明日アプデ予定のシーズン4、Appleユーザはどうなる?
AppleがEpic Gamesに対し、「2020年8月28日付ですべてのEpicの開発者アカウントを削除し、iOSおよびMac開発ツールへのアクセスを禁止する」と警告した件について、Epic Gamesは先週、一時差止命令を下すよう裁判所に申請しました。
カリフォルニア州北部地区連邦地裁は現地時間の24日、双方の言い分を聞いたうえで、最終的に「『フォートナイト』のApp Store再配信申請は却下、Unreal Engineのアクセス禁止は差し止め」と判断を下しました。
ブルームバーグの記事によると、イボンヌ・ゴンザレス・ロジャーズ判事は、「Epic Games、Appleともに訴訟を起こす自由はあるが、彼らの論争によって多くの傍観者に大混乱をもたらすべきではない」と述べています。
ロジャーズ判事は予備審問の開始前から、「『フォートナイト』とUnreal Engineは切り離して考えている」と宣言していました。つまり、Epic Gamesによる「直接決済方式を認めたうえで『フォートナイト』をApp Storeに復帰させてほしい」という要求は認めないが、AppleによるUnreal Engineの削除は差し止める、ということです。その理由は「Unreal Engineへの措置はEpic Gamesだけでなく、同ゲームエンジンやクロスプラットフォーム開発ツールを利用するすべての開発者に大きな打撃を与えるため」。今回の決断はその意向がそのまま表れた内容となりました。
予備審問自体はAppleとEpic Gamesが互いに熱く語ったり、時に怒りを見せたり、なんというか、エンタテインメント劇場という感じで展開しました。判事の最初の質問を無視してのらりくらり話をするApple側の弁護士が、判事に「おだまりなさい」的にやられるワンシーンもありました。
法廷にはたくさんの法律関係者がいましたが、彼ら全員、予備審問が一般公開されていること、そして多くの人がZoomを通して視聴していることをビンビンに意識していました。ロジャーズ判事も予備審問冒頭、Zoom視聴者向けに時間をとり、Epic Gamesが要求した一時差止命令がどんなものなのかを説明しました。
最初の争点は『フォートナイト』とUnreal Engineは別物か否か
Appleは、『フォートナイト』とUnreal Engineは本質的に同一会社が制作、指揮していることから、その両者を排除することが自社の最大の利益になると主張しました。しかし、ロジャーズ判事がAppleの演説を制して「“はい”か“いいえ”で答える」ように要求すると、Unreal EngineをApp Storeから削除することにより、デベロッパーなどの第三者にも影響が及ぶことを認めました。
Apple側にミスがあったとすれば、判事の前で「『フォートナイト』がAppleへの敬意を表す形でApp Storeに戻れば、それで丸く収まるでしょう」と悪意すら感じる主張を繰り広げたことでしょう。判事に自らの主張を認めさせるのに、これは逆効果だったはず。悪い大企業による独占、という感じが出てしまいますから。
これに対しEpic Gamesは、『フォートナイト』とUnreal EngineはそれぞれAppleと個別に契約したうえでApp Storeに公開していると反論。Epic Gamesは『フォートナイト』については自ら契約に違反しましたが、Unreal Engineでの契約に違反はなかったと主張しました。
ロジャーズ連邦地裁判事は、ゲームエンジンに対するAppleの措置は『フォートナイト』にかかわるEpic Gamesとの契約を逸脱しており、Appleに何の害も及ぼさない追加制裁は報復的である、と述べました。
この点については、Epic Gamesの小さな勝利と言えるでしょう。ただ、まだたったの一勝です。今後何度も開催されるであろう予備審問の初回にすぎません。「これはAppleにとっても、Epic Gamesにとっても、スラムダンクではありません」とロジャーズ判事は言いました。
Epicの主張①「すべての決済がApp Storeだと顧客との関係が損なわれる」
『フォートナイト』のApp Store復活については、両社の意見は平行線に。Appleは、Epic GamesがApp Store公開後にだまし討ちで「フォートナイトの乱」を起こすため、アプリ内に故意にコードを隠していた、という爆弾発言的な主張を展開。Epic Gamesはこれを激しく否定しました。
判事はまた、Epic側に「なぜ以前のスタイルに戻せないのか、あるいは直接決済を排除することはできないのか」と尋ねました。そもそも、このApp Store規約違反がことの発端ですしね。しかし、Epicは同社が払戻しを管理できず、すべての決済がApp Store経由で実行されることで顧客との関係が損なわれると主張しました。ただ、同社は予備審問を通じて「損害賠償」は考えていない、と繰り返しています。
Appleの反論①「猶予をあげたのにEpic Gamesが違反を撤回しなかった」
判事はAppleに対しても「『フォートナイト』をApp Storeから削除する必要があったのか」と疑問を呈しました。これに対し、Appleは「Epicが契約に違反したため、削除した」とし、「Epicの顧客を重視し、アプリを修正する期間として14日間の猶予を与える寛大な措置をとった」と主張しました。同社の弁護人は「Epicの顧客は、Appleにとっても顧客」と述べています。
(ちなみに、Appleは最近、アプリ内購入のオプションが含まれていなかったとして、iOS上でWordPressのアプデをブロックしました。しかし、すぐに撤回しています。これは…?)
Epic の主張②App Storeの手数料30%の「独占的」
Epic Gamesは、AppleがすべてのデペロッパーにアプリをApp Storeに置くことを強制し、「サービス」の代金を支払うよう要求する、と主張して反発しました。同社は、この慣習によりAppleが「独占的」であったと語っています。
予備審問の過程で、ロジャーズ判事による鋭い指摘がありました。それは、Epic Games自身が長期にわたって声を大にして訴え続けてきた疑問:「なぜAppleは30%の手数料を請求するの?10%とか15%じゃダメなの?それで消費者にどんな利益があるの?」というもの。Epic GamesがApp Storeを通さずに、iOSアプリ内で直接決済を導入し、価格を20%割安にする際に使ったのと、同じ理論です。
Appleの反論②「消費者にはプラットフォームを選択する自由」がある
Appleは、同社製品を使うか否かは消費者の自由であり、iOSからAndroid、macOSからWindowsなど、いくらでも別のプラットフォームに切り替えられると主張。それも一理ありますが、Android / WindowsとiOS / macOS用に構築されたアプリは、OSの動作が異なることから、コーディング方法が異なるのも事実です。違和感なく別のプラットフォーム(PCやコンソール)でプレイできる人もいるでしょう(が、そうでない人もいます)。Appleは予備審問の中で、iOSのアプリ内購入はEpic Gamesの『フォートナイト』による総収益の12%にすぎない、と指摘し、Epic Gamesもこれに対する反論はしていません。
ただし、ゲームがユーザアカウントと紐づいているからといって、すべてのゲームが『フォートナイト』のようにクロスプラットフォームでプレイできるわけではありません。だからこそ、Epic Gamesの弁護士は今回の予備審問全般を通じて「これは自社の利益を維持するだけでなく、Appleが認識している独占を包囲するための戦いである」と明言しているわけです。 今回は、Epicの勝利。ただし、完全勝利ではない。現時点ではEpic側がわずかに勝利しました。
『フォートナイト』が今すぐApp Storeに戻ることはなさそうですが、Unreal Engineに依存し、現在iOSおよびmacOSのApp Storeで展開する何百ものゲームの安全は守られるはずです。
次の予備審問は、2020年9月28日に予定されています。
修正[2020/08/27]誤字を修正しました。また、「hearing」の訳を公聴会→予備審問に修正しました。