働く人の所作は美しい。
見はじめたら止まりません。
ボーッと眺めていたら娘が上からドヤドヤ下りてきて「あ、すすめようと思ったらもう見てる!」と腰抜かして驚いてました。こうして、遅まきながら中国を代表するインフルエンサー、李子柒(Liziqi、リー・ズーチー)の映像世界が我が家にもタッチダウン…です。
天災、疫病、暴動と暗いニュース続きで、仕事も学校も社会も「この先どうなっちゃうんだろう」と不安に駆られる毎日だけど、四川の山間いの村には昔と変わらない静かな時が流れています。朝日とともに起きてクルクル働き、麦、柿、にんにく、花、木の実、きのこ、旬野菜を採って、目にも彩な料理に仕上げ、おばあちゃんとともに食べる。そんな暮らしを眺めていると「この100分の1も働いていないよ現代人。まだまだやれることはあるのだな~」と励まされて心がシンと鎮まります。
李子柒さんは1990年生まれ。幼いころ母親は家を出ていき、8歳のとき父親も亡くなり、継母にいじめられ、祖父母の田舎に引き取られました。当時をよく知る婦人会の人によると、家が貧しくて高1で休学して都会に働きに出た苦労人だそうです。おじいちゃんが亡くなって、ひとり暮らしのおばあちゃんの世話のために2012年田舎に戻り、最初は淘宝(タオバオ) に出店して農作物を売ったのですが、作物紹介動画のほうが人気が出てビデオグラファーとして一本立ちして今にいたります。
最近はコロナ支援で制作は滞りがちですが、フォロワー数は今や化けもの級で、中国語圏はもとより海外でもじわじわ人気上昇中です。
微博(Weibo):2529万人
抖音(TikTok):3780万人
YouTube:1070万人
Facebook:348万人
何はともあれ映像から見てみましょう。
今は2人加わってチームで運営してますが、最初は三脚と作業を行ったり来たりしながら全て自作だったのだとか…超人過ぎますよね!
「いったい何者?」というみなさまには英語のインタビューが参考になります。
メイキングの舞台裏は、広告オペレーションを支える新浪微博(Weibo)が同じ日に行なった中国語のインタビューで見れますので、少し英語字幕から訳しておきますね。
Q:中国の昔の暮らしをテーマに選んだ理由は?
A:自分が生まれ育った環境をそのまま表現しました。今とはかけ離れた暮らしで、食べるもの、使うもの、着るものすべてが手づくりでした。それってすごくないですか? だから短い動画に撮りためたんです。身近なものから。
Q:結構こだわるほうですか?
A:普段は割とアバウトな性格ですが、仕事のことになると異常にこだわるとよく言われます。何度も何度も納得いくまで撮り直したり。
Q:「仙女」と呼ばれるのは正直どんな気持ち?
A:うれしくないと言ったら嘘になります。褒められてうれしくない人なんかいないですよね。でもあまりにも何度も言われると、それはちょっと違うんじゃないかと。だってこんなボロサンダル履いてるのに。泥の精じゃないですかね(笑)。こんなにベラベラよくしゃべる仙女も珍しいと思います。
Q:習得したくてできなかったこととかありますか?
A:中国の伝統文化は本当に興味があって、ドキュメンタリーで見るたびに先人の知恵と技のすばらしさに打たれます。時間があったらひとつずつ身につけていきたいですね。
こんなことここで話していいかわからないけど(声を潜めて)「怪功」って知ってます? 子どもの頃、おじが教えてくれたんです。両脚に砂袋を括りつけて歩いたり走ったり生活して少しずつ重くしていくと、そのうちツバメみたいに空も飛べるんだよって。今なら冗談ってわかるけど、そのときは本気でずっとやってましたね。2回大人にしばかれてやめたけど。
Q:国際親善で最近マレーシアにも行かれたんですよね?
A:王女さまが中国伝統文化のファンと聞いて、ちょうど2年前から撮ってきた「文房四宝」の動画が仕上がったところだったので、撮影で使用した四宝を特別に差し上げただけです。
Q:過去の動画で使った食材はすべて自分の手で育てたものですか?
A:山菜も混じっていますね。畑にはまだ撮っていない野菜もたくさんあります。月3~4本しか撮らないので全部入れるのはムリ。普通に食べてますね。
[畑を早送りで案内。「これも私が植えたのよ」と色とりどりの野菜と果樹を指差していく。冬場ビニールハウスに移植する株、寒冷な土地に合わなくて実がならない熱帯種のマンゴー、アボカド、ドリアンなども。しゃべりだすと止まらない。撮影班にトマトをもぎとってくれた]
Q:今の暮らしは楽しいですか?
A:半々かな。撮影以外のときは本当に楽しいです。いつも通りに気ままに野良仕事できるから。それにおばあちゃんの面倒も見れるし。でも撮影も仕事なので。テーマを決めるのは意外と簡単です。田舎暮らしは素材に事欠きませんからね。ただ撮り方、構図、シーンの展開は悩むし、時間もかかります。撮影後の編集も自力なので。暮らしと撮影は別々に分けて考えていますね。
Q:生活スキルが半端ないと絶賛の嵐ですが、それも祖父母にちいさな頃から教わったことですか?
A:「教え」というか、生活のためには必要なことでした。おじいちゃんとおばあちゃんは暑い盛りにも一日中働いてます。温かいご飯くらい用意しないと。傍目には生活スキルでも、当人にとっては生き残っていくための本能です。
[午前3時に起床。眠気を払って山に出る。「大丈夫。道は知り尽くしているから」とスタッフ2人を励まし、「あとでドローン飛ばして、あっちのアングルからも撮ってみようね」「日の出も押さえないと。あと10分」とテキパキ作業をこなしていく。泥を洗い流しながら「つぶ貝がいっぱい!」と驚く。後日、つぶ貝はおいしい料理になって動画に登場する。深夜1時まで動画編集]
Q:今も動画編集は自分の手で?
A:前は全部ひとり。今はカメラマンが素材のアレンジを手伝ってくれるので、その後にトーンを整えて字幕をつけるメインの部分を自分が担当しています。
Q:全部カメラマンに頼まないのはなぜ?
A:いつも言われます。力量不足とかじゃ全然なくて、みんなプロなのですばらしいです。ただ自分の作品という思いが強くて、口では細かいニュアンスが伝わらなくて。コンテンツづくりに携わる人ならわかってくれると思います。
Q:「実はただの女優。全部クルーがお膳立てしている」という疑惑の声もありました。なぜ反論しなかったのですか?
A:反論していいことなんて、あると思う? コンテンツはすべて自作という動画は初期段階に拡散しました。カメラを何台かセットして行ったり来たりしている無編集の動画をうっかり出したこともあります。それでも、そういう都合の悪いことは完全無視で「こんなの出して同情を買おうとしている」とか言われるんです。ついていけないので反応するのはやめました。言いたいように言わせておけばいい。
Q:ネガティブな反応をどう受け止めたんですか?
A:疑われるたびに、ほめ言葉と思うようにしています。
Q:結婚は?
A:今は考えていません。運命は不思議なもの。一生ともにする人だから急ぐ必要はないかなあと。慌てて結婚しても毎日けんかするばかりで意味ないし、自然にまかせていきたいです。
Q:「どうせ金持ちの令嬢だろう」というネット民もいますが。
A:小学4年のときから何度か地元の新聞に載ったことがあります。金持ちと正反対の理由で。善意の寄付のおかげで学校に通い続けることができたんです。それに金持ちの家に生まれていたら、こんなに身を粉にして働きませんよ。
Q:有名になってから恵まれない子どもたちの援助もしています。それは自身の生い立ちと重なるから?
A:かもしれません。光のように温かく支えてくれる人が周りにいたからここまでこれたんです。その子たちも大人になって周りの人を温かく照らす光になってくれれば。
Q:憧れの存在、モチベーションを与えてくれる人とネットでも大反響ですが、これだけの影響力を持つとは自分でも思っていましたか?
A:思うわけないじゃない。(木からビワをもいで)まあ、どうぞどうぞ。お互い友だちや家族みたいな関係です。励まして、温かく包むような。ネットでいじめられたときにはコメントを読むんです。みんな、自分の友だちで家族だと思ってます。
Q:動画はこれからも続けますか?
A:先のことはわからないです。社会が与えてくれたチャンス。力の限り、有意義なことをやりたい。
Q:動画の盗用被害については?
A:最初はあまり気にしていませんでした。海外に中国文化が広まればそれで。でも中国人なのに、ほかの国の人として紹介している動画まであって、それはさすがにアウト。今度見たら著作権は絶対守ります。
Q:農村のリアルとかけ離れているという批判もありますが?
A:物事にはなんでも良い面と悪い面があります。都会には唸るほどお金のある人もいれば、何本も仕事をかけもちでやっと子どもの学費を稼いでいる人もいます。田舎も一緒。ただ改革41年で、昔に比べると暮らし向きは随分よくなりました。家もきれいだし。いくら貧しいと言っても、庭には花、草、野菜、果物もあります。マクロで状況がいいなら、あとは自分の人生、自分の思うまま。努力する意志があるかないかで決まります。(後略)
ひょえ~29歳とは思えない貫禄! あんな細い体なのに力持ちなのは努力してるからなんすね。そういや筋トレサンドバッグ、むかし日本でも流行ったなあ…。専門ショップでは無骨な中華包丁、麻の作業着も飛ぶように売れてます。買う気持ち、わかる~。