公電リークで再燃の「新型コロナ武漢ウイルス研究所流出説」。
ホントなのかデマなのか。
中国は初動の遅れを批判した元不動産王・任志強氏が拘束されたり、最初に警鐘を鳴らしたアイ・フェン医師も行方不明になったりで言論統制が激しそうだし、アメリカもアメリカで今は大統領選の最中。初動の遅れの批判を交わすためなら2年前の公電(米視察団が研究所視察で気づいた安全面の不備を米本土に訴え対策を進言したもののトランプ大統領に無視される。トランプ氏は「あの研究所はオバマが資金を援助していた」と責任転嫁中)でもなんでも引っ張り出してきそうだし、もうどっちも信じられない!
というわけで、ここでは英マット・リドレー子爵のツイートでポイントを振り返ってみましょう。
Thread on the origin on the virus.
— Matt Ridley (@mattwridley) April 19, 2020
Many media outlets including the @thesundaytimes are speculating about whether the virus leaked from the Institute of Virology in Wuhan (WIV). Please note this is almost certainly the wrong lab to look at.https://t.co/tds6GWxkaK
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以下、ツイートの翻訳です。
武漢ウイルス研究所(WIV)からウイルスがリークしたかどうかを各種メディアが話題にしているが、問題にすべきなのはそっちの研究所ではない。
WIVは「コウモリ女」の異名をとるShi Zhengli女史の勤務先。
また、WPが入手した米外務省の公電では、米国の外交官がここの安全管理がずさんだと2年前に警鐘を鳴らしてもいる。
しかし、以下3つの理由で武漢ウイルス研究所起源説は信ぴょう性が薄い。
1. ここのこうもりウイルス(RaTG13)のサンプルは湖北省ではなく、1600km離れた雲南省で採取された。
2. その遺伝子配列は人間に広まるSARS-CoV-2と40年ぶんの形質変異の隔たりがあり、あまりにも違いすぎる。
3. @PeterDaszakによると、RaTG13は生のウイルスではなく、コンピュータデータで研究所に保管されていた。
研究所が起源というなら、武漢疾病対策予防センター(WHCDC)のほうがはるかにその可能性は高いと思う。なぜなら中国の2人の専門家(Botao Xiao氏とLei Xiao氏)がウイルスの起源に関する短い論文で挙げていたのがここだからだ。論文(後に削除された)にはこう書かれていた。
例の海鮮市場から280m圏内に武漢疾病対策予防センター(WHCDC:武汉市疾病预防控制中心)はあった。WHCDCには実験動物が保管されており、病原菌の採集・特定に使われる実験動物もいた。
武漢疾病対策予防センターが出元の公算が高いのは次の3つの理由による。
1. 最初のクラスタの海鮮市場にずっと近い。
2. WIVより安全管理水準がずっと低い。
3. 湖北省の洞窟でこうもり数百羽を捕捉したウイルスハンター、Tian Jun-hua(田俊华)医師の勤務先だから。捕獲シーンは2017年の映像で見れる。
キクガシラコウモリを最大155羽使った実験もあったという。
「コウモリは湖北省の山村や洞窟で捕獲された。動物には手術前にエーテルで麻酔をかけ、なるべく苦しみをかけないようにしている。コウモリからは心臓、肝臓、 脾臓、肺、腎臓、脳の組織のサンプルを採取した」(NCBI)
田俊华医師は昆虫、げっ歯類、コウモリのウイルス研究の実績の持ち主だ。
仕事で2回感染して自主隔離したと認めているが、これはおそらく研究所内ではなく野外で起こったものだろう。
1月7日にはSARS-CoV-2の存在を公表する論文が公開されたが、田俊华医師はその共同執筆も手掛けた。
だからといって武漢疾病対策予防センターの研究所から当該ウイルスが逃げたという証明にはならないし、いずれかの研究所でウイルスの遺伝子操作が行なわれていたと糾弾する意図も自分にはない。
ただ、台湾副大統領が言うように、「海鮮市場が感染源ではない」と信じる根拠はほかにもいろいろある。市場で感染が広まったことは事実だが、最初に特定された感染の症例42件中10件は市場となんのつながりもなかった。
したがって中国政府がなすべきことは田俊华医師の会見の場を設けて、キクガシラコウモリがどこで捕獲され、どのようなウイルス配列を持ち、医師の研究所内でどのような状態で保管されていたのか、疑義を質すことではないかと思う。
以上いかがでしたか? 武漢ウイルス研究所は海鮮市場から32km、武漢疾病対策予防センターは280m。市場でコウモリは売られてませんしね。
世界最新鋭のバイオセキュリティレベル4の武漢ウイルス研究所(WIV)が起源っぽいと言い出した大元を辿ると、海外では在米ユーチューバーの路徳社の1月18日付けツイートに辿り着きます。「いま武漢で騒がれているSARS状のコロナウイルスは、2018年に中国人民解放軍がコウモリから分離抽出した新型コロナウイルスが大元で、そのウイルス配列は南京軍区医学院から米国国立衛生研究所のDNAデータバンクに公開されている。人から人に広まるように舟山コウモリウイルスに遺伝子操作を加えたものと思われる。エンベロープ(E)タンパク質が100%一致し、別々の起源とは考えにくい」というもので、とても科学的に聞こえるため海外でわっと広まりました。
ただこれについては1月23日に武漢病毒(ウイルス)研究所自身からゲノム解析の結果がスピード公開され、コウモリウイルスとは全体で96.2%の一致が見られるが「生物兵器や意図的な遺伝子改変の事実はない」と全面否定されましたし、2月19日にThe Lancetに発表された欧米のゲノム解析でも「新型コロナは動物由来。おそらくはコウモリが感染源」ということで一応の決着を見ています。
自然の脅威から人類を守るワクチン開発のため、洞窟に寝泊まりまでしてがんばってきて生物兵器とか責められたら悲しすぎますよね。もちろんひとりの英国紳士が考えたひとつのセオリーに過ぎませんが、映像を見ながらそんなことを思いました。
Source: JBpress, 文春オンライン, Twitter (1, 2, ), The Times, Scientific American, bioRxiv, National Review, web.archive.org, NCBI, ResearchGate, Telegraph, YouTube, The Lancet