リモワは不幸中の幸いか、ただの不幸か。
新型コロナウイルスは世界中ですでに11万人以上に感染し、4,000人以上の命を奪っています(米ジョンズホプキンズ大学がまとめたサイトによる)。WHOが「インフォデミック」と警鐘を鳴らすほどに情報が錯綜し、だれもが疑心暗鬼になり、不安を感じています。今後どんな展開が待ちかまえているか知る由もありませんが、確実に言えるのは、歴史に名を残す惨事となりうること。悲劇の渦中に巻き込まれている家族も大勢いるなかで、このグローバル化した世界の脆弱性を痛感せずにはいられません。
わたしたちの多くはまだ悲劇のインパクトを直接感じていないかもしれませんが、すでにその予兆に取りこまれているはずです。嵐の前の静けさ、とでもいうのでしょうか。この耐えがたい静けさのなかで、私たちは迫りくる恐怖をただ待つしかないのです。
なにかしなければ、とわたしたちは行動に移せることを懸命に探します。そして、いまでも実行できること――実行すべきこと:正しく手を洗う、むやみに顔を触らない、おじいちゃんやおばあちゃんや近所の人たちを見回りに行く――いろいろなことを実行しながら不安な時間をやりすごします。
日常生活の崩壊、そして働き方改革
幸運にもまだ感染の影響をダイレクトに受けていない人たちが直面しているのは「禁忌」という名の日常生活の崩壊です。国際旅行はもちろんご法度ですし、いかなる旅行でもアウトかもしれません。人ごみはだめ。会議やイベントはキャンセル。学校は休校。図書館などの公共機関も閉鎖されたところがほとんどです。
そして、近年稀に見るスケールでワークスタイル変革が起こっています。アメリカで、世界で、完全に閉鎖される企業も出てくるなかで、社員たちに自宅からのリモートワークを推奨しているのです。
実体験に基づくリモワのリアル
今後新型コロナウイルス感染症がどのような顛末を迎えるのか、わたしにはまったく見えていません。けれども、リモートワークに関しては、自身の経験も含めてちょいちょい言いたいことがあります。
米ギズモードの編集チームに入る前、わたしは7年間完全なるリモートワークに従事していたので、多少なりとも意見を持ち合わせています。
家からリモートで働くってすばらしい! と感じる人もいるでしょうし、閉じこもってるとクッソイライラするからマジすぐ自由になりたい! という人もいるでしょう。労働環境は人によってそれぞれ異なってくると思うので、わたしは個人的な経験からしかものを言えないのですが、もし最近になって急にリモワするはめになった人の参考になれば幸いです。以下、私が長年のリモートワークで学んだことを列挙します。
1.通勤がないのはすばらしい。本当に純粋に喜びでしかない。
2.すべてのWeb会議・ビデオ会議用のソフトウェアは最悪であり、とにかく慣れるしかない。インターネット接続があやしげになるたびに自分がとんでもないろくでなしのように感じるが、なるべく平常を装って会話し続けるしかない。
3.だらだらした部屋着はすごくいい。ただし、常にだらだらした部屋着のままでいるとそのうち自分が腐ったように思えてくる。
4.もし自宅にホームオフィスなど仕事に専念できる場所がある人はラッキー。ひょっとしたら人によっては必要不可欠かもしれない。でもたまにはソファに座るのもいいもんだ。あたたかくていい天気だったら、ちょっと外に出てみるのもいい。アイスティーかなんかを持って。
5.入浴は依然必要ではあるが、急を要さない。風呂に入らずとも恥をかくリスクは低くなる。
6.ちょっと閉所恐怖症ぎみになってきたら、思い出してみよう。あなたは地球上でもっともラッキーな部類に入る。だって人によっては健康上の理由でいつも、必ず、ずっとずっと自宅で仕事をしていなければならない人だっているのだから。
7.ラッキーといえばその反対もそうで、いくら自宅から働きたくたってそうもいかない職種というのもたくさんあるわけで、もちろん自宅にインターネット接続がない人だっているわけで。
8.インターネット接続があるだけでかなりマシなのだが、ここでインターネットプロバイダが意地悪な地主のような存在として浮上してくる。わたしがリモワしていた7年間のうちの4年間はDSLサービスしかなく、料金が超高かったわりに5Mbしかないコネクションが最悪最低で今思い出してみても怒りがふつふつと湧き上がってくるほどDSLプロバイダには殺意を感じていた。
9.ワイヤレスルーターをリブートするのにも限界がある。頃合いを見計らって速やかにケーブル会社に修理を依頼するべし。
10.ときどき休憩を入れて、あとお昼も食べたほうがいいかな、たまには。
11.メールやSlackメッセージなんかには即レスしておかないと、あなたの上司は確実にあいつ遊んでやがるって決めつけてくるのでご用心。最悪なシナリオが現実になると思うべし。
12.もしあなたがリモワしている間にもまだ会社に残っている同僚がいたら、ちょっと仲間はずれな感じになってしまうのはしょうがないこと。のけ者にされて悪口言われてるかも~なんて妄想をふくらませて疑心暗鬼にならないよう。
13.孤独には喜びがある。
14.あなたのワンコ、ニャンコ、その他のペットたちは、あなたがずっと家にいてくれてメッチャクチャ喜んでくれる。一日数分でもいいから、なでなでしてあげよう。
15.しばらくリモワを続けていると、あなたはちょっと「変人」になっている可能性が高い。わたしの場合、田舎に住んでフサフサのペットたちに囲まれてリモワしているうちに、一時的に人間と会話する能力を喪失した。
16.自宅からリモワしながらも家事に追われるのは、勤務時間外に家事に追われるのと同じぐらいウザイ。
17.同僚からのメッセージに返信するのに20分もかかったのは、トイレにいたからだとは絶対に言わないこと。誰もそんなこと知りたくないから! なにかほかの言い訳を考えるべし。
18.ステータスに表示されるアイコンや、自動変換機能などの微細な違いにより、あなたが自宅のパソコンからSlackに返信しているのか、それとも外出してほかのことをしながらもSlackにだけはスマホから返信しているのかは確実にバレる。
19.停電やインターネットの不具合は地獄。パニックに陥ることは間違いないが、冷静に職場の誰かに状況を伝えなければいけない。
20.ネットも40分ほど見続ければ飽きてくるもの。だったら仕事、仕事。
21.誰にも悟られない自信があるなら、ふとんに入ったまま仕事をしたって全然OK。
22.具体的な勤務時間を設定するのは理論的にはとてもいいことなのだけど、もちろん24時間年中無休なのはみんな知っているし逃れられない定めでもある。
23.好きなおやつをストックしておくべし。
24.「ごめん、さっき電話中で」という言い訳はそう多くは使えないぞ。
25.2つめのモニターを買えるなら買うべし(もし会社が費用を負担してくれるならなおさらのこと)。
26.昼間のテレビは最悪。ケーブルテレビのニュースはもっと最悪。
27.日中家にいると宅配便を受け取れるので都合がいい。ただし、その宅配便を届けに来てくれる人々は仕事柄絶対にリモワできないことを考慮して、親切にするべし。
28.いずれかのタイミングで、オフィスの存在意義が意味不明になってくる。
29.もしリモワ中に子どもたちも一緒に家にいるとしたら……、正直なんといっていいかわからない。とりあえず、ご武運を祈る。
30.ときどき散歩をしてみよう(上司には「席を外しております」と断っておけばよろしい)。
31.いずれ人間が恋しくなってくるはず。だれかとコミュニケーションを取りたい願望をなんとか抑制して、がんばるしかない!