いろいろなメーカーに人工呼吸器を作らせるって、なかなかたいへん

  • author Whitney Kimball - Gizmodo US
  • [原文]
  • Rina Fukazu
いろいろなメーカーに人工呼吸器を作らせるって、なかなかたいへん

製造から流通まで、どうする?

人工呼吸器が不足したら、テスラが作る」とイーロン・マスクがツイートしたのは3月18日のこと。それを見た人たちからは「もう不足してるよ」とツッコミが殺到。ただ、それから数時間後には「ニューヨークが買う」とビル・デブラシオ市長が反応を示しました。イーロンのカジュアルなツイートは1週間も経たぬ間に公的な約束となり、ニューヨークはバッファローにあるテスラ子会社の太陽電池工場であったギガニューヨークが人工呼吸器の生産を「人手が集まり次第早く」行なうことが決まりました。

他方では、GMフォードが人工呼吸器メーカーとの提携を発表。トランプ大統領は国防生産法のもとGMに製造命令を下していましたが、生産遅延に不満を示し「今すぐにやってくれ!」と語気強めにツイート。これに対して一部の人たちからは、兵器製造を命じた戦時のようだという声もありました。

ここまでで、ロケットや自動車のメーカーが人工呼吸器を作ることは可能だということはわかっています。では、どれほど難しいことなのでしょうか?

大統領の指示について「製造とは何か、理解がない」と米Gizmodoの取材に対して語ったのはハーバードビジネススクールの経営管理学のWilly Shih教授。デザインのライセンス取得、数百もの部品調達、それを組み立てるためのシステム調達、生命維持用の医療機器を市場に出すためのFDA認可の取得など複雑なプロセスがあることを指摘しています。

各メーカーはどんな対応を取った?

製造メーカーがダウンロードできるようにと、独自製品「Puritan BennettTM 560」のデザイン仕様を公開することに踏み切ったのは医療機器メーカーのMedtronic(メドトロニック)。

GMやフォードは、メドテック(医用技術系)企業が業務拡大できるようにインフラやサプライチェーンを貸し出し、テスラは自動車部品を用いた人工呼吸器デザインを公開しました(ただテスラ に関しては、救命救急センター用の高度なものではなく、睡眠時無呼吸症候群用のバイパップをニューヨークに届けたことも明らかになり「少なくとも、何もないよりマシだけど...」という見方もあるのが現状)。

航空機エンジンメーカーのGE・アビエーションでは、労働者らから「人工呼吸器の製造にシフトすべき」と声があがりました。同社組合リーダーのJake Aguanaga氏は、プレスコールで「GEは、何百万人もの命がかかっているさまざまな航空機で作動するエンジンの構築、保守、テストを私たちに信頼しているなら、人工呼吸器をつくることにも信頼してほしい」と表明。GEにおいては現在、GEヘルスケアがフォード・モーターと手を組むことにしています。

実際、どこまで「可能」なのか?

人工呼吸器の製造に工場を切り替えることは、おそらく「レーザーカッターはここに移動し、コンベヤーベルトはこっちで、あとは3Dプリンターを起動すれば…」というレベルではなく、新しい設備をまるごと導入し、労働者のトレーニングが新たに必要となります。

GE・アビエーションの労働者は、テキサス、バージニア、カンザス、ケンタッキー、マサチューセッツ倉庫は空か、ほとんど空の状態であること、さらに過去数年間に解雇された数万人に加えて、新型コロナウイルスの影響で3月末に解雇された2,600人のリソースがあることから、設備も労働者も十分確保できるはずだといいます。

リソースは大丈夫そうですが、テスラ、GE、フォードなど、本来は医療機器製造ではないメーカーが人工呼吸器を作ることは可能なのでしょうか? 「自動車メーカーはエンジン、内燃式の装置、板金の曲げ加工ができる」とShih教授はいいます。

自動車メーカーは小型エンジンの製造方法を知っていることから、おそらく非常用発電機を製造できるでしょう。彼らは車用のHVACシステム(暖房・換気などの空調システム)を製造していますが、人工呼吸器は、車内エアコンを患者のチューブに貼り付けるようなものではないので、どのような能力があって、​どのように適用できるか考える必要がありそうです。

Shih教授はさらに、MIT、ハーバードのブロード研究所についても説明しています。ゲノム研究センターからCOVID-19テスト処理施設へと切り替え、隔離部屋を確保するために壁を建設し、保護具を購入し、新しい清掃方法を導入。時間のかかる手動テストではなく、ロボット式液体処理マシンを使用してRNAテストを高速化することができたといいます。同様に、より単純なPPE(personal protective equipment=個人用防護服)テクノロジーとの重複を発見したというフォードは、車用ファンを保護マスクに転用するといいます。

本来、救命救急センター用の人工呼吸器は通常のものと異なり、数百もの部品で構成されています。わずかなズレによって役に立たなくなるため、通常は厳格な安全テストで合格する必要があります。それが現在では、麻酔器などからその場しのぎの人工呼吸器が作られています。

GMやフォードにはすべてのリソースがあると思う人もいるでしょう。第二次世界大戦時のように、すべてのリソースを揃えることができるはずだ、と。私はまだ生まれていませんでしたが、当時の製品ははるかにシンプルで、部品は少なく、多くは金属を曲げたり機械加工したりして作られます。しかし、人工呼吸器のようなものを作るには、酸素センサー、バルブ、監視装置が必要になります。

鍵となるのは「供給ライン」

工場と同じくらい重要なのが、供給ラインです。3月下旬、VentecのCEOであるChris Kiple氏はPlanet Moneyに「もしも​​(新型コロナウイルスが発生する前に)医療機器会社が自動車メーカーと協力することが可能であるかどうか聞かれていたら、Noと答えていたかもしれません」と明かしています。

同業界では通常、世界中で年間数万台の人工呼吸器しか製造していないこと、またVentecの各マシンには約700の部品があると米Gizmodoに語ったのは、Ventec CSOのChris Brooks氏。完全稼働でも同社だけでは人工呼吸器の需要を満たすことができなかったでしょう。それがGMとの協働により「他の方法ではアクセスできなかった新たなサプライヤーの世界が拓けた」と述べています。

新しいサプライヤーを特定するだけでも非常に長いプロセスです。成形プラスチックを扱う企業が多くあっても、適切な仕様で必要な材料を使用できるか、それを素早くできるかなど判断する必要があります。自動車業界には金属やプラスチックなどの独自のプール、サプライヤーがあり、工場の再開、24時間体制、必要な分の改造や提供ができるサプライヤーを特定できます。


現在1人で合計12分間作業しているひとつのプロセスがあって、どうすればそれを2分割して2人がかりで取り組み、作業時間を5分にできるか。こういうことを、GMチームは本当にうまくやってくれています。

Brooks氏は、数週間で「0から60」に加速できたと述べています。米保健福祉省は、GMが8月までに3万台の人工呼吸器を製造できるとの見込みを示しています。一方、ニューヨーク州だけで3〜4万台の人工呼吸器が必要になると述べていたニューヨーク州アンドリュー・クオモ知事は先日、物品不足になることを注意喚起していました。

複雑化する物流問題

供給ラインと物流ラインは同じくらい重要な問題です。部品の製造や原材料の調達だけでなく、コンテナ輸送航空貨物に注目すると、多くの混乱が生じていることがわかります。

旧正月前の中国から米国南部の海岸線に最後の出荷が届いたのは、ほんの2週間前。過去数か月で中国からの航行が遅延し、電子部品のみならず、食品などの必需品を移動する必要のあるコンテナまでも不足するようになりました。さらに未処理貨物の急増に対応できないことが懸念されています。

輸送用コンテナは通常、中国の深センからヨーロッパに到着するのに約1か月かかり、その後アメリカに到着するまでさらに長い時間がかかる、とShih教授は指摘します。中国での供給ショックにより、 アメリカでは需要ショックが起きています。具体的には何が起きているのでしょうか?

現在メイシーズのような小売店は閉鎖され、アマゾンでは重要でない商品の出荷を抑えています。これにより靴や家具のような輸入品の波が米国の東海岸に押し寄せ、物流センターの閉鎖などによりどこにも置く場所がありません。コンテナを動かすためにトラックのトレーラーが使い果たされます。誰も受け入れることができないコンテナはどうすればよいのでしょう? そうすると、必要なときにPPEを動かせないのは何故か考えたくなるでしょう。

このように切迫した状況は陸だけでなく、空も同様。航空貨物の約半分は旅客便を利用しています。それが現在では、アメリカン航空などの航空会社が貨物のみのフライトを運行しています。トランプ大統領は、国防生産法を利用して3Mが特定の医薬品を海外に販売するのを防ぐ一方、インドが抗マラリア薬を輸出しないことを非難しています。「どんな行動をとるのか気をつけなければいけないときだというのに。次は自分たちに返ってくるのですから」と、Shih教授はため息をつきながら述べ「憂鬱だ」とこぼしました。

労働力はある。しかし...

The Wall Street Journalが先月報じたように、GEの従業員数は第二次世界大戦以来最低を記録しました。それは、GE・アビエーションが新型コロナウイルスの影響でアメリカ内の労働力の10%にあたる2,600人を解雇すると発表する前のこと。

GE・アビエーションの労働者を代表する労働組合のボードチェアマンであるJerry Carney氏は米Gizmodoに対して、解雇された労働者のなかにはパンデミックとの闘いに熱心で、ボランティアとして働く意欲がある者もいると明かしています。十分に活用されていない労働力のほかにも、GEにはまだリソースがあると彼はいいます。ケンタッキー州マディソンビルには、オリンピックサイズのスイミングプールが約1平方フィートあるのだそう(その真偽について米GizmodoがGE ・アビエーションに回答を求めましたが、返事はありませんでした)。

3月24日に提携を発表したフォードとGEヘルスケアは、7月4日までにフォードの工場5万台の人工呼吸器を生産することを約束しています。感染率が低下し、人工呼吸器を行き渡らせようとしても、その数はまだ十分でない可能性が残ります。

New England Journal of Medicineで公開された研究によると、アメリカでは人工呼吸器が必要な31人の患者に対してひとつの人工呼吸器しか用意されていない状態だといいます。研究当時の推定で、現在ある人工呼吸器の数は合計16万8900台。この数字には緊急救命用でない一般のものや、不備があるものも含まれています。GMの計画では、8月末まで追加で3万台を連邦政府に届けることになっています。テスラはいつまでにどれほど製造できるか明かしていません

推定される感染率は、ソーシャルディスタンシング(社交距離)の有効性に基づきながら急速に変化しています。ただ、ニューヨーク全体で不足が続くことは大惨事につながると考えられ、4月はアメリカ全土で死亡件数がピークになる見込みがあり、トリアージ(治療優先度)ガイドラインを求める医師の声も出ています。ニューヨーク州アンドリュー・クオモ知事は「6カ月間は人工呼吸器は必要ない」と3月に表明し、その後3万台必要であると予測を打ち出しました。

実際のところ、必要な人工呼吸器の数を予測することは不可能です。ただ明らかなのは、製造することに意欲的な人たちがいること、そして日々多くの人たちが職を失っていること。

GEヘルスケアは、GEがフォードとの提携を決めた理由について米Gizmodoの取材に答えることはありませんでした。Carney氏は「私たちにアメリカや世界中の人々を安全にできるものを生産させてほしい」とメッセージを残しています。

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