なぜ犯罪のライブ配信は止められなかったのか? 『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』第3話ガジェット解説

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  • author 西谷茂リチャード
なぜ犯罪のライブ配信は止められなかったのか? 『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』第3話ガジェット解説
©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

Livestream:UNSTOPPABLE。

ギズが作中のガジェット考案やテクノロジー監修でガジェットコーディネートしているTVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』。第3話は、カオス性とバディ感がほとばしる回でした。加藤春(かとう はる)の内なる葛藤を知ってか知らずか、主人公の神戸大助(かんべ だいすけ)はいつものペースでマネーとガジェットを投入して事件の解決に尽力。機動隊をも手玉にとってしまいます。

舞台は新幹線での立てこもり事件です。犯人は乗客を人質にとり、その現場のライブ配信を「チェーンチューブ(ChainTube)」という作中の動画共有サービスでスタート。しかし表立って配信を止めようとする者は現れず、事件の展開はどんどん進んでいきます……。本来であればサービス管理者が止めるはずなのに、なぜ止まらなかったのか?

今回のガジェット解説では、犯人がライブ配信に使っていた「チェーンチューブ」の特徴と仕組みを紹介していきます。たとえ配信内容が違法行為でもなかなか止められない動画共有サービス。その秘密は、ビットコインなどの仮想通貨で有名になったブロックチェーン技術を応用していることにあります。

ブロックチェーンは良くも悪くも社会に多大な影響を与える(すでに与え始めている)技術なので、復習がてらに読んでいってください。

視聴者であり、管理者でもある

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

多くのブロックチェーンプロジェクトがそうあるように、チェーンチューブには特定の管理者(権限保持者)がいません。たとえば世界最大の動画共有サービス=YouTubeの管理と運営はGoogle社がしていますが、チェーンチューブの場合はそれに当たる法人も個人も存在しません。いるのは動画をアップロードする人と、それを見る人くらいなもの。ある意味ユーザーしかいない動画共有サービスで、それでもチェーンチューブがサービスとして成り立つのは、管理と運営をユーザーが少しずつ分担して担っているからなんです。

YouTubeの場合は、アップロードされた動画ファイルはGoogleのデータセンターなどに保存されています。誰かがその動画を見ようとすると、見せていいかどうかGoogleが判断した上で、動画ファイルがネット越しでデータセンター等から届きます。もし不適切な内容の動画だと、Googleの判断で見られないようになっているはずです。これは動画が見られるかどうかはGoogleが管理していて、動画ファイルの運用もGoogleが行なっている形ですよね。

一方チェーンチューブの場合は、アップロードされた動画ファイルはチェーンチューブアプリのはいった世界中のパソコンやスマホに少しずつ分散して保存されます。誰かが動画を見ようとすると、世界中のパソコン・スマホから動画ファイルのデータが集結することで見られる仕組みです。見て良いかどうかの判断は、アップロードした人が動画をアクセス不可の状態にしていない限り動画を見ようとしている人の自由。動画が見られるかどうかはアップロード者/視聴者が自己管理し、動画ファイルの運用はユーザーが手分けしてみんなのデバイスで行なっている形です。

実在するブロックチェーンプロジェクトの多くも、チェーンチューブにおける「動画」を他の種類のデータに置き換えて似たようなルールで動いています。

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要するにチェーンチューブでは誰がどんな動画をアップロードしてもOKで、その中からどんな動画を見てもOK。たとえ不適切な内容の動画があったとしてもこれを強制的に取り下げる力を持った法人や個人がいないため、アップロードした本人がアクセス不可にしない限り視聴可能な状態でネットに残り続けるんです。

楽しい意味では検閲フリーな自由地帯、怖い意味ではなんでもありの無法地帯ですね。

負担者が手にする新通貨

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

チェーンチューブが成り立っているのは、動画を共有したいユーザーたちがその代償として管理の責任と運用の重みを分散して負っているからと言えます。

しかし、この分散を常に完璧に平等に行なうことは至難の技。なので、チェーンチューブでは不平等を受け入れ、負担の多いユーザーには独自の通貨(コイン/トークン)でそれ相応の補償を与えています。たとえばストレージに余裕のあるユーザーが動画ファイルを多めに保存したら、手当として数コインが発生するイメージです(ビットコインだとマイニングにあたる活動)。こうして配られる独自通貨コインはサービス初期のうちは大して価値のないものですが、あとから巨額の報酬に化けるかもしれないポテンシャルを秘めています。

なぜか? それはチェーンチューブのユーザーが増えるにつれてこのコインの価値も上がっていくからです。日本円や米ドルに価値があるのは人々が価値を認めるからであり、チェーンチューブの場合も、ユーザーが増えてコインの価値を認める人口が増えれば、たとえ独自通貨であってもおのずとコインの価値が上がっていきます(0スタートなだけに上限は未知数)。この流れはビットコインなどの仮想通貨に現金換算の価値が生まれたのと同じ流れですね。

そしてユーザーの増加に拍車をかけるのが、チェーンチューブに組み込まれた成長の仕組みです。サービスが運用される中で生まれるコインを、チェーンチューブは一定の割合で勝手に少しずつ貯めていきます。これがある程度の額になったら、コインをエサに新規ユーザー獲得を目指すキャンペーンを実施するんです。

たとえば、話題性のある動画がアップロードされるように「1日1,000万再生を達成したら1億コインをプレゼント」と銘打って…。

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そう、作中で犯人が犯罪の現場をライブ配信してまで手にしたかったのは、この1億コインですね。犯罪はもちろんダメですが、『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』第3話は、必死な男が無機質なプロトコルに翻弄されてしまった悲しい物語でもあると思うんです。でもだからこそ。大助がヒュスクで事件の映像を根こそぎ消去したことには妙に納得してしまいます(よく考えるとヒュスクの処理能力とんでもない…)。

ちなみにチェーンチューブの仕組みに似たプロジェクトはすでに実在していて、たとえば「IPFS」ではあらゆるデータがブロックチェーン上に保存されています。そしてIPFS上の動画ファイルを専門的に扱う「DTube」などもあり、話題性の高い(周りのユーザーからの評価が高い)コンテンツをアップロードしたユーザーに報酬が発生する仕組みも組み込まれているんです(Steemit)。

スゴイなぁと思ったのは、ユーザー同士の評価が報酬に直結する仕組みになっていて、不適切なコンテンツが自然と衰退していくカラクリが出来上がっているところ。自浄作用さえも仕組み化できちゃうのは眼からウロコでした。このように、ブロックチェーンはいろいろな仕組みを分散化・自動化できる、これからの社会のあり方を左右しうる重要なテクノロジーです。

たとえば他にもアイドルの生成ゲームアイテムの管理、行政や銀行といったサービスの自動化などもできるらしいので、気になった方はこちらを読んでみてください。

小さいけどポテンシャルは大きいガジェットたち

第3話に登場した他のガジェットも駆け足でご紹介!

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

新幹線の高架に飛び乗るために大助が取り出した全自動グラップルフック。これはベルトにつなげたあと、行きたい場所に目掛けて投げるだけでOKの超便利ガジェットです。

投げられた角度からフックが大助の行きたいであろう場所を予測し(外を見るセンサーもある)、最適なひっかかり場所を目掛けて勝手に飛んでいきます。引っかかったらボタンを一押しするだけで身体が引き揚げられるお手軽さ。投擲スキルを磨かなくても高い場所に行けるガジェットですね。僕は南国でココナッツを取るために使いたいです。

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新幹線のフロントガラスを切るために使われたハイパワーレーザーのガラスカッター。対象が強化ガラスでも防弾ガラスでも内部の多層構造を検知してレーザーで的確に切断するため、新幹線のガラスもカットする事ができました。

強化されていないガラスであればダイヤモンドなどでスーッと傷つけて力を加える事でカッティングできますが…

Video: Marble flooring Jitendra sharma/YouTube

現代ではあらゆる場所に強化されたガラスが採用されていますからね。レーザー式ガラスカッターは必須ガジェットです。

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プロジェクター内蔵の腕時計……はその名の通りのガジェットで、近くの表面にキレイに映像を映すことができます。

何気ない機能ですが、小型で省電力の光源や、高密度で容量の大きい次世代バッテリーなどが実用化されていないと不可能な芸当なので、かなりハイテク。


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チェーンチューブ ほしい?

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