのシーン。あれを含め、とにかくメイキングが見てみたいと思うようなスゴいシーンが盛りだくさんでしたね。
ただ、『ジョーカー』の次となるDCコミックス映画ということで、ああいう方面を期待していくと確実に面食らってしまうであろう、めちゃくちゃに軽くて明るい作品なのですが、だからといって映画として劣っているなんてことはなく、個人的にはこっちのほうがだいぶ好き。
キャラクターものとしての魅力たっぷり
そしてDCコミックスの作品というわけで、気になるのはキャラクターなのですが、これがまたすごく良い。
メインキャラクターのハーレイ・クインは予測不能な犯罪者なわけですが、ただのイカれた人という感じではなく、サイコ野郎のジョーカーに人生を狂わされた人であり、悪いやつではあるけど人としての情を持っている人物として描かれています。
『スーサイド・スクワッド』に初登場した時よりもだいぶ奥行きのあるキャラクターになっていて、邦題のメインを飾っているにふさわしい魅力的なキャラクターとなっています(原題は『Birds of Prey (and the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn)』。)。
そんなハーレイを演じるマーゴット・ロビーは今作ではプロデューサーも担当していて、監督が参加する前の脚本の段階から製作に加わり、ハーレイを含めキャラクター作りに様々な意見を出していた様子。明らかに今回はその効果が出ています。
ハーレイだけじゃなく、悪党に雇われている歌手だけどヒーローの心を持ったブラックキャナリー、女性だからと言う理由で出世を阻まれつづけてきた敏腕刑事のレニー・モントーヤの二人もバッチリキャラが立っているし、原作コミックでのキャラクターの要素をほぼ完全に捨ててスリの少女として描かれるカサンドラは、ハーレイが追う相手でありながら彼女と疑似姉妹というか親子というか師弟というかという感じの関係に変わっていくのも面白いポイント。
でも個人的に最高だったのは『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』のヒロインのラモーナ役でおなじみのメアリー・エリザベス・ウィンステッド演じる、ハントレス。描き方によっては単純にカッコいいキャラになっちゃうところをちょっと抜けてる人物にしていて、オチ要員としたのはなかなかスゴい決断。自分が見た試写で一番笑いを取ってたのもハントレスでしたね。
またユアン・マクレガー演じるブラックマスクことローマン・シオニスも、超ナルシストなサイコで恐ろしいやつであると同時にいい塩梅に小物でゴッサムを牛耳ろうとする二番手の悪党って感じが出ており、そんな彼に心酔するサイコな手下のザーズも相まって、魅力的な主人公たちを食いすぎず食われすぎないいい敵キャラになっていたと思います。
そしてなによりシオニスは金持ちの家の出のミソジニスト(明らかに、トランプ大統領の要素が入っている)で、特に「女性にも気を使ってますよ」みたいなムーブをしながらも結局は自分のいいなりにならなければ怒る最低最悪野郎として徹底して描かれているのがいい。全宇宙の生命の半分は消し去らないかもしれないけれど、全人類の約半分の男性の中にもそれなりにいるタイプで、嫌な意味で身近で怖いヴィランなわけです。ユアン・マクレガーがまぁそういうムカつくやつを演じるのが上手いんだ! そしてそんな悪党を、主人公たちがぶちのめしてくれるのがなんといっても爽快であり、その最期もカッコ悪いのが最高。世界の女性差別主義者もああやって消えて欲しいと切に願います。
コミックが気になったら……
レビューからちょっと話がそれますが、ここでコミックのお話を。この映画を見るときっと、この映画の”原作”が気になるはずですが、今回の話はだいぶオリジナルでキャラクターいろいろと変わっているので「これ!」というのが紹介しづらい作品でもあります。
ただ、ハーレイに関しては、ジョーカーの元を離れて単独で活動を始めるジミー・パルミオッティ&アマンダ・コナー夫妻のシリーズの影響を多大に受けていて、直接的にネタとして引用されているところも多々あります。
そのシリーズの最初である『ハーレイ・クイン:ホット・イン・ザ・シティ』は邦訳版が出ていたのですが今は絶版なので、今オススメするとすればその続編シリーズの第2巻に相当する『ハーレイ・クイン:ジョーカー・ラヴス・ハーレイ』。ハーレイが親友のポイズン・アイビーと楽しくやってるところに元カレのジョーカーが現れ……という展開。
ハーレイ以外は先述のカサンドラを除けばキャラクターのコアな部分を残しつつ上手にアレンジしているので、この映画で好きなキャラクターはたぶんコミックを読んでも気にいるんじゃないでしょうか。ちょうどこの映画に合わせ、各キャラクターの登場回を集めた短編集『ハーレイ・クイン&バーズ・オブ・プレイ』が発売となっています。
ぜひ劇場で!
ともかく、こりゃこのキャラクターたちの今後が気になる!という作品で、これから色々展開していくであろうDCコミックス映画の一本としてはかなりうまく行っているんじゃないでしょうか。
実際、今度は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズででおなじみジェームズ・ガン監督がメガホンを取る『ザ・スーサイド・スクワッド(原題。シリーズ2作目に相当)』にもハーレイ・クインは登場予定。今回で前作の何倍も何倍もいいキャラになったハーレイをジェームズ・ガン監督がどう描くのか、だいぶ楽しみ。
アクションも派手だし、カッコいいシーンが盛りだくさんなのでこれはぜひ劇場で見ておきたいタイプの映画。最近色々大変な世の中ですが、そういう時に見るのにぴったりな明るい元気になる作品なので、すぐ見に行くことをオススメしますよ!
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は2020年3月20日全国公開。