AI執事「ヒュスク」に込められた願い:人類がAIと渡り合えますように。『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』ガジェット解説

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  • author 西谷茂リチャード
AI執事「ヒュスク」に込められた願い:人類がAIと渡り合えますように。『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』ガジェット解説
©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

インテリジェンス、アンリミテッド。

4月9日の25時10分から、ギズモードがガジェットコーディネートを担当したTVアニメ、『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』が放送開始されました!

Video: アニプレックス/YouTube

記念すべき第一話では、主人公の神戸大助(かんべ だいすけ)が有り余る財力と最新のテクノロジーを駆使して、半ば強引に爆破予告事件を解決しようと奔走。その隣にいた人情派刑事である加藤春(かとう はる)は大助の暴力的な捜査に巻き込まれて…。

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
左:神戸大助 右:加藤春

なーんていうデコボコ刑事コンビのストーリーが始まったわけですが、ボンド映画の隠れた主人公がスパイグッズであるように、本作でも隠れ主人公たるガジェット達が数々登場します。

というわけで作中に登場するガジェットの監修をしてきたガジェットコーディネーター、ギズモード・ジャパンは今週から……毎話の放送終了後にガジェットを生み出したバックストーリーを紹介していきます!

ガジェットのどこにこだわり、なにを決めたのか。第一弾では、主人公の傍若無人ぶりをサポートするAI執事「ヒュスク」の名前について解説します。

急速な進歩を見せる AI テクノロジーは、とても便利な一方で進化の果てに人類を淘汰してしまうとも言われています。そんな未来を避けるべく、人類を救うテクノロジーが生まれて欲しいという願いを込めて、ヒュスクの名前を考えました。

問題解決にも人間らしさを

まずヒュスクとは、アニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の主人公、大富豪かつ刑事の神戸大助が使う AI執事です。あらゆる命令に対応し、たとえばうん百億円するプライベートジェットの購入決済すらこなしてくれる、超絶パワフルな AI音声アシスタントみたいなもの

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

ヒュスクの英語スペルは「HEUSC」で、「Heuristics Scaler(ヒューリスティクス・スケーラー)」の略になります。

ヒューリスティクスといえば、「経験則」「推論」「試行錯誤」などがいい例で、人間が毎日自然と行なっている問題解決方法を指します。時間をかけて綿密に最適解を探すのではなく、比較的短時間である程度精度の高い解を出す手法の総称です。

そしてスケーラーは、「スケールの大きい・小さい」をコントロールできる存在のことで、なにかの「規模」を大きく/小さくできる能力を指します。

そのふたつを合わせた「ヒューリスティクス・スケーラー」には、ヒューリスティクス的な問題解決方法を大きなスケールで運用するシステム = 短時間であらゆる問題に対処できる AI、という意味が込められています。言ってしまえば、人間的なAI です。(実はこうした意味や略が決まる前に「ヒュスク」という音が先に決まっていたのですが、そちらに関しては記事末にて…)。取り決められたシンプルなロジックに従ったり、狭い範囲のタスクしかこなせない現代の AI とは、一線を画すモノ。

こうして書くともっともらしい感じがしますが、AI執事が必ずしも人間的な振る舞いをする必要はありません。それでも「ヒュスク」にこういった意味を付けたのは、とある願いを込めたかったからなんです。

人類の未来は AI と二人三脚

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Image: metamorworks/Shutterstock

しばらく前から、AI が新聞の見出しやテレビの特集に取り上げられるようになりましたよね。深層機械学習=ディープラーニング・アルゴリズムがAIの第三次ブームを引き起こし、AI のパターン認識力を活用するエンジニアや企業、様々なアプリが出てきました。その一方で、AIが人の仕事を奪うのではないか、AI が悪用されるのではないか、果てには AI が人類の知能を大幅に超えるシンギュラリティー(スーパーAI)が訪れるのではないか、と、AI を危険視する声も増えてきました。

新しいテクノロジーにはいい面もわるい面もあるので、積極的に使うことも危機感を持つことも大事だと感じます。しかし、AI の危険性の難しさは「生身の人間では AI を乗り越えられない」ところにあります。AI の開発を完全に禁止でもしない限り、AI はいずれ人間の代わりになり、そのうち人類を必要としなくなるレベルまで進化します。そうなると、生物的な限界のある人間単体では、工学的に無限に進化し続けられる AI に淘汰されてしまいますよね。

そこで、人類が生き残るには、2つの究極の道があるらしく、人類の味方となる AI を作って奮闘してもらうか、人類自身が AI と同等の能力を得るかです。前者の研究も相当に面白いですが、僕がより気になっているのはだんぜん後者の研究。なにせ「人類と AI を融合させるのが手っ取り早い」として、脳にチップを埋め込もうとしているのです。生身の人間を卒業して、サイバネティックな生き物に進化しようと……。

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Image: Neuralink/YouTube

この系統の研究を進めている代表格として去年話題になったのが、イーロンマスクの設立したNeuralink (ニューラリンク)社です。AI 融合するには脳とコンピューターの情報のやりとりを超高速・低遅延にすればよくて、端的に言えば脳とコンピューターをチップで直接繋げれば自ずと道が見えてくるのだといいます。どういうことか?

たとえば、いまは音声アシスタントなどの AI に言葉で「アレクサ、明日の天気は?」などと聞きますよね。そして、音声やディスプレイ経由で答えが返ってくる。これがチップ経由になると、脳内で「明日の天気は…」と考え始めた瞬間に「…晴れのち曇りか」と直感的にわかってしまうわけです。なにかを暗算するときも、数字や数式をすこし意識すれば答えが頭に勝手に浮かんでくる。なにかの知識を得たいときも、題材をすこし意識すれば1から10まで深く理解できてしまう。

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Image: Neuralink/YouTube

要は、脳の活動をチップで読み取ることで命令を言葉にするステップを排除し、AI の導き出した答えを瞬時に脳にインプットできれば、AI と融合できているはずということになります。ここまで融合したらば、この AI は独立した人工知能と呼ぶのではなく、人間の知能を拡張するモノ=拡張知能= EI(Extended Intelligence)と呼ぶべきテクノロジーになります。

人間に計り知れないほど高度な知能を与えるガジェット= EI は、今後数十年以内に実現するはず。しかし肝心なのはタイミングで、ヒュスクにはEI がシンギュラリティーの到来よりも先に実現して欲しいという願いが込められているんです。

なぜなら、『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の世界に存在するであろうヒュスクの開発者も、同じように考えたはずだから。

作中では「極めて優秀な AI」が限度だった

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』のガジェットコーディネートをしているとき、常にふたつの条件をクリアする必要がありました。ひとつは、作中に登場するガジェットやテクノロジーを「無限の財力があれば実現できそうな、5年〜10年先くらいの技術レベルにすること」です。要はSFすぎず、現実的すぎず、頑張れば本当に作れるかもしれない!とワクワクさせる、ちょうどいい感じのガジェットであること。

もうひとつは「便利すぎてストーリーを無意味にさせちゃうガジェットはダメ」という条件。というのも、ハイテクになればなるほどアレもコレも技術で解決できてしまうようになるんです。そうすると主人公が頑張る必要がなくなったり、事件がボタンひとつでスパって解決されてしまったり…。ストーリーの生まれる機会を大幅に削ってしまって、アニメにならなくなってしまう。犯人側もハイテクで反撃してくればせめぎ合いが発生しうるものですが、5年〜10年先の技術を独自開発している神戸家はあまりにも圧倒的ですからね。

このふたつの条件と照らし合わせたとき、僕は EI を選択肢から排除せざるを得ず、主人公をサポートするシステムは AI執事となりました(そうしないと主人公がほぼほぼ神的な存在になってしまうため…)。

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

そして時は経ち、「ヒュスク」に与える意味を考案するタイミングになった際は、次の条件で考えました。「EI とまでは行かない技術レベルで、『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』世界にいるであろう神戸家のエンジニアが全力を出し尽くして作った AI執事」ってどんなだろう。

神戸家からAI執事の開発を任された者ならばまず、「神戸家の方々が下す命令を、速やかに遂行できるべき」と考えたはずです。でもそこで終わらず、用意周到であろう神戸家のエンジニアともなれば、来たるべき EI 時代の到来に備えるために「人間と融合しやすい AI であるべき」とも考えたと思うんです。

速くて、人間と相性がいい。このふたつを同時に実現したいのであれば、人に近いヒューリスティクスを大規模に展開する AI は有力候補。ヒューリスティクスの弱点は速さの代償として試行錯誤などにリソースがかかるところですが、それも心配ありません。命令を遂行するときに多少のミスや無駄→高額な出費が発生したとしても、残高が無限(Balance:UNLIMITED)の神戸家なら屁でもないはず。素晴らしいシステムです。

今はまだ EI に届かなくても、EI の前身となる AI なら準備できる。神戸家のエンジニアならこう考えるんじゃないかという思いを込めて、ヒュスクをヒューリスティクス・スケーラーの略としました。

そしてその奥にひっそりと、「人間が AI と対等にやりあえる力を与えてくれる EI に、早く到来して欲しい」という願いも込めました。シンギュラリティーが先に到来して神のようなスーパーAI が君臨する世界も面白いですけど、なんだったら自らサイバネティックなガジェット人間になって宇宙を旅してみたい…。

でもそのためには、スーパーAI に「EI を禁ずる」なんて先手を打たれないよう、EI が先に開発されている必要があります。なので、現実世界にもヒュスクのような「EI の前身となる AI」が現れますようにと願っています。

ちなみに、ヒュスクという名前に行き着くまでにも、いろいろありました。決定までの経緯をまとめたミニセクションも置いておきますので、気が向いたらぜひ。

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥


アナログな手法と言い間違えから生まれた不思議な名前

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の本読み(脚本打ち合わせ)に参加し始めて半年経ったころ、主人公のAI執事の名前を決めることがギズの課題のひとつとなりました。

初めのころは、毎日思いついたカッコよさげな名前を考えてメモっていって本読みで提案していたのですが、どれもしっくりこず、計30以上の名前はボツに……。

このままでは進まないし、テックメディアとしてもうちょっとロジカルに進められないか?と思い、くるっとアプローチを変えて、いま世の中にある音声アシスタントの名前から考えてみることにしました。

アレクサ・Siri・ グーグル・クローバ・Bixby、あなた方のようにカッコイイ名前はどうすれば思いつくのか。

まずこれらの名前の真似したいところは、ユニークさ・言いやすさ・音の識別しやすさでした。そしてそれぞれの名前を何回か言い続けていると、「アレクサ」の素晴らしさに気づきます。母音がA・E・U・Aと同じ音が連続せず、子音もL・K・Sと比較的に豊富。それでいてアレクサ=ALEKUSA=Alexaは英語でも日本でもかなり近い発音で、似たようなプロダクト・サービスがパッとは思いつかない。

僕の進むべき道は決まりました。

聞き覚えのない子音と母音の組み合わせをリストにして、それらをランダムに3つ繋げるプログラムにぶっ込む。あとは出てきた組み合わせを読み上げていけば(結局アナログ)、いずれしっくりとくる名前に出会うはずです。

……はずなのに……行き着いたのは「HEUEXE=ヒュクス」(ヒュ スク じゃなく)でした。子音の種類はHY・K・Sと多いけど、母音はUだけだし、大して言いやすくない……。ンアーーーと頭を抱えましたが、それでも時間は無情に進んでいき本読みの日は来てしまったので、一応自信を持ってヒュクスを提案してみました。

すると、何名か言い間違えている方はいたものの、とりあえずヒュクスを仮採用して進めることになったんです。

よかったー、とひと安心していたら……お察しの通り。ヒュクスを提案した日に発生していた言い間違えは「ヒュスク」のことで、いつの間にか浸透し、いつの間にか正式採用になっていたんです。命名ってこんなモノなのでしょうか(笑)。

そのあともアニメ制作の現場は動き続け、有馬さんによってヒュスクのアイコン等がデザインされ、音響スタジオでは「ヒュスク」のセリフがマイクに吹き込まれ始め、僕はヒュスクの英語スペルと意味を考え……気づけば4月9日深夜に第一話が放送されていました。

本当にいろいろあったけど、誕生日おめでとう、ヒュスク。これからの活躍も期待しているよ!


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