コロナ禍の米国、買い物代行のInstacartがWalmartを抜き去っていた

  • author 福田ミホ
コロナ禍の米国、買い物代行のInstacartがWalmartを抜き去っていた

米国のオンライン食品デリバリーの半分以上が、このアプリ経由で。

新型コロナウイルスの影響でいろんな日常が非日常になり、非日常が日常になりましたよね。そのひとつが日々の食料品買い出しじゃないでしょうか。スーパーに行けば入場制限があったり、2メートルの線が引いてあったり。そもそもリアルなスーパーに行くだけでも感染リスクがあるってことで、ネットスーパーをデフォルトにしている人も多いことと思います。

米国でもネットスーパー利用は急増し、TechCrunchによれば、オンライン食品デリバリーアプリのダウンロード件数は通常の2〜3倍に達しました。その急拡大する市場の中でもシェアを一気に高めたのが、買い物代行サービスのInstacartです。

家にいながら、いつものお店で買い物できる

Instacartとは、自分の近所のスーパーでの買い物を「ショッパー」と言われる買い物代行人に依頼できるアプリ/サービスです。The Informationによれば、もともと米国のオンライン食品デリバリー利用全体の中でInstacartは30%前後のシェアを占めていたんですが、これまでトップはWalmartで50%近いシェアを占めていました。Walmartはリアル店舗を含めれば世界最大のスーパー(というか売上ベースで世界最大の企業)で、オンライン食品デリバリーでもトップにいるのが当然のようにも思えます。でも新型コロナ対策のロックダウンが始まったあたりで形勢が一気に逆転、Instacartのシェアが50%を超えてWalmartを抜き去ったんです。

ちなみにこれの元データは、米国のデビットカード・クレジットカード利用データを収集・分析しているSecond Measureによるものです。Second Measureが分析対象にしているのはInstacartとWalmartの他にAmazon(Amazon Fresh+Whole Foods)とかFresh Directといったオンライン食品デリバリー上位6社だけなので、これで市場全体を捉えきれてはいないんですが、大まかな傾向はつかめてるはずです。

InstacartとWalmart(も含めて一般的なネットスーパー)の何が違うかというと、「事前に予約するんじゃなくて、そのときに欲しいものを、近所のお店からすぐ買ってきてもらえる」ことです。その分デリバリー費用は3.99ドル(約430円)+買い物代金の5%+ショッパーへのチップ(買い物代金の5%が目安)と割高ですが、今日食べるものがない! ってときには救世主です。対象のスーパーはCostcoとかKrogerとか、もっとローカルなお店(たとえばニューヨークのZabar'sやFairway)などと幅広いので、普段行ってるお店がだいたいカバーされているイメージです。

なので高い分だけありがたいサービスなんですが、今だと「自分で買いに行くと入場制限で並ばなきゃいけないけど、Instacartなら家で待ってるだけ」というメリットも加わります。しかもコロナでみんなが食料確保に走ったのでネットスーパーはデリバリー予約がいっぱいになってしまったのに対し、Instacartは素早く対応、もともとは20万人程度だったショッパーを55万人(!)まで増やして需要に応えました。Instacartは2012年に創業してからずっと赤字だったんですが、この特需で黒字に転じたそうです。

ただこれからもこの勢いが続くのかはわかりません。リアルなスーパーが不便な状況はしばらく続くんでしょうけど、他のネットスーパーもデリバリー体制を強化してきてるし、Walmartも通常のデリバリー費用にプラス約10ドル(約1,100円)で2時間以内に配送する、Express Deliveryを開始しました。通常のデリバリー費用も7.95ドル(約850円)からなので合計すると2,000円くらいが買い物代金に加算されちゃうんですが、それでも「欲しい食べ物をすぐ届けてくれるサービス」の競合が増えたことにはなります。またUberも、食品デリバリーに参入しようとしています。

裏側はまだ突貫工事中

でもそれだけ需要が見込めるってことでもあり、人員を増やしたりして景気がよさそうにも聞こえるんですが、その点でも心配なことがあります。とくにInstacartのショッパーはUberのドライバーと同じような感じで、Instacartの社員ではなくフリーの業者という位置づけです。なのでショッパーの収入は歩合制で、仕事量に応じて決まるんですが、その仕事量は誰も保証してくれません。ショッパーは専用アプリ経由で仕事の「オファー」を受け取る仕組みですが、ショッパーはたくさんいるので、実入りのよさそうなオファーは早いもの勝ちでどんどんかすめ取られていきます。おまけにInstacartユーザーの中には、買い物依頼の段階では高めのチップをちらつかせておいて、商品を受け取ったらチップを取り下げる悪質なユーザーもいます。さらに、ショッパーはスーパーでの買い物やデリバリーでたくさんの人と接触する必要がありますが、マスクや手袋といった感染防止策は当初は本人任せになっていて、Instacartから支給されるようになったのは4月も半ばに入った頃でした。

でもInstacartとしても、ひとつひとつ課題を解決していこうとしています。たとえばチップを頻繁に取り下げるユーザーはその後利用できないようにしたり、ショッパーがマスクや手袋をアプリから無料でオーダーできる仕組みを作ったり、といったことです。コロナ特需で急成長したZoomも、一時はバグの千本ノックみたいになりながらだんだんと問題をつぶしていったように、Instacartも一皮むけていくんじゃないでしょうか。そんな期待感からか、Instacartの直近の資金調達ラウンドでは推定時価総額が137億ドル(約1兆4600億円)とほぼ倍増しました。

コロナ禍の状況はまだ収束しそうになく、オンラインでの買い物需要もまだまだ続いていくと思われます。Instacartも、Instacartに対抗するネットスーパーも、そこで働く人たちも、今はまだ新しい環境に適応していく過程の中にあって、最終形態じゃありません。これからニューノーマルが定着していくにつれて、なるべくみんなにとってフェアな形ができていけばいいな…と思います。

Source: Instacart(123Second Measure、The Information(123)、TechCrunch(123)、WalmartTIMEFT

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