人の命を守るための科学的知見が、着々と積上げられてきています。
世界各地で広がる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、そしてそれを引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を封じ込めようと様々な対策が打ち出されている中、ウイルスの高画質イメージ化に成功し、宿主細胞へ侵入するメカニズムを再現した研究が発表されました。
新型コロナウイルスのゲノムは、2003年に猛威を振るったSARSコロナウイルス(SARS-CoV)と8割がた同一であることがすでに解明されていました。さらに、どちらのウイルスも宿主細胞のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に結合することがわかっていました。
今回の研究のねらいは、ACE2受容体が双方とどのように結合するかを比較することで、新型コロナウイルスの侵入メカニズムを詳細に解き明かすことだ、と研究者のひとり、浙江西湖高等研究院(Westlake Institute for Advanced Study)のRenhong Yan氏は語っています。
ウイルスの姿を原子レベルで「撮影」
先月19日付で発表された米テキサス大学の研究と同じく、今回の研究も低温電子顕微鏡法(cryo-EM)を使って新型コロナウイルスが活動する姿を原子レベルで「撮影」しています。
「撮影」と言っても復元されるのは3次元イメージ。まず、被写体となる新型コロナウイルスとそのターゲットであるACE2受容体を凍結・固定してから、電子のシャワーを浴びせて3,000枚以上の2次元イメージを取り出します。その2次元イメージを立体的に組み合わせることで、最終的にこちらのような美しく詳細な3次元イメージを復元できるそうです。

ACE2受容体はおもにヒトの肺・心臓・腎臓・腸の細胞膜上に存在します。本来は血圧上昇を抑制するはたらきをしていますが、SARSコロナウイルス、および新型コロナウイルスの侵入口として利用されてしまうことがわかっています。
治療薬開発の鍵

前述したテキサス大の研究では、新型コロナウイルスのほうがSARSよりもACE2受容体に結合しやすいことが判明しており、感染力の高さをものがたっていました。今回の中国の研究は、まだ完全にACE2受容体の構造を描き出せていないものの、ウイルスと直接作用する部分に関しては個々のアミノ酸にいたるまで詳細に描き出すことに成功しており、なぜ新型コロナウイルスのほうが結合しやすいのかを化学的に解明する鍵となりそうです。
今後新型コロナウイルスのワクチンや治療薬を開発していくうえで重要な青写真となりそうな今回の研究。いかにウイルスを「だまして」ACE2受容体への結合を阻止するかがポイントとなるそうです。
すでにアメリカでは世界に先駆けて新型コロナウイルスのワクチンが臨床試験段階に入ったそうですし、これからウイルスとの戦いがいよいよターニングポイントを迎えてくれればいいのですが…。
一刻もはやく治療薬が開発されて感染が治まるよう、そして平常な世界を取り戻せるよう、祈るのみです。
Reference: Science