イーロン・マスクが病院に送った「人工呼吸器」とは何だったのか?

  • 31,259

  • author satomi
イーロン・マスクが病院に送った「人工呼吸器」とは何だったのか?
Image: @NYCHealthSystem/Twitter


思ってたんと違う…。

コロナ最前線で戦う医療現場にTeslaが約束の「人工呼吸器」を送り、NYの病院から感謝の写真(上)が届いて、イーロン・マスクCEOも「力になれてうれしいです! もっと必要だったら言ってください」とまんざらでもない様子でやる気を滲ませていたところ、横から「それ人工呼吸器じゃない」、「CPAPに見える」という声が湧き起こり対応に苦慮しています。


価格60分の1、5年落ちの

Finantial Timesによると、写真の40台はResMed社が生産を終了した5年落ちの「S9 Elite BiPAP」。BiPAPは無呼吸予防用の陽圧鼻マスクのCPAPと似てますが、吸うのと吐くので圧力を分けられるタイプのものを指します。気になるお値段は800ドル(約8万7200円)で、集中治療室用で不足が叫ばれている5万ドル(約545万円)の侵襲的人工呼吸器 (気管挿管や気管切開をおこなって直接気道を確保するタイプの人工呼吸器) とは似て非なるものです。


「FDA認可のResMed製とPhilips & Medtronic製の人工呼吸器1225台を中国のサプライヤから確保した」とマスクCEOは言っているのですが…。


タイ洞窟救助の既視感

マスクCEOと言えば、前にもこんなことがありましたよね。タイの洞窟のサッカー少年チーム救出のときにも出番のないミニ潜水艦を送って美談と報じられ、「あんな長い潜水艦じゃ50mも進めない。ただの売名行為だった」と現場の感想を述べた救助ダイバーのVernon Unsworthさんを「ペド野郎」と罵って名誉毀損で訴えられたのは記憶に新しいところではないでしょうか(裁判では「幼児レイプ犯」、「12歳女児と結婚した」というCEOの言い分は間違いで、マスク家の執務室長が探偵にダイバーの弱み探しを依頼し、探偵が100万円の報酬欲しさにでっち上げたウソ情報であることがわかっています)。

今回も現場では「病院が必要なものとも、マスクCEOが確保・寄贈したと言っているものとも違う」(匿名職員)という一抹の違和感はあるのですが、ないよりは助かるのでみなありがたく頂戴しているみたいです。

転用できないの?

FDAの新ガイドラインでは、マスクCEOの言うように、CPAPやBiPAPなどの非侵襲的人工呼吸器もCOVID-19の治療に転用していいと明記されています。ただ、米国麻酔学会によると、高度な人工呼吸器と違ってCPAPはウイルスをまき散らすんだそうですよ? 現に、感染者129人、死者40人を出して米国初のクラスタとなったシアトル郊外の特養施設「Life Care Center」でも、CPAPの使用が爆発的感染の原因ではないかと疑問視されています(Kaiser Health Newsより)。


BiPAPについては、3Dプリントのチューブとフィルターを加えて、軽症やトリアージの急場しのぎに使っている病院もありますが、ResMed製のS9が救急用に使えるかどうかはわかりません。マウントサイナイ医科大学はICU用に改造した試作機を公開していますが、飽くまでも間に合わせであり、「人工呼吸器が空いたら直ちに使用をやめること」とありますよ。


人工呼吸器の生還率

人工呼吸器不足が叫ばれる今日この頃ですが、呼吸器で回復する人の割合は驚くほど低いのが現実です。ロンドンの集中治療国立監査研究センターでは98人中退院できたのは33人どまり。武漢は22人中わずか3人。米シアトル市内の病院に呼吸困難で入院した24人の場合、人工呼吸器が必要な人は18人で、入院段階で蘇生禁止令が出た人は4人でした。けっきょく12人が死亡し、5人が退院、4人がICUから一般病棟に移動し、3人はICUで人工呼吸器継続となっています。


麻痺になったり、高齢の場合は寝たきりになるリスクも高いのに、全身麻酔なので自分の意志で断ることもできないと、アメリカでは結構問題になっています(事前に家族で意思確認が必要)。挿入する麻酔医も毎回、「患者さんが見て聞く人間は自分が最後になるかもしれない」という覚悟で臨むのだといいます。そんな生死の境で間に合わせの道具というのも勇気が要りますよね…。


マスクCEOは「細かな仕様書も送った」と釈明しています。また、5日にはTesla独自の人工呼吸器の動画も公開して名誉挽回に懸命です。GMとフォードも開発レースで火花を散らしているし(なんせGMは政府に10億ドル[1090億円]請求中で高すぎると一度却下された)、業界の垣根を越えたコンソーシアムで低コストの呼吸器製造に励む英国とはやや空気が違いますね…。


Sources: Financial Times

    あわせて読みたい

    powered by