まさか528年後にこうなるとは思っていなかったろうなあ…。
反人種差別デモの影響で、夢追い人コロンブスも「新大陸に略奪と虐殺と疫病をもたらした死神」と揶揄されて各地でボッコボコにされています。オハイオ州コロンバス市でもコロンブス像が根こそぎ撤去されてるし、マイアミもペンキで真っ赤っか。ヴァージニアでも縄で引きずり回されて湖にポイっ。
BREAKING: A statue of Christopher Columbus in Byrd Park has been removed by protesters and dragged into the lake. This is a developing story. pic.twitter.com/yFjiUdPTMk
— WTVR CBS 6 Richmond (@CBS6) June 10, 2020
サンフランシスコのイタリア人街コイットタワーの像も「海に棄ててやる!」という予告がネットに出回って、市が自主的に朝の3時に早起きして撤去しちゃいました。ほかの州では像を銃で守る人とデモ隊がもみ合いになって重傷者も出ているのでしょうがないか…。
イタリア漁師街の歴史が感じられる像ということで、後釜の候補には早くも市名由来の聖人フランチェスコ、イタリア統一の志士ガリバルディ、ペロシ議員らの名前が挙がっています。ディマジオ(ここで漁をさぼって球場に入り浸って育った野球界のレジェンド)とマリリン・モンロー(ここで結婚して日本に新婚旅行した)の像もロマンティックでいいと思うけど、どうなることやら。
コロンブスは「西から回ったほうが早くね?」と欧州から漕ぎ出したへそ曲がり。地球の計算を壮大に間違えて「ジパング(日本)に30日で行ける」と本気で思ってたそうですよ? コロンブスがインドと勘違いして上陸したサン・サルバドル島ではなく、本当のインドがある方角の海を向いているコロンブス像もそれはそれでおもしろかったのだけど…、あっけなく消えてしまいました。
世界に広がる奴隷商人像撤去
ベルギーではレオポルド国王(コンゴのゴム農園でノルマを達成できなかった奴隷の手足を切り落とした)の像が各地でペンキを被って小突かれたり、燃やされたりしていますし、イギリスでは奴隷商人エドワード・コルストンの像が港にゴロンと棄てられ、砂糖農園で500人余りの奴隷を所有していたロバート・ミリガンの像も消えました。
鉄宰相チャーチルまで「人種差別主義者」と落書きされているのは、え? それヒトラー倒した人だよ!?!?!? となりましたけど、インドやアフリカの人から見たら帝国主義の象徴なんでしょう…。
奴隷解放のために戦った北軍の名将まで撤去
ん? と目が点になる撤去はほかにもあります。たとえば文豪フィッツジェラルドの遠縁にあたる国歌作詞家フランシス・スコット・キーの像。国歌は涙して歌うくせになんで!?!?!?
南北戦争で奴隷解放のために戦った北軍総司令官ユリシーズ・グラント第18代大統領まで引きずりおろされています。「奴隷を囲っていた」というのが理由らしいけど、奴隷は戦前にもう解放していたみたいですよ? KKK規制法、元奴隷の投票権獲得に奔走し、日本に初めて表敬訪問して不平等条約改正まで進めてくれた人なのに…なんでや!?!?!?
#BREAKING: Demonstrators topple statues in San Francisco's Golden Gate Park. @hurd_hurd will have details on our News at 11. https://t.co/RvmlMqu73spic.twitter.com/iUZE28AvdD
— NBC Bay Area (@nbcbayarea) June 20, 2020
硬貨や紙幣の偉人も続々
ポートランドのジェファソン高校では、独立宣言起草者トーマス・ジェファソン第3代大統領の像も倒されました。生涯600人余りの奴隷を有し、黒人奴隷サリー・ヘミングスと7人の子をなし、子孫に関する本まである人物なのがその理由ですけど、ジェファソンは矛盾の塊の人物で、一面的には評価が難しいとされます。「人はみな平等」と宣言してアメリカが独立しなかったら、世界の独立運動もなかったんじゃ…。
いやあ…、5セント硬貨1枚1枚にペンキ塗る気なんだろか…。ジョージ・ワシントンも標的になっているので、そのうち1ドル札も落書きされちゃうかもしれません。
Protesters in Portland, Oregon, pulled down the Thomas Jefferson statue that sat outside of Jefferson High School. pic.twitter.com/HSTNEqUcTS
— AJ (@ajplus) June 15, 2020
黒人の寄付で建てられた像まで狙われる
もっとアレレなのは、リンカーン奴隷解放記念碑で、これには通りがかりの黒人女性がやめろと怒って、ネットでも「台座の解説読めよ」の声が挙がってます。台座には「奴隷解放宣言で自由の身になった方々からの寄付だけで建てた碑です。最初の5ドルを贈ってくれたのはヴァージニアのシャーロットさん。奴隷解放後、初めて稼いだお金を寄せてくれました」とあるんですよ…。いやあ…。
Would you like to know the actual history of the statue?
— Benny (@bennyjohnson) June 24, 2020
Paid for in full by emancipated American citizens: pic.twitter.com/lzWkuRkVec
アメリカ自然史博物館入り口のセオドア・ルーズベルト大統領の像も、先住民と黒人を後ろに従えた騎馬像の構図が「差別的」との判断で自主的に撤去が決まり(大統領の父が創設した博物館なので展示ルームを大統領の名前にするそうです。大統領自身はホワイトハウスの夕食会に初めて黒人を招いた人なので問題にされていない)、これに類した構図の像も俎上にのぼっています。たとえばこちら。
On the need for nuance & feeling: “The $20,000 used to build the monument had been raised among black Americans, most of them former slaves. The model for the kneeling slave, Archer Alexander — a former slave — was photographed and sent to the sculptor.” https://t.co/KyyOkfKdhw
— Nicholas A. Christakis (@NAChristakis) June 25, 2020
でも構図がセンセーショナルなだけで、これも黒人の方々の寄付で建てたリンカーン奴隷解放記念碑です。ちゃんと意味のあるものなのだから壊さないで残そうよとWashington Postが呼びかけていますよ。
キリがない
昔は奴隷にするかされるかだったので、アフリカでは黒人が黒人を狩って売っていた歴史もあります。今の常識から断罪するのはフェアじゃないような…。
アメリカでは黒人奴隷に代わる労働力としてつい最近までアジア人が排斥の対象でした。アメリカ横断鉄道を敷設して鉄道王スタンフォードを生んだのも清国苦力(クーリー)20万人。戦時中は日系人が強制収容所に入れられました(それに反対したラルフ・カーは政治家生命を失った)が、フランクリン・ルーズベルト大統領の像を日系人がねじり鉢巻きして倒すところはあまり想像できません。もう終わったことだし…。
歴史なんて出発点をどこにするかで全然違ってきますからね。大統領4人の顔を彫ったラシュモア山も、先住民の領土と約束した条約を一方的に破ってぶんどった聖地。ほんとキリないです。