真鍋大度らが手がけた“2020年の分岐点”を描いたミュージックビデオが、栄誉賞を受賞

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  • author 照沼健太
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真鍋大度らが手がけた“2020年の分岐点”を描いたミュージックビデオが、栄誉賞を受賞
Image: Squarepusher

世界の分岐点を描いた映像だったのかも。

機械学習による自動画像認識をベースに、映像中の街頭広告や人物にグリッチエフェクトを施したスクエアプッシャーの MV『Terminal Slam』が、芸術・先端技術・文化の世界的イベント「アルス・エレクトロニカ賞 2020」のコンピューターアニメーション部門で 「栄誉賞(Honorary Mention)」を受賞しました。

Squarepusher / YouTube

アルス・エレクトロニカは『Terminal Slam』を次のように評価。

このミュージックビデオは、実写映像とコンピューターで作られた画像やアニメーションが、視覚的にも音楽的にも息をのむほど美しく 組み合わされている。さらに、現代社会が日々直面している、プライバシーの喪失や、データマイニングや広範囲にわたるマーケティング、監視社会など、現代社会が日々直面している問題にも触れている。(中略)

この作品は広告的エンターテインメント性、技術的な進歩や芸術的な探求、社会的認識を高める重要な文化的観点を含め、バランスがとれたよい例と言えるだろう。

そして、本作品のディレクションを務めたライゾマティクスの真鍋大度さんは、2020年3月にギズのインタビューで「広告を含めた近い未来」が根底にあるテーマだと語っていました。

スクエアプッシャーと真鍋さんの対話の中で見つけた、二人に共通する街頭広告への疑問や課題意識。それらをテクノロジーで解決しようとする、ある種の希望的な未来を描いた作品だったわけです。

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「街をハックする」真鍋大度が、スクエアプッシャーのMVを監督した理由と、その技術 | 記事はこちらから
Photo: Victor Nomoto - Metacraft

失われた未来? 違う世界線? 「コロナ以降」に生まれた奇妙な感覚

しかし、2020年6月現在、同年1月末にリリースされた『Terminal Slam』MVを改めて観ると、不思議な感覚に襲われることに気が付きます。

4〜5月のコロナ渦において、渋谷の多くの街頭広告枠は空白となり、スクランブル交差点を中心に通行人の姿はほとんどいなくなりました。そんな”空白の時期”を経た今、『Terminal Slam』に映っている世界は別の時間軸かのようにも見えますし、”失われた風景”へのノスタルジーのような感覚さえ覚えます。

5月、緊急事態宣言真っ只中のインタビューにおいて、真鍋大度さんはZoomなどのツールを使ったオンライン飲み会を通して次のように感じたと話していました。

10人程度が参加すると誰かが司会役にならないとうまく場が回らなくなってしまうことに気づき、クラブやバーが持っている、あのライトなソーシャル感がなくなってしまっているなと思ったんです。

STAY HOME状況で我々から失われつつあった“カジュアルなコミュニケーション”を懐かしみ、真鍋さんはコミュニケーションプラットフォーム「Social Distancing Communication Platform(以下「SDCP」)」をライゾマティクスのメンバーとともに作りましたが、未来を描いていたはずの『Terminal Slam』もそれと同様に、コロナ以降の現在、どこかノスタルジックな趣を帯びたように感じられないでしょうか?

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ワクチン後か、バーチャル渋谷の実現か。何らかの形できっと我々は「未来」を取り戻す

しかし、数年のうちに、きっと渋谷は以前のカオスを取り戻すことでしょう。何度かの流行を繰り返しながら、ワクチン開発か集団免疫の獲得かをもって「コロナ以前」の景色をほぼ再現できるようになるはずです。

そこでは、真鍋さんが

2〜3年後の未来を想像したMVなので、その頃には実際にこうしたことができているんじゃないかと思います。実際のところ、このMVでやっていることはすでにほとんどリアルタイムで再現できるので。

語っていたように、『Terminal Slam』の世界が現実のものとなっていくことが予想されます。

ただ、「コロナ以降」で、ひとつ違う可能性が生まれたとしたら、それは「バーチャル渋谷」のような世界。

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https://www.gizmodo.jp/2020/05/virtual-shibuya.html

もし今後さらに強力な新型コロナ第2波(すでに海外では始まっているとも言われています)や第3波、あるいは別のパンデミックが押し寄せたとしたら、デジタル上に表現される「こうなっていたかもしれない渋谷」のような世界を我々が遊び場とする可能性は高まることでしょう。

そして、そこでは『Terminal Slam』の冒頭シーンのように、実際にAR・MRグラスをかける必要はありません。それぞれのユーザーが見ている画面ごとに、メタバースの運営費を支える広告はパーソナライズされるようになるからです。

そう、それって、現在のインターネットそのものでもあるんです。

そこはインターネットと世界が融合した「約束の地」

”インターネット上の概念を現実にインストールする”のが『Terminal Slam』の世界線なのだとしたら、「バーチャル渋谷」的なメタバースは、”私たち自身がインターネットの世界に入り込む”世界線なのかもしれません。

両者は同時に進行するかもしれないですし、どちらかが先に進み、残りが後から追いついてくるかたちを取るかもしれません。

しかし、どちらか片方が完成したならば、もはや両者の区別は付かなくなることでしょう。なぜなら、一度分岐したとしても、どちらも目指しているのは同じ終着点「インターネットとリアルワールドの融合」だからです。

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そして、僕たちはすでにそんな世界に片足を突っ込んでいます。

例えばコミュニケーション。直接会って聞いた話なのか、電話なのか、Zoomなのか、それともLINEやメッセンジャーでの話題なのか、インスタグラムのDMでのやりとりだったのかすら、すでに私たちの認識では曖昧になっているのですから。