なぜ!? コウモリを何度も海にぶん投げるワシ

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  • author Jake Buehler - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
なぜ!? コウモリを何度も海にぶん投げるワシ
Image: Marcus Chua via Gizmodo US

コウモリが新型コロナウイルスの元凶だったからって、いくらなんでもこれは…!

自然界において無益な戦いはご法度なはず。しかし、マレーシアから送られてきたこの画像を見るかぎりでは、ワシが罪のないコウモリを海にぶん投げて水責めにしているではありませんか。

いかにもヒーローっぽいイメージがあるワシなのに、一体なにがそうさせたのでしょう。

まずは生き物たちを紹介

シロハラウミワシの威風堂々たる姿
Photo: James Niland via Gizmodo US

米ミシガン大学が運営するAnimal Diversity Webによれば、シロハラウミワシ(Haliaeetus leucogaster)は全長80cmほどで、イヌワシと同じ大きさを誇る猛禽類。

主に東南アジアの海岸・島嶼・河口・河川近くの森林に棲み、肉食です。上空で旋回飛行しながら獲物に狙いをさだめ、一気に急降下して仕留めます。

お休み中のヒメオオコウモリ
Photo: Marcus Chua via Gizmodo US

こちらはヒメオオコウモリ(Pteropus hypomelanus)。体長約20cm、翼長は120cmにも及びます。

同じくAnimal Diversity Webによれば、インドからオーストラリアにかけて生息する草食動物で、フルーツや花の蜜を好んで食べるそうです。エコーロケーション(反響定位)を使わずに大きな目と耳で情報をキャッチし、フッサフサの体を持つため英語では「飛ぶキツネ(flying fox)」と呼ばれています。群がって木にぶら下がる姿は、ちょっと得体の知れないフルーツのようですね。

要は、無害。コウモリと聞くとつい吸血系を思い浮かべてしまうのですが、ヒメオオコウモリは平和主義者なのです。

しかし、事件勃発

事件は2017年に起きました。

マレーシアのリンバ研究グループに所属する保全生態学者、Sheema Abdul Azizさんらは、研究のためにマレーシア半島の東海岸沖にあるティオマン島を訪れていました。彼女たちの目的は昆虫をつかまえる昼行性の小さなコウモリ。無事観察も終え、帰りのフェリーを待っていたAzizさんたちは、せっかくだからと近くのダイビングリゾートまで足を延ばして、海岸の林に群がるヒメオオコウモリを観に行ったそうです。

ところが、ビーチに面したカフェで一息入れようとしている矢先に、とつぜんシロハラウミワシが現れてヒメオオコウモリを一匹かっさらっていったものだから、残されたヒメオオコウモリたちの騒ぎようったら…!

「私たち三人、驚きすぎて数秒固まってしまいました。沖へと飛んでいくシロハラウミワシの姿を、ただぼうぜんと見つめていたんです」とAzizさんは米ギズモードに当時の状況をメールで語ってくれました。

一緒にいたMarcus Chuaさん(リー・コンチェン自然史博物館所属の研究員)が幸運にもカメラを持ってきていたので、すぐさまこの異常事態を記録し始めました。

シロハラウミワシは、鋭い爪でヒメオオコウモリをつかんだまま海の方向へ飛んでいきました。そして……。

Video: Marcus C/YouTube

シロハラウミワシは100メートルほど沖まで飛んでいったところで、次の瞬間、つかんでいたヒメオオコウモリを海にふり落としました。そしてさらにもう一羽のシロハラウミワシも姿を現わし、上空を旋回し始めたのです。ヒメオオコウモリ、トリプルピンチ…!

それでもヒメオオコウモリはあきらめませんでした。シロハラウミワシが海岸沿いの止まり木から見下ろす中、そしてAzizさんたちが一心に見守る中、陸へ向かって弱々しく泳ぎ出し、20分後には息絶え絶えになりながらもあとちょっとで海岸にたどり着きそう…というところまできました。

するとそのとき、無慈悲にもシロハラウミワシが急降下してきて、またヒメオオコウモリを沖へとかっさらって波間へ落としたんですと…。どんだけ性悪なんですかっ!!

禍々しい運命に翻弄されるヒメオオコウモリ。見るに堪えません…。
Photo: Marcus Chua via Gizmodo US

まだなんとか余力が残っていたヒメオオコウモリは、また陸へ向かってあがきにあがいて、今度はなんとか浜にたどり着いたそうです。完全に体力を使い果たし、片方の翼には穴が開き、不運なヒメオオコウモリはもう砂の上に横たわっているのが精いっぱいの様子だったそうです。

残念ながら、この時点でタイムオーバー。Azizさんたちはフェリー便に乗り遅れないよう現場を去らざるを得ず、その後どうなったかはわからずじまいでした。

とにかくすごいことを目撃してしまった…! と興奮したAbdul Azizさんたちは、これこそ論文発表のチャンスと考えました。そしてこの度、コウモリの専門誌「Journal of Bat Research & Conservation」に研究を発表したのです。

シロハラウミワシの腹の内

「当初、なぜワシが捕まえた獲物を抱えたまま沖に向かったのかわからなかったんです」とAzizさん。「最初にコウモリを波間に落としたとき、ワシが経験不足か、はたまたドジっぽい性質で誤って獲物を落としてしまったのではと考えました」

ところが、ヒメオオコウモリが2度目に捕われてドロップされたときに、カフェの店長さんが「こういうのはこの辺ではよくあることなんだよ」と話してくれたことで、これが単なるアクシデントではなさそうだと理解し始めたそうです。Azizさんいわく、「その話を聞いた瞬間、ワシはこれをわざとやっているんじゃないかって…。もしかしたらワシは私たちが思っていたよりもずっと賢い生き物なんじゃないかって思い始めたんです」

Azizさんたちは最終的にシロハラウミワシがヒメオオコウモリを殺して食べるところまでは見られなかったので確認できないのですが、このいたぶり行為は狩りの手法のひとつだと考えられるそうです。

ヒメオオコウモリは、大柄なうえに力強いアゴと鋭い歯を持つ手強い相手。獲物としてはリスクが伴うので、あえて海に落として弱らせることでシロハラウミワシの狩りを有利にしているのではないかと仮説を立てています。

機会選択的捕食者

Azizさんたちの仮説について有識者の意見を聞いてみたところ、おおむね見解が一致するようです。

猛禽類を専門とする生物学者のJennifer Coulsonさん(テュレーン大学)によれば、シロハラウミワシは非常に機略に優れた捕食者であるため、このような事例は興味深いと感じても驚きはしないそう。

さらにCoulsonさんは、シロハラウミワシが機会選択的捕食者(opportunistic predators)であることも指摘しています。たとえば、でっかいカニの甲羅を割るために高いところから岩場めがけて投げ落としたりするのだとか。また、海上ではイルカの群れを尾行し、イルカから逃げ惑いながら海面に上昇してくる魚を狙うそうです。

鳥類生態学者のJames Bednarzさん(北テキサス大学)も、今回のイジメはコウモリの抵抗する力を弱めるためのものだと考えるそうです。

「シロハラウミワシがよく捕食する魚や死肉は抵抗できませんが、比較的大きくて噛みついてくるヒメオオコウモリは別。ならばヒメオオコウモリを確実に捕えるために、合理的な新戦略を練らなければいけなかったのでしょう」と話しています。

ですから、今回の行動は捕食のためのストラテジーであって、ドSのエンターテイメントではないだろうと考えるそうです。鳥の世界にもいびりや吊し上げはあるそうなんですが、若鳥に多く、今回のような成鳥には見られない行動なんだそうな。怖。

狩りの影響力

コウモリを研究しているAzizさんから見れば、このように捕食されるヒメオオコウモリの個体数も把握しておきたいところ。今後もしシロハラウミワシが増えた場合は、なおさらのことヒメオオコウモリの減少が心配されます。

それと同時に、なぜこんなにまでしてシロハラウミワシがヒメオオコウモリを捕食したいのかも知りたいところだそうです。もしかしたら、ヒメオオコウモリ以外に食べられる獲物が減っているからかもしれません。

「それはまた別の研究論文が解き明かす謎ですね!」とAzizさん。今後もヒメオオコウモリとシロハラウミワシとの攻防から多くを学ぶ機会がありそうです。

Reference: Animal Diversity Web 1, 2

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