This is 僕らのDIYフューチャー!
テクノロジーや最新ガジェットを愛するギズモード・ジャパン読者の皆さんであれば、「未来的」「フューチャリスティック」という単語にもピクリと反応するものがあることでしょう。でも、この未来という言葉、ワクワクはするもののビジュアル化しようとすると方向性も雰囲気もフワっとしていて描きにくいのも事実。
そんなフューチャリスティックなビジョンを映像に落とし込もうと、アート&ビジュアルクラフトチームのMETACRAFT(メタクラフト)が、あるMVを制作しました。
このメタクラフト、昔からギズモード・ジャパンとよく一緒に仕事しています。主宰の西條鉄太郎さんが学生時代にギズモードでライターをしていたことから付き合いが始まり、一緒に「バーチャル・ディスコ」というVRディスコのプロジェクトをやったりしています。また、ポートレイト撮影や動画制作でも、メタクラフトのメンバーや、元メタクラフトのスタッフが活躍しており、何かと近しい関係です。
METACRAFT
アート&ビジュアルクラフトチームとして、西條鉄太郎が2014年1月に設立。バーバライザー、ビジュアライザー、ハッカー、雑用からなる現在4名で活動中。デジタル演出、映像制作、マシン開発など幅広い領域のクリエイティブを行なっている。
今回メタクラフトが制作を手がけるのは、ラッパー・JP THE WAVYの新曲「OK, COOL feat. VERBAL」のMV。渋谷の街で撮影された「Cho Wavy De Gomenne」のMVを見たことがある人もいるでしょう。今回の楽曲は、m-floのメンバーとしても知られるVERBALさんも参加しています。
その制作現場を取材してきましたので、ビハインドとしてこの記事も楽しんで頂きつつ、本記事公開同日に公開となったMVを味わってみてください。
いろんな方向の未来要素を蒐集
というわけでやってきたのは、江東区にあるスタジオBooty。こちらは「スチームパンク」エリアと名付けられておりました。

メタクラフトと共に、撮影中のWAVYさん。この場面では曲を倍速で再生しそれにリップシンクも合わせた映像を撮影し、編集で通常速度に戻すことで躍動感のあるビジュアルを構築していました。

撮影カメラとは離れた場所で、大きなモニターを見ながら遠隔でピントを操作。こうした撮影はチームならではですね。

にじみでるキューブリック感…これは未来っぽい…!


スモークを焚いて、スライダーでカメラを寄せたり引いたりして撮影します。背後のブルーとイエローのライトもライティングのアクセントに。使用しているカメラは、真の4Kが撮れるBlackmagic Pocket Cinema Camera 6K。

同じ場所での撮影、でも今度は寄った魚眼で90年代後半MVっぽいノリを出します。このノリと環境のギャップはフューチャーレトロ?

さきほどの広間の奥にはコックピット的な環境が。いくつかの小物はメタクラフト側で制作し、ごちゃごちゃ感をアップさせたとのこと。

ん、中央に見えるアレは…。

完全に『トップをねらえ!』の合体のハンドル…! 確かにあの作品もSF、すなわち未来…。こう来ると、ほかにもいろんな意匠が込められてるかもしれませんね。

ロボットっぽいスーツに身を包んだキッズダンサーの姿も。この衣装も新たに制作したとのことで、市販のバックパックにくっつけてるんですって。

パッと見、全然手づくりしたものには見えない。カッコいいね。

銀塗りしたVERBALさんをグリーンバックで撮影中。このあとマスクで抜いてVFXをかけたりパーティクルを飛ばしたりするそうです。なんかこう、高次元存在っぽい。そういえばVERBALさんのラップする歌詞のなかに「イーロン・マスク」って単語が聞こえたんですけど、楽曲的にも未来のカルチャーを歌った感じなのかな。

メタクラフトとしてのものづくり、その指向性

続いて、制作を担うメタクラフトを総括する西條さん、映像ディレクターのVictor Nomotoさんのお二人に、今回のMV制作についてお話を伺いました。
──監督として、このプロジェクト全体に対してどんな作業をされていましたか?
西條さん(以下、西條):今回のやり方はかなり特殊で、誰がどこをディレクションするって明確には決まってなかったんです。その中で僕がまとめ役として動いていました。WAVYのクリエイティブはWAVYのパートナーでもあるNiinaが今までディレクションしていて、WAVY本人とだけではなく彼女の話を汲み取ったりしながらWAVYらしさとは何かを全員で一緒に考えていきました。
──西條さんの役割はどういったものでしたか?
西條:映像制作はチーム一丸となって行います。例えばカメラマン、VFX、メイク、衣装、それにパフォーマンスするWAVYたち、それぞれの分野のプロフェッショナルやクリエイティブが混線しないよう、全体をひとつにまとめるのが僕の仕事です。
──今回のMVのコンセプトはどうやって決めていったのでしょうか?
西條:もともとWAVYたちから、この曲は宇宙っぽい感じでとオーダーがありました。はじめ、CGにかなり力を入れている海外のミュージッククリップをリファレンスとして見せてもらったんですが、限られた条件のなかで自分たちらしくやるなら、むしろCGゴリ押しよりもディテールを詰めたメッセージ性のあるSFをやった方がいいんじゃないかって方針になりました。
──それで宇宙を軸にアイデアを広げていったのですね。
西條:アイデアをカタチにしていくうえで、場所、人、予算、期限など、状況に応じてベストな方法は変わります。今回はチャレンジングな要素もあるなか、ギリギリを攻めようと思っていたので、よくあるMV撮影のように最初に決めた100%の絵コンテ通り機械的に作りあげる手法ではなく、その場のグルーヴに応じて演者も撮影班もアドリブを多用し、このメンバーでやれるベストを、現場で模索しながら積み上げていきました。なので撮っている段階ではアウトプットイメージは誰にもわからない(笑)。もちろん、当然ですがスタジオを使える時間も限られているわけで、何の準備もなく撮影するわけではなく、ストーリーボードに沿ったスケジュール管理はPMがしっかり機能しながらやっています。ただ、やってみないとわからないことも多いし、それを面白がれるメンバーだった。
──あと気になったんですけど、『トップをねらえ!』の合体レバーがありましたが…。
西條:そういう日本のSFへのリスペクトも細かく散りばめてますね。
──今回のMVのプロットについて説明してもらえますか? あまり説明しすぎるともったいないので、軽くで。
西條:そうですね…。ある目的のために火星に向かっているWAVYたちがいるんですけど、途中で人工知能が暴走しちゃって隕石に衝突。そこで高次存在とWAVYたちが巡り合う、というのが概要です。MVではあるんだけどショートフィルムっぽい要素もあるので、楽しんでもらえればと思います。
──プロットを受けて、どのようにして映像イメージを作っていきましたか?

Victor Nomotoさん(以下、Nomoto):限られた条件の中で、CGに頼りすぎなSFっぽいものを作ろうとすると、むしろダサくなるかなと思って。はじめは、昔の日本の特撮をオマージュして、逆にわざとアナログっぽさを出すアイデアがありましたね。4:3で書き出すとか、VHSで撮るとか。いろんなアイデアがあったんですが、唯一最初から一貫してるのは、宇宙ですね。
そうやって話をしていくうちに友達づてでVFXできる人がやってきて。最初は「わざとグリーン抜きしたよ」ってレベルのVFX感を考えていたんですけど、彼が一緒に作るならもっと違うアプローチでクオリティ高めよう、と。
──『2001年宇宙の旅』っぽい雰囲気を節々から感じました。
Nomoto:まさにそんな雰囲気を狙ってたし、WAVYが浮くシーンは『2001年宇宙の旅』がイメージソースですね。メタクラフトはみんな好きなものが違っていて、むしろそこが面白いんですけど、僕らが手がける案件は、宇宙やテクノロジーといったテーマに収束することが多いのもおもしろいですよね。
あと、hideの『ROCKET DIVE』のMVを見ながら、西條さんと「こういう技を使うと無重力感が出せるのか…」って話し合ったりもしましたね。たとえば今回の撮影でやった、カメラだけをぐるぐる回すシーンとか。もちろんあっちはセットもゼロから作ってて、レベルが違いますけど(笑)。
──映像ディレクターとして、映像やVFXの方向性についてはどのようにイメージを固めていきましたか?
Nomoto:西條さんと話しながら作っていきましたが、そこはもうリファレンスですね。映画だけでなく漫画や小説とか、いろんなところからリファレンスを引っ張ってきてぶつけ合ってます。自分はほとんど独学で映像を始めたのでディレクションの一般的なやり方はわからないんですけど、ゴールのイメージはわかっているので、とにかくいろんなアイデアを試していった感じです。
──今回のMVでのポイントはありますか? ここ注目だよ、みたいな箇所など。
Nomoto:なんだろう…実は、結局、映像そのものだけじゃなくて、仲間がいればこういうMVも作れるよって裏話の面白さかも(笑)。「ガレージ」じゃないけど、人と人とのつながりを背景にこの作品が試行錯誤され生まれたんだなってストーリーはポイントかもしれない。仕事になるとどうしても予算や数字に縛られてしまうけど、一緒に楽しみながら作れるチームがいれば何とかなるし、自分だけで想像できなかったものもできるし。
──そこはもう究極的ですけど、「あの人にはあれをお願いできる、じゃあもう少しこういうことができる」という、繋がりによるクリエイティブの広がりはありますね。
Nomoto:あと、今回は場所もポイントだったかな。あれこそアナログのクリエイティブだと思います。今回使ったスタジオは、そもそも映像のためのスタジオじゃないので天井も低いし、照明も入れられなかった。でも、やれる範囲でやろうと思えばできるし、そこはアイデア次第だと思います。

──そうした事情を知っていると、例えば映像作家を目指す人やビジュアルのものづくりをしてる人が、今回のMVを見て「自分もできるかも」と思うかもしれませんね。
Nomoto:全然できると思う。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいに「この映像ってこんな風に作ったんだ!」って驚いてもらえればうれしいです。
最後に、WAVYさんとVERBALさんに「未来とは?」という定番のテーマについて、コメントをもらいました。 テクノロジーの発展の先は、楽園か、ディストピアか。
JP THE WAVYにとって「未来」とは?
リアルなことを言ったら、どんどんいろいろな制限が掛かって生きにくい世界になっていくのかなって思うけど、理想は平和で自由な未来ですね(笑)。世界中どこでも一瞬で行けるようになっててほしいです。
VERBALにとって「未来」とは?
近い将来には、AIがほとんどの仕事をこなしてくれるようになるので、人はよりクリエイティブが問われ、最高なエンターテインメントや作品のみ賞賛される世の中になると思います。

何かと区切りの良い2020年。進化するテックは無限のビジュアルを描けるけれど、アナログで作っていくフューチャリスティックもまた、味わい深い面白さがあるもので。うーむ、また未来ってのがむずかしくなってゆく。
Edit: Sachiko Toda