アップルの垂直統合戦略、さらに巨大化するエコシステムはどこへ向かう?

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アップルの垂直統合戦略、さらに巨大化するエコシステムはどこへ向かう?
Photo: pedja kujundzic / Shutterstock.com

クローズド・プラットフォーム化は進むのか...?

Intel(インテル)との決別が発表されてから1ヶ月近く経とうとしていますが、まだまだ多くの謎が残る「Appleシリコン」。アップルのビジネスは今、どこからどこへ向かおうとしているのか。ARMへの移行をめぐる様々な影響について、米Gizmodoが解説しています。


Apple(アップル)は、長らく噂されていた通りにIntelから脱却し、今後はARMアーキテクチャをベースとした独自のCPUを製造することに決めました。この流れからは、生産・開発プロセスをさらに自社でコントロールしようというアップルの意思が見えてきます。

過去15年で最大の垂直統合になる?

GAFAの独占禁止法をめぐる公聴会での証言に最高経営責任者(CEO)のティム・クック氏が合意したことを踏まえて考えると、さらに興味深い流れになってきたなと思う人も多いのでは? これまで以上に壮大な垂直統合型のビジネスを形作ることを目指して大きな一歩を踏み出そうとしている矢先に、 EUがアップル/アップルストアに独禁法の疑いをかけられ本格的な調査を受けることになったのもまた皮肉的というかなんというか...。

サプライチェーンをできる限り社内に留めることで、コスト削減や収益の増加、さらには市場での立ち位置を維持することになります。すなわち、垂直統合こそがアップルにとって利益を高めるドライバなのでしょう

「ここ5年以上のあいだ、アップルはMacではさほど成功していない」とし、「多くのイノベーションはWindowsベンダーによるものだ」と米Gizmodoに語ったのは、アナリストのPatrick Moorhead氏。

アップルにとって垂直統合は、コスト削減と差別化のための方法なのではないでしょうか。

なぜアップルがコストもリスクも高いことをするのか、私には今のところ理解できません。開発者やユーザーへの明確な利点がないなかでも、アップルは利益を押し上げようとしているのでしょう。

ライバル社はどうか?

アップルが垂直統合にこだわるようになったのは、80年代頃からのこと。新興のコンピュータメーカーがアップルIBMのクローンを作り始めると、アップルは少なくとも1社を訴えて廃業させた一方、IBMのクローンは結果的にマイケル・デルを億万長者に仕立てることに...。いずれにせよ、30年に及ぶ垂直統合への賭けを経て、アップルは米国でもっとも裕福な企業になりました。

アップルの垂直統合戦略は、テック大手のライバルにとっても魅力あるものでした。90年代のMicrosoft(マイクロソフト)は、ネットスケープを追い込むためウィンドウズユーザーにインターネットエクスプローラーを猛プッシュし、極端な垂直統合を試みました。結局は、反トラスト法訴訟によって阻止されますが...。マイクロソフトは今やアップルのビジネスモデルに近づきながらも積極的に拠点を拡大しています。OSとハードウェアの両方を構築していることから、Windows 10の機能はSurfaceと相性抜群ですし、同じ理由でWindowsとXboxも非常にうまく連携するようになっています。

アップルは優れたプロセッサを開発できるのか

ARMプロセッサは、長年にわたって目覚ましい改善を遂げています。IntelやAMDが製造した最速のチップに匹敵するポテンシャルもありますが、スピードに関してはそこそこでしょうか。マイクロソフトもARMベースの製品を独自に抱えていて、その結果生まれたのが「Surface Pro X」(バッテリー寿命が最高)や「Samsung Galaxy Book 2」(パフォーマンスが全然よろしくない)など。

IntelやAMDが長いことラップトップやデスクトップ用のチップを構築してきたことを鑑みれば、アップルにもそれ相応の"強み"が必要となります。たとえばアップルのARMアーキテクチャの現在のコマンドなどはそのひとつ。iPhone、iPad向けのARMベースのCPUは手厳しいx86も認めていると聞いたことがあります。少なくともモバイル用のチップの作り方を知っており、もし流出したベンチマーク結果パフォーマンスの予測が裏付けされたなら、おそらく寿命もパフォーマンスもIntelやAMD以上になる可能性だってなきにしもあらず、ということになります。

では、IntelからARMへの移行はスムーズにいくのでしょうか? アップルは垂直統合ビジネスの例だけでいえば教科書並みであるには間違いないですが、依然として他の企業や開発者に依存しているのが実態です。80年代には、多くの開発者がMacデバイス用のソフトウェア作成に躊躇しました。当時は、ごく一部のユーザーにしか到達しないプラットフォームを開発するのに数百万ドルを費やす意義が理解されなかったためでしょう。ARMへの移行についても、開発者を納得させることができなければ、数十年前と同じことが起きる可能性があります。

開発者の声は

ARMは、アップルが現在販売しているIntelベースのMacで使用されているx86アーキテクチャとはまったく異なります。ひとつは、x86のCISCとは非常に異なるコードを処理するRISCに依存することになります。このことをアップルが自覚していないはずはなく、2019年にはmacOS 10.15 CatalinaでCatalystを立ち上げ、iOSアプリをmacOSでシームレスに実行できるようにしたのにも理由があることでしょう。 iOS、iPadOSストアには数百万もの優れたアプリがあり、新しいARMベースのMacという箱に留まらず、また移行の必要なく利用されるべきです。

Intelからの移行について「活気に満ちた未来が待っているはずだ」とツイートしたのは、iOSデベロッパーのSteven Troughton-Smith氏。「OSは長いことどっちつかずな状態でしたが、今後はiOSプラットフォームファミリの一部として前進できるのではないか」と意見を述べています。

ただ、たとえばiPadでインスタグラムなどのiOSアプリを使用したことがある人はご存知のように、常に何らかの修正が必要であることは明らか。 iOSもiPadOSもタッチベースのUIを備えていて、それを前提にアプリケーションが設計されているからです。

このことについて「本質的には、Macのマルチプラットフォームを殺すことになる」とツイートしたのはSkateBIRD開発者のMegan Fox氏。「すでにサポートする価値はほぼなくなってきているが、今後はまるで価値なしの領域に入る」と、Macを含む複数のプラットフォーム用に開発されたゲームなどのアプリについて述べています。アップルは、最終的にマルチプラットフォームアプリのサポートを確認し、ゲーム系に関しては大金が動く場合にのみという対応をする傾向があります。

さらに同氏は「サポートコストとMacからの収入はもう笑っちゃうくらい悪い」とツイートし「iOSの方が割が良いという意味では合理的ですが、それは適切な連絡先を持つ、選ばれた開発者である場合にのみ」と、アップルが特定のアプリの開発者と協力することについても指摘しています。アップルに気に入られたアプリは買収されたり、運が良ければApple Arcadeに採用され、運が悪ければそのアイデアに"影響を受けた"同様のアプリがリリースされてストアから拒否されるという顛末を迎えることになります。「コーダーにとってアップルはライバルだ」とツイートした開発者も。

Intelからの移行を機に、アップルがApp Storeを適切に管理できるようになるのかどうかはまだわかりません。Google Playストアと比較すれば、データを吸い上げてくるアプリの数は少なく、少なくとも品質管理も行き渡っているかもしれません。

ただ、アップルのコントロールが裏目に出ることもしばしば。たとえば、Vape関連のアプリを禁止したとき、Paxなどの会社は別のWebアプリを作成することに...。また、Basecampのメールアプリ「Hey」をめぐる一件もありました。アマゾンの電子書籍やコミックなどのデジタル資料など、そもそもiOSで購入することができないものもあります。アマゾンは、アップルに30%分配するよりもiOSユーザーがちょっと不便な思いをする方がマシだと考えているのかもしれません。

こうしたiOSの例とは異なり、MacOS開発者はMac App Storeを使用することで問題を回避してきました。しかし、将来的にはどうなるのでしょうか。特に、オペレーティングシステム用に開発している人々がiOSやiPadOS構築も一緒に行なっていたら? アップルはiOSやiPadOSでもそうしてきたように、MacOSを"クローズド・プラットフォーム"に変える計画はないと繰り返し述べています。でも、今回のARMへの移行によってうまく実現しようとしている可能性がありそうです。

オーディオアプリ開発者のChris Randall氏は「問題の一部は、私たちの現在のモデルがiOSソフトウェア周りのクローズド・プラットフォームの存在に基づいており、二次的な収入を生み出していることだ」とツイート。アップルは今、彼らの主要な収入源に影響するかたちでそのクローズドな壁を拡大しようとしていると言及しています。

クローズド・プラットフォームは加速する?

さらにARMへの移行に伴い、アップルはMacデバイス上で他のOSをサイドロードする機能をうまく削除しています。IntelベースのMacユーザーは現在、Boot Campアプリをロードして、デバイスにWindows 10またはLinuxパーティションを作成することができます。Boot Campは、ブートローダーや必要なドライバーなどあらゆるトリッキーなものを処理し、Mac以外のオペレーティングシステムの起動を非常に簡易化してくれます。これは、Windowsのみのアプリケーションを使用してビジネスをしている人や、MacとWindowsの両方での動作をすばやく確認したい開発者にとっても便利なものです。

Boot Campは、ARMベースのMacでは利用できません。技術的にデュアルブートは可能ですが、それも簡単ではありません。アップルもマイクロソフトも、Windows 10をApple ARM CPUで機能させる計画はありません。ARM Macでのデュアルブートやトリプルブートの将来がどうなっているかに関係なく、開発者にとってはターンキー方式ではなくなる可能性があります。

クローズド・プラットフォームではなくとも、ARMへの移行により間違いなく大規模な"壁"が作られるでしょう。議会がこの問題について取り上げるときには、iPhoneのバッテリー寿命が常に劣悪である理由を長々と追究するよりも、ぜひApp Storeやサプライチェーンが潜在的に反競争的になっていないかについて掘り下げていただきたいものです。

一方、MacOSファンとして期待できることもあります。アップルいわく、Intelベースのデバイスサポートは「今後数年間」続くとのこと。このことは、移行後でも旧来型のCPUアーキテクチャをサポートするという5年のことか、あるいは私の母が使って13年目になるMacBookでもサポートするという10年以上のことか、あらゆる意味合いを含むことになりそうです。アナリストのPatrick Moorhead氏は、バックアップとしてIntelをキープするのでは? という可能性についても話していました。

あぁ、そうであったらなぁ...!

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