ウィルスとハリケーンがセットでやってきた日には、もうどうすればいいのかわからない…。
ハリケーンが来る前に避難するだけでも大変です。新型コロナウイルスのパンデミックの真っ只中で避難しなきゃいけない状況を想像してみてください。
大西洋のハリケーンシーズンがはじまるのは6月1日ごろ。まだ1カ月半ほど先です。2020年の最新予測によると、大西洋で発生するハリケーンの数は、平年を上回る可能性が高いのだとか。その一方で、コロナウイルスがすぐにどこかへ行ってくれる気配はなさそうなため、悪夢のようなシナリオが現実になってしまうかもしれません。
今年はかなり活発なハリケーンシーズンになりそう
コロラド州立大学が発表したハリケーンシーズンの年間予測は、先行き不安な現状に追い打ちをかけるようなものでした。感染力の強いウイルスに見舞われているだけでも大変なのに、そこに破壊的なハリケーンが加わってしまうかもしれないなんて、ダメージのレベル高すぎです。
科学者の予測によると、今シーズンに発生するハリケーンは8つ。そのうち4つはカテゴリー3(風速が毎秒約49メートル以上)を上回るメジャーハリケーンになる模様。平年は発生数が6つでメジャーハリケーンになるのは2つなので、今年はかなり活発なハリケーンシーズンになってしまいそう。また、分析結果によれば、最低ひとつのメジャーハリケーンがアメリカに上陸する可能性は69%もあるみたいです。やめて。
活発なシーズンになりそうな理由は、大西洋の海水温が高くなっているのと、それに関連する気圧の低さにあるそうです。そして、気候変動は海水温を上昇させ、大気中の水蒸気を増加させてしまいます。ハリケーンシーズンが活発化する要素がそろいすぎて夢も希望もありません。
怖いのはハリケーンだけじゃない
この予測だけでも怖さ全開だというのに、新型コロナウイルスがさらに不安を大きくさせています。 フロリダやルイジアナ、サウスカロライナなど、ハリケーンとは切っても切れない縁がある南部の州では、夏の間もずっと新型コロナの入院患者が絶えないだろうと考えられています。フロリダ州では、ロン・デサンティス知事が散々抵抗したあとにやっと外出禁止令を出しました。米時間4月12日現在で感染者数が2万人を超えているルイジアナ州では、多くの公園や商店が閉鎖されたままになっています。しかしながら、大惨事をもたらすハリケーンシーズンを避けたいのであれば、アメリカはすべての関係者が協力して対応する必要があると、ネブラスカ大学オマハ校のサマンサ・モンタノ危機管理・災害科学准教授はEartherに語っています。
モンタノ氏はさらにこう述べています。
選出された議員たちが、コロナウイルスをできる限り速やかに収束させるために、ありとあらゆる手を尽くすことが本当に必要です。ハリケーンシーズンとコロナウイルス流行のピークが、できる限り重ならないようにしなければいけません。
パンデミックとハリケーンが重なったときの対応策は?
パンデミックとの絡みがなくても、ハリケーンだけで十分に悲惨です。ハリケーン「マリア」はプエルトリコで3,000人近い死者を出し、「ハービー」はヒューストンに大洪水を起こし、「イルマ」は観測史上最大の被害をもたらした2017年のハリケーンシーズンにフロリダ州沿岸を襲いました。ハリケーン「マイケル」は、その翌年にフロリダ州パンハンドル地方に壊滅的なダメージを与えています。アメリカはこれらのハリケーンのあと、公衆衛生上の危機なしでもひどい状況に陥りました。そこに新型コロナウイルスが加わるとどうなるのか想像もつきませんが、緊急事態管理者はクリエイティブな対応策を考える必要があります。
避難所の問題
まずは、避難の問題があります。車で安全に避難できる人はいいかもしれませんが、公共交通機関を利用している人がソーシャルディスタンスを保ちながら避難するのは難しいだろうとモンタノ氏は指摘しています。病院全体が新型コロナウイルスの対応で手一杯になっている中での避難は、さらに複雑なタスクになる可能性があります。
モンタナ氏はこう話します。
病院から避難するのは平時でも難しいことなのに、そこに感染力の強いウイルスを加えるとさらに難しくなるのは明白です。
災害時に用意される避難所は、設備に不安があることが多いです。ハリケーン「カトリーナ」の時に、何千人もの被災者を詰め込んだニューオーリンズのスーパードームは、失敗例のひとつです。しかも、新型コロナウイルスが重なると、人々を約2メートル離さなければならないという新たな課題が追加されます。
避難にホテルを利用する人々の問題
災害時には、多くの家族が緊急避難所ではなく連邦政府によって提供されるホテルを利用します。しかし、新型コロナウイルスが大流行してから、ホテルは閉鎖されています。まず、ハリケーンが接近するまでに、ホテルは従業員を配置した状態で稼働している必要があります。そして、最も重要なこととして、ホテルの利用を望む家族はホテル代を支払うために十分な資金を持っていなければいけませんが、失業率が過去最悪の水準になっている今、多くの人々にとってはもう不可能な選択肢かもしれません。
避難したくてもできない人たちへの対応の問題
さらに、避難したくても家から出られない人たちの問題があります。捜索と救助はハリケーン上陸時と通過後の重要な作業です。また、荷物をまとめて逃げるのが不可能な人もいます。その一方で、避難先でコロナウイルスに感染するリスクがあるのを心配して、自宅でハリケーンをやり過ごそうと考える人が増える可能性もあります。でも、コロナウイルスはそんな事情を考慮して流行を中断してくれるはずもありません。災害時には、緊急対応者がウイルスに感染して拡散させるリスクが高くなります。また、いつもなら捜索や救助、救援物資の配布に協力するボランティアが、コロナウイルスを理由に活動への参加を避けるかもしれません。
モンタノ氏はこの問題についてこう話します。
ボランティアの数が減ることで問題が起きるかもしれないし、ボランティアが集まっても、ソーシャルディスタンシングを徹底できなくてリスクを負わせてしまうかもしれません。
復旧作業の問題
そして、ハリケーンが去ったあとの復旧の問題があります。復旧作業は、瓦礫の撤去と再建を担う労働者にかかっています。ただでさえ容認できないような危険な条件下で働いている作業員がウイルスにさらされないようにするのは難しいはずです。
重なる災害がリスクを増幅させる
緊急事態管理機関が事前にこれらのリスクに備える時間をとる地域は適切に対応できるかもしれませんが、政府機関はすでに資金も人員も不足しているうえに、新型コロナへの対応でいっぱいいっぱいになっています。この状況が1カ月半後にはじまるハリケーンシーズンをリスクの連鎖にしてしまうのです。
モンタノ氏はいくつもの災害が重なるリスクについて話します。
災害研究者はみんな、災害が単発ですむことはないと注意を呼びかけています。災害は互いに絡み合い、ひとつの災害が別の災害をさらに危険なものにするのです。
現状をみていると、あと1カ月半後までに、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いて、自治体や個人がハリケーンに備えられるとはとても思えません。もしも感染爆発が起こって外出禁止令が出ている地域にハリケーンが上陸して避難命令が出たら…。また、ハリケーンだけじゃなく、集中豪雨による洪水、干ばつや森林火災もコロナウイルスと重なればリスクが大きくなります。今年の夏は、長くなりそうです。