新しい視点に気づくかも。
先日からお届けしているカメラ特集「さよなら、プロっぽいカメラ:僕らはカメラをこう選ぶ」。「画質優先、でかいカメラ上等!」という人から、「スマホで十分。速写性重視!」という人まで、カメラを選ぶ基準は人それぞれ。撮影する人の数だけ、カメラの選び方がありますよ、っていうことをお伝えしています。
今回は、「カメラというガジェットそのものを愛でる」視点ではなく、「自分が共有したい景色のためにカメラを持つ」という価値観を探るべく、写真を共有するためのSNS=Instagramを舞台に活動するインスタグラマーのガジェット事情に注目してみました。
お話を伺ったのは、ネイリストとして活動する傍ら、インスタグラマーとして観光局や航空会社のPR案件も行なっているmanashikaさん。彼女のフィードには、海外をメインにした印象的な写真が並んでいますが、どんなカメラで撮影されているのでしょうか?
Instagramを始めたきっかけ

トラベル系インタスタグラマーとしては日本トップクラスの、10万人以上のフォロワーをもつmanashikaさん。
10年ほど前にInstagramを使い始めたときは、身近な友人と相互フォローをしたり、海外のインスタグラマーや有名人をフォローしたりする程度だったそう。その後、海外でインスタグラマーが登場し、ハッシュタグが流行しだした2013年頃から、見られることに意識を向け、旅行やネイルの写真を投稿するようになっていったそうです。
子どもの頃からインスタントカメラを使って撮影することが好きだったと言いますが、本格的なカメラを使っての撮影はほとんどしたことがなかったそう。
ファインダーを覗いて撮りたい。メインのカメラは「α7 III」

現在のメインカメラは、ソニーのミラーレス一眼「α7 III」と「iPhone 11 Pro」。
Instagramを始めた頃はiPhone 4で撮影していたそうですが、その後画質に不満が出たためにミラーレス一眼を購入。
「今でもあまりカメラについて詳しいわけではないのですが、初めてミラーレス一眼を買ったときに画質が違うことに気付いて。そのときから、いいカメラで撮影して投稿したほうがいいんだという意識になりました」
以前の理想のカメラは「かわいいカメラ」だったとのこと。カメラの画質や性能というよりは、見た目重視で選んでいたそうです。その後、α7 IIIを選んだ基準は何だったのでしょうか。
「前の機種は、ファインダーがついていないタイプのミラーレス一眼でした。ちょっと調子が悪くなってきたのと、そろそろ新しいカメラが欲しくなって探してたんですよ。そのとき、ファインダーを覗いて撮りたいなと思ったんです。背面の液晶を見て撮るより楽しいかなと。
あとは、明るさとかを調整したり、ピントを合わせる位置を動かしたりするのも楽しいし。動画を撮るのも楽しいですね。本格的なデジタル一眼レフも興味はありますが、ちょっと重くて、旅行で持ち運ぶには向いてないかなと思ったので、α7 IIIに決めました」
もうひとつ、決め手となったのが「瞳AF」の存在。
「この機能を知ったのは家電量販店の方のアドバイスなんですけど(笑)。旅行の写真は、風景だけではなくて一緒に行く友だちを被写体にすることもあるので、顔がピンボケしない写真が手軽に撮れるかなと思って選びました」
月に1度以上は海外へ行っているmanashikaさんにとって、「小型軽量」というのはカメラ選びにおいて重要なポイント。画質のよさと持ち運びのしやすさのバランスがちょうどいいのが、α7 IIIだったわけです。
これまでのお話を総合すると、「小型軽量」「簡単」「きれい」というのが、今のmanashikaさんのカメラ選びの基準となっているようですね。
iPhoneは、α7 IIIを持ち運べない状況(船の上など)で使うとのこと。最近のiPhoneはかなり画質がいいので、メインとして使うこともあるそうです。
GoProで、ダイナミックな水中撮影がしたい!

その他の機材は、GoProにドローン、Osmo Pocket、そしてフィルムカメラのOLYMPUS TRIP35など。このほかインスタントカメラのチェキも数台持っているそうです。
GoProは、主に海上や水中撮影に使用。まだ日本で流行する前から使っていたそうです。
「海に潜るのが昔から好きで、以前はデジカメで水中撮影をしていました。でも、GoProを使っている海外のインスタグラマーのダイナミックな水中写真を見て、すぐに買いましたね」
それが約7年前。GoPro HERO3を、発売と同時に購入しました。さらに、そのインスタグラマーがアップした水上と海中が同時に映っている写真を見て、専用ハウジングがあることを知り、こちらも購入。GoProは海での撮影で大活躍しています。

GoProが3台あるのは、故障したときのための予備。旅先で写真が撮れないことが何よりも怖いとmanashikaさんは言います。
「昔、GoProを1台しか持っていかなかったときに、故障したことがあって。そのとき撮影したデータはすべて消えてしまうし、故障したあとはGoProで写真が撮れなかったのがトラウマになってしまって(笑)」
そしてもうひとつの理由が、「友だちに撮ってもらうときにラクだから」ということです。
「自分が被写体になるときは友だちに撮ってもらうことが多いんですけど、水中に潜っているときは、自撮り棒にGoProを付けて、連写の設定にして、友だちにはシャッターを押してもらうだけでOKなのが、GoProのいいところですね。
動画で撮影しておいて、あとで静止画を切り出すこともありますよ」
確かに、GoProはインターフェイスがシンプルですから、操作説明もラク。「このボタン押してくれればいいから」と言えば、たいていの人は対応してくれます。自分だけでなく、他人が使うことも考えてカメラ選びをするというのは、さすがの視点です。
ドローンもかなり初期の頃から使っています。
「操作も自分でやりますよ。海外でも撮影許可が必要なところもあるので、その場合は事前に申請をしてから行きます」
友だちに「業者の人?」と言われるくらいなのだとか。たしかに、許可申請まで個人でやるのはなかなかです。
感光してるのがかわいいから、フィルムカメラも好き
機材の中で異彩を放っているのが、フィルムカメラ「OLYMPUS TRIP35」。1968年発売のかなり古いカメラです。なぜこれを使っているんですか?
「フィルムを使っている友だちが、簡単だと言っていたので。でもこのカメラかなり古くて、撮影すると感光しちゃうんですよね」
「感光」とは、カメラのどこからか光が漏れてフィルムに入り込んでしまう状態。感光してしまうと、その部分が白くなったり赤くなったり、もやがかかったような状態になります。一般的には感光すると失敗写真とされてきましたが、最近ではわざと感光させてその雰囲気を楽しむこともあります。
「感光して写真が変になっちゃってますけど、逆にかわいいかなーって。ピントがあってなくてボケていることもあるんですが、ボケててもかわいいと思いますね」
フィルムで撮影した写真は、現像に出したときにデジタル化してCD-Rに焼いてもらっているとのこと。フィルムも手軽に楽しんでいるようです。
写真の色味を合わせて、テイストを統一
manashikaさんのInstagramのフィードを見ていると、全体的にテイストが統一されているのがわかりますが、これは意識して行なっているとのこと。

「写真の色味などは、旅先によって統一するように意識していますね。この旅ではこのフィルターでとか、この旅ではオレンジっぽくとか。フィードをスライドして見ていくときに、この辺りはフィリピンで、この辺りは京都で、ここはアメリカというような感じにしたいので。
加工はモバイル版のAdobe Lightroomをメインに使っています」
写真の加工も本式なやり方。フィルターをかけることはもちろん、トリミングや明るさの調整などもLightroomで行なっているそうです。
Instagramを、ただ単に写真を投稿する場としてではなく、フィード全体をひとつの作品のように考えているのがmanashikaさんの特徴。さらに、投稿はほとんどの写真が縦長のものになっています。
「これはインスタグラマーあるあるかもしれません。スマホで、Instagramのタイムラインで写真を見るとき、縦長の写真のほうがインパクトがあって、写真がしっかり見えるんですよ。横写真だとスマホの画面に対して写真が小さくなってしまいますよね」
なるほど! 「Instagramは正方形」というイメージでしたが、今は縦長でも横長でも投稿できるようになっていますからね。長年トップインスタグラマーとして活躍しているmanashikaさんならではの、フィード全体やタイムラインでの表示のされ方などに対する細やかなプロデュース能力には脱帽です。
写真が先か、カメラが先か、それが問題だ
「海外に行って、写真を撮って、Instagramにポストするのが日常で、それがとても楽しくて充実しているので、このまま楽しんでいけたらなと思ってます。旅行に行かないと、ストレスで蕁麻疹出るんじゃないかと思うくらい!」と笑うmanashikaさん。旅行が好きで、海も好き、そして写真も好き。本当に「好き」なものばかりで溢れているフィードだからこそ、manashikaさんは多くのフォロワーを惹きつけるのでしょう。
僕らはどうしても、カメラの性能や新製品などに注目し、そこに意識が集中してしまう悲しい性(さが)を持っています。でも、manashikaさんの話を聞いているうちに、本来は「写真を撮る」という行為が一番の目的で、その目的に合わせてカメラを選ぶのが順当なのではないかと思いました。
ただ、新しいカメラを手にするとテンションが上がるのも事実。コロンブスの卵ではありませんが「写真が先か、カメラが先か」という問題は、根が深そうです。
これからは、もっと写真自体を楽しむことを意識して、今持っているカメラについて考えてみたいと思った、3月の昼下がりでした。