Appleが本気出したら、すごそう。
AT&T傘下のワーナーブラザーズが新ストリーミングサービスHBO Maxを始めたのは、つい先日のこと。その実態はメディアが混在するカオス状態で、ブランド感はほぼなし。もともとHBOが独自展開してきたストリーミングサービスHBO Nowと価格は同じなのに、コンテンツは倍増という「Nowつぶれちゃうよ…」という不思議なサービスです。HBOはどこへ向かおうとしているんでしょう。
そんななかAppleはコンテンツと人材に多額の投資をして、良質なストリーミングの王者を目指しているようですよ。ひと言でいうなら、新HBO Nowってとこ。本家がAT&Tの手で消滅寸前ですしね。 AppleはApple TV+に常に、「素晴らしいサービス」であってほしいと考えています。大コケしなければいいという「まあまあ」なコンテンツを大量生産するのではなく、品質を重視したいんですね。とはいえAppleがはじめてオリジナル作品をローンチした日のラインナップは、感激するほどの内容ではありませんでした。
マーティン・スコセッシ監督の新作を獲得
しかしここ数週間、料金に見合うストリーミングサービスになろうとAppleが本気を出してきたようです。今週、Appleがマーティン・スコセッシ監督作品の『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』を獲得したとメディア各社が一斉に報じました。主演はレオナルド・ディカプリオとロバート・デ・ニーロという超ビッグな2人。関係者の話では、Appleの出資額は1億8000万から2億ドル(約190億円から210億円)にのぼるとDeadlineが報じています。
この映画は、ベストセラー作家ディヴィッド・グラン氏の犯罪ノンフィクション『花殺し月の殺人―インディアン連続怪死事件とFBIの誕生(Killers of the Flower Moon:The Osage Murders and Birth of the FBI)』を原作にした社会派ミステリー。 Deadlineによると、Appleが資金提供して「Appleオリジナル作品」として配信し、パラマウントがそれに先駆けて世界中で劇場公開する予定だとか。間もなく、パラマウントと契約締結する模様です。
トム・ハンクス脚本・主演の映画を独占配信
よほど、自社オリジナル以外のコンテンツ拡充に力を入れているのか、Appleはこの数週間で他にも大きな作品を獲得しています。今月はじめには、トム・ハンクス脚本・主演の映画『グレイハウンド』を独占配信すると発表。第二次世界大戦中の海軍駆逐艦を舞台にした作品で、今年6月に公開予定だったのが新型コロナウイルスの感染拡大で劇場公開中止となっていました。15年間のライセンス契約で、出資額は約7,000万ドル(75億円)とのうわさも。さらにApple TV+を充実させるため、過去作品を購入する動きもあるそうです。
現在のところ、ストリーミングサービス業界でのAppleの立ち位置はちょっと微妙。TV+は本来もうちょっといいセンまでいってても良かった気もするし、あれだけ破竹の勢いでスマホを売ってきたノウハウを映画やシリーズ作品に生かせなかったのかな…という感じ。
とはいえ、Apple TV+はまだローンチから数カ月しかたっていないので、コンテンツの充実感がいまいちでも仕方ないかもしれません。開始前に大見得きりすぎたのも要因かも。Appleというのは昔からリスクをあまりとらずにビッグマウスを使う傾向があり、それが自分の首を絞めることも。
本腰入れて魅力的なストリーミングサービスになりたいなら、常に万人受けすることをあきらめることも必要です。実はAppleもそれに気づいていますよね。
HBO Max以前のHBOストリーミングサービスは上々で、Appleはそれに匹敵するサービスを目指しているのかも。なにせ、HBOを表彰レベルに導いた立役者を自社に招いたわけですから。1月、AppleはHBOの元CEOであるリチャード・プレプラー氏と5年契約を交わし、Apple TV +プロジェクトのプロデューサーに迎え入れたのです。
ですから、AT&Tさん。HBO Nowから力を奪って自然消滅させようと目論んでいるのなら、その栄光の座を虎視眈々と狙っているサービスがいることを、どうぞお忘れなく。わりと、強敵です。