夢の「光熱費ほぼゼロ」にまた一歩。無人ヨットで水素を運搬したいテック企業が、2m級のドローンでテスト帆走に成功

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  • author 西谷茂リチャード
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夢の「光熱費ほぼゼロ」にまた一歩。無人ヨットで水素を運搬したいテック企業が、2m級のドローンでテスト帆走に成功
Image: everblue.tech (無人ヨットのコンセプト図)

逗子に無人ヨット来た。

エネルギーを限りなくタダ」にするために、水素をタダで生産→運搬→提供することを狙う日本発ベンチャー、エバーブルー・テクノロジーズちょっとブッ飛んでいる野間恒毅さんが進めているこのプランの鍵となるのが、洋上のソーラー水素プラントと消費者のいる陸を結ぶ無人ヨットの開発です。

6月に2m級の帆船ドローン「Type-A」の開発とテストが成功し、いよいよ現実味を帯びてきました。

なぜ洋上? なぜ水素?

毎年の夏が暑くなっていくようにも感じる近年。刻々と深刻度を増す地球温暖化に歯止めをかけるには、再生可能エネルギーの普及が必要と言われています。そのなかでも有望なのがソーラー(太陽光)発電ですが、日本はソーラー発電に使える国土に限りがあるそうです。そこでエバー・ブルーテクノロジーズは「陸がダメなら海に行けばいい。日本には広い領海があるのだから、洋上にソーラー発電プラントを作って陸に送電すればいい」と考えました。

そして送電の方法は水素。長い長い高圧電線を海に張り巡らすのではなく、洋上プラントで電力を水素に変換して、水素を無人ヨットで陸に運ぶ。そうすることで初期投資少なく、フレキシブルで持続可能なエネルギー供給網を構築しよう画作しています。また結果としてほぼ無人のオペレーションでエネルギーを人々に届けられるため、光熱費もほぼゼロにできるはず!という一石二鳥のプランです(続く三鳥目も四鳥目も狙っているみたい)。

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Image: everblue.tech (大型無人ヨットの完成予想イメージ図)

このプランが本格始動する際は、10m前後の大型無人ヨットが投入される予定。今回テストに成功した2m級の帆船ドローン「Type-A」は、その前身となります。

帆船ドローンの今とその魅力

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Image: everblue.tech (とてもユニークなトライマラン=三胴式。「自動操船ヨットに最適な構造、かつ帆走効率を最大化した構成」なのだだそう)

プラン実現のためには、無人ヨットは少なくとも、洋上に指定された長距離ルートを自立的に安定して帆走できなければなりません。今回Type-Aが成功したのは、自然風と電動補助モーターを駆使して、数メートルの精度を発揮しながら自律的に帆走することです。

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Image: everblue.tech (ちょっとType-Aとレースしてみたいですね)

これは非常に大きな一歩。

あとはType-Aをスケールアップし、水素タンクを載せて、水素プラントと陸で自動発着艦できるようになれば、ほぼほぼ大型無人ヨットの完成が見えています。実際はそんな簡単な話ではないと思いますが、本物の海で本物の自立帆船が走ったと知ると気がはやっちゃいますね。

新展開:Type-Aを活かす

技術の実証ができたからお役目ごめんのType-Aかと思いきや、新たな用途が見出されました。それは魚群マッピングと漁の自動化と海上タクシー。

現在Type-Aベースで開発されている新型の帆船ドローンは、漁師などのユーザーが指定したポイントやコースで魚群探知を行なえるそうです。出港前にドローンで魚群を探知することで漁が効率化するのは明白なメリット。神奈川県の二宮漁場から全面的な協力も得られていることもあり、割と速いペースで実現しそうな気がします。

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Image: everblue.tech

そしてその新型ドローンをAI(人工知能)で賢くするのが次のステップで、こうなるとユーザーがポイントやコースをしていた魚群探索を自動化できるとのこと。なのでたとえば、漁師が朝起きてスマホを見たら「今日は出港日和です」なんてわかる日が来るのかもしれません。しかもそれだけでなく、帆船ドローンに一本釣りの器具を取り付けることで高級魚の一本釣りも自動化できるんだそうで……もはや放置系の魚釣りゲームですね。これは僕も一本釣りドローン欲しい。

また、安全性が確認できれば人を乗せることもできるらしく、無人海上タクシーの実現にも繋がります。運転手ゼロ、エンジン音ゼロ、温室効果ガス排出ゼロの風で走るプライベート空間。暗闇に惑わされないセンサーを積んでいるので、夕焼けや星空だって海で見れる。ロープワークに汗をかくことなくそれを味わえるなんて、海上観光のパラダイムシフトですね。ロマンチックにもほどがある。航海に人件費がかからずお安くできるのも大事なポイント。

帆船ドローンの魅力

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Image: everblue.tech (船体は3Dプリント。生分解性フィラメントに切り替える準備も進めています)

帆船ドローンが漁の場面でも活きそうなのは、やはり操縦者がいないことによる人件費削減があるかと思います。しかしそれだけでなく、帆船型はエネルギー効率が高いところお魅力です。帆を貼ることで動力の大半を風から得ることができるため、電力を使用するのは自律航行のための計算と操舵くらいなんですよね。

実際どのくらい効率がいいのか、エバーブルー・テクノロジーズの野間さんに伺ってみました。

たとえば2,200mAh(小型スマホ並の容量)のバッテリーを飛行型のドローン(330mm級のクワッドコプター)に載せた場合。スピードはでますが、飛行できるのは約10分程度で、積載できるのは数百グラムだそうです。いっぽう帆船型のドローン(全長1mクラス)に同じバッテリーを載せた場合、スピードは飛行ドローンほどは出ませんが、数キログラムの荷物を4時間ものあいだ輸送できるのだそう。

どっちが良い悪いではなく、スピード重視の軽い物は飛行ドローンで運び、重いもの輸送や滞在時間重視のサービスは帆船ドローンで実現する、という使い分けになるでしょうとのことでした。

で、光熱費はいつほぼタダになるの?

船好きとしてもガジェット好きとしても、Type-Aにニューライフが見つかったのは良かったと思います。ですが本当に気になっているのは、光熱費は実際いつごろほぼタダになるのか。なのでこれも野間さんに聞いてみました。

そしたら「海に住めるようになれば電気代はかかりません。10年以内にはそうなるでしょう(笑)」。とのこと。

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Image: The Seasteading Institute (海面上昇で失われる土地の代わりとしても注目される洋上都市)

なんと!

光熱費どころのはなしではありませんでした。我々は10年以内に洋上で暮らせるようになり、その副作用として光熱費がタダになる。

やはりちょっとぶっ飛んでいますね。すごく好き。早くそんな未来になって欲しい。

Source: everblue.tech

無人ヨットのある未来 ほしい?

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