これからは「盛れる」だけじゃない。リモート時代に注目されるARフィルターカルチャーの最新事例

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  • author 山本勇磨
これからは「盛れる」だけじゃない。リモート時代に注目されるARフィルターカルチャーの最新事例
Image: davidoreilly, _liamwilson_, gk3 via Instagram

AR技術の民主化はここから始まる?

今、ARフィルターが面白い! カメラアプリやInstagramといったSNS上で、以前からじわじわと活用されてきた「ARフィルター」が、これからの時代の重要なツールの一つになりそうです。

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Image: Snap Camera

きっかけはリモートワークを始めとした、昨今の「STAY HOME環境への移行。ビジネスミーティングも、友達との飲み会も、多くの“集まり”がZoomといったビデオチャットツールに移り、それにともなってARフィルターが活躍中です。

これまでは、目が大きくなったり、可愛い動物になれるなど「盛れるから」といった理由で使われることが多かったARフィルター。しかし、現在のSTAY HOMEな状況から、たとえば「雑多な部屋を見せずにビデオチャットできる」「化粧をしていない状態でもZoom飲みができる」といった問題を解決するフィルターが注目を集めるようになりました。

今後は、そういったARフィルターが持つ「機能性」がより際立っていくかもしれません。とくに、リモート時代のコミュニケーションを拡張するものとして、ARフィルターの可能性の期待が高まっています。


今のARフィルター=「装飾」

リモートワークの流れで日本でもよく使われるようになったARフィルターですが、これまではARフィルターといえばおもに「SNOW」といったカメラアプリの一機能として使われてきました。

たとえば、猫やクマといった可愛い動物になれるなど、“自分じゃない誰か”になれたり、日常を飾るツールとして楽しまれてきたのです。ARフィルターといえばこういうものが浮かぶのでは?

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Image: Instagram

またARフィルターは、InstagramやSnapchatといったSNS上でも活用されています。こちらは、おもに海外ユーザーを中心に、ストーリーズ機能(一定時間で消える投稿機能)を使って投稿することで楽しまれています。

昨年からは、すべてのユーザーがARフィルターを制作/公開できるようになり、多くの個人クリエイターや企業が自作のARフィルターを配信しはじめています。

デイヴィッドオライリー(アニメーション作家)


Ray-Ban(サングラスブランド)

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RipNDip(アパレルブランド)

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Spotify(音楽ストリーミングサービス)

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Vogue Australia(雑誌)

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しかし、「顔を隠しながらビデオチャットに参加したい」というニーズを叶えたように、対面ではないやりとりが多いご時世だからこそ、ARフィルターはより面白くなりそうなテクノロジー。これから、どんな問題を解決できるんでしょう…?

次世代のARフィルターは、人々のコミュニケーションを促す?

ARフィルターがどういった進化を遂げるのか、国内のARフィルターレーベルであるIDENT(アイデント)に取材。主宰である鈴木健太さんに、ARフィルターの可能性と課題感を伺い、その背景を踏襲して制作しているというARフィルターを紹介いただきました。

IDENTは20代のメンバーが中心となって2019年夏に発足したチームで、国内外のARフィルターの動向を追いながら、これからのARフィルターの可能性を探って制作しています。

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Image: ギズモード・ジャパン
#答えてフィルター

IDENTがSnap Camera向けに公開している一例「#答えてフィルター」は、ビデオチャットや「Zoom飲み」といった友人とのビデオチャットに話題を作りだすARフィルターです。

IDENTを取材するなかで伺った話として、今はユーザーがARフィルターを試して「可愛い」や「面白い」だけの体験で終わってしまうことに、勿体無さを感じているそう。なるほど、今までは顔色を変えたり、動物になったりといった「自分の見た目」への影響が大きかったわけですが、「#答えてフィルター」のような一人で完結しない、周りとのコミュニケーションを促進するフィルターは、今までにあまりなかったかもしれません。

IDENTが5月13日にリリースした最新のARフィルター「#FACEBOY」 - 顔がコントローラーとなってゲームがプレイできるARフィルター。顔や体に対して加工を行なう既存のフィルターから、インタラクティブな機能性を持たせた

つまり、これからのフィルターは「顔を装飾して終わり」ではなくて、いろんな状況や課題に対してアプローチすることや、そのフィルター自体に機能があったり、人と人とのやり取りが生まれることが大きな魅力や価値になっていくといえます。IDENTが先日リリースしたInstagramフィルター「#FACEBOY」は、通常のフィルターにゲームの要素を追加することで、新たな使用シーンや「そのフィルターをやる意味」を生み出しています。

加えて著名人やインフルエンサーといった影響力のあるユーザーが使うなど、外的要因の使用を促すことことで新たなフィルターの価値や利用シーンが生まれるのではないかとIDENTは言います。

例えば「#答えてフィルター」の場合、Twitterで累計2,700万再生を記録するフルリモート劇団「劇団ノーミーツ」が使用する動画を公開することで、いままでフィルターに馴染みのなかったユーザーを取り込もうとしています。


これからは「作品を体験する場所」にもなる

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Image: davidoreilly via Instagram

また「コミュニケーション」を活性化させる機能に加え、ARフィルターはクリエイターの作品発表の場所としても活用できる可能性があります。

たとえば、すでに海外のアニメーション作家・デヴィッド・オライリーは、ARフィルターの特性を生かした体験型のアニメーションをInstagramでリリースしています。すでに、多くのユーザーが彼のARフィルターを試してストーリーズに公開していて、作品をインスタントに楽しんで、他の人に共有するという新しい作品体験のかたちを開拓しています。

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Image: Zoom
左上から右に、IDENT 鈴木健太さん、筆者、Kuno Fell Asleepさん、asagiさん(ご自身のARフィルター付き)

国内では最初期からARフィルターの制作をしている、アーティストのKuno Fell Asleepさんと、デザインエンジニアのasagiさんのお二人に、作品を公開する場所としてARフィルターを使うことのメリットを伺いました。

Kuno Fell AsleepさんのARフィルター作品『X』 - 顔の内側にオブジェクトを配置するというアイデアを元に制作されたレントゲン風ARフィルター。口を動かすと、内部の頭蓋骨や首の骨も動く

Kuno Fell AsleepさんのARフィルター作品『Singularity』 - カメラ越しの世界にブラックホールを再現できるARフィルター。NASAが公開している情報などを元に、ブラックホール特有の空間の歪みを緻密に再現している。Adrian Steckwehとのコラボレーション

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gunya

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asagiさんのARフィルター作品『Gunya』 - カメラに映る人物をセグメンテーション(対象とそれ以外を分ける)し、人物部分が流動的に動き回るARフィルター

asagiさんのARフィルター作品『1px man』 - カメラに映る人物をセグメンテーションし、1ピクセルのカラーを引き伸ばして対象を再構成するARフィルター

作品を試してもらうまでの「敷居の低さ」が作り手の魅力

── ARフィルターに傾倒する魅力は?

Kuno Fell Asleepさん(以下、Kuno):もともと僕はカメラアプリを作っていたのですが、ユーザーにインストールしてもらうまでの敷居が高いんです。一方でInstagramアプリは、ほとんどの人がインストールしているので、ARフィルターのリンクを共有すればすぐに使えるのが魅力。すでにInstagramで公開しているフィルターのインプレッション数は、アプリ上で体験してもらう方法では届かない数字になっています。

asagiさん(以下、asagi):プラットフォームに依存している分、作れるものの制約(データ容量など)もありますが、それを引き換えにしても、今はみんなに楽しんでもらえるほうが大切だと感じています。作品を大勢に体験してもらいたいという、自分のなかでの最重要の課題がもっとも達成しやすい方法です。

── たとえば現在のARフィルターではくる「顔を隠せる」といった装飾の側面が大きいと思うのですが、他のアプローチは何か考えていますか?

asagi:ARフィルターは1人だと使いづらい特性があります。だから、このコロナ以前はそんなにスポットが当たってなかったと思うんですが、以後は大勢でZoomをするようになったから、皆んながARフィルターを使いだした。そういう心理はあるのかもしれません。だから、1人でも使いやすいフィルター体験がもっと出てくるといいのかなと思います。


新しい商品や作品の発表場所としてのメリット

── 外部のパートナーとの施策として有効だったARフィルターは?

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Image: kuno.fell.asleep

Kuno:雑誌『GINZA』との取り組みは、プロモーションとして有効だったかもしれません。ARフィルターの体験を通して、サングラスに興味を持ってもらうための施策だったのですが、体験してみると自分が意外とサングラスが似合うことに気づいたりするんですよ。ARフィルターは、Webページより見る人の数は低いかもしれないですが、一人一人の体験の質は高いですね。

Video: Zatta/YouTube

asagi:Zattaという音楽ユニットのMVを制作したのですが、映像がすべてARフィルターで構成されているんです。これは、今後Instagramのフィルターとしてリリースする予定でして、誰でも自分の顔でZattaのMVを再現できるようになります。

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実はARフィルター、誰でも簡単に作れるんです。

InstagramやFacebook用には「Spark AR Studio」、Snap Camera用には「Lens Studio」といった制作ツールが配布されており、審査さえ通過すれば誰でもARフィルターを公開可能(ただし本記事の公開現在は、一時的にInstagramでの審査が中止されている)。ソフトウェアは ノードベース(個別の処理に対してブロックが用意され、それらを繋ぐことでプログラムを組む方式)になっていて、制作における技術的な障壁が低いのも魅力のひとつ。


ARフィルターを使うメリット、その答えってなんでしょうね?

2020年5月現在、おおくのARフィルターは、顔に何かを装飾する目的で使われています。そして同時に、Zoom飲みを盛り上げるような、コミュニケーションを活性化させる新しい機能をもったARフィルターも出てきています。

ARフィルターが「化粧をしていなくてもビデオチャットをしたい」というニーズを叶えたように、画面越しでのフラストレーションを解決していくものになるでしょう。画面越しでの会話では相手の感情を計りにくいですが、ARフィルターをきっかけにそこが楽しい場になれば、新しいコミュニケーションツールになるかもしれません。

今回取材に応じてくれたIDENTもまた、そんなフィルターカルチャーの動向をみながら、新たなアイデアを形にし、情報を共有するハブになろうとプロトタイピングを続けるそう。幸運にもARフィルター開発の土壌はすでにホカホカで、間口も広いです。すでにさまざまな出自の人たちがARフィルタークリエイターになり、ある種のカオスなクリエイターコミュニティを形成し始めています。

ギズモードも今後「AR技術」の新しい発展先として、このARフィルターカルチャーを追っていきます。

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