最先端のVRと70億円の映像なら、人に死を錯覚させられる?
ギズが作中に登場するガジェットの考案やテクノロジーの監修をしているTVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』。いよいよ主人公・神戸大助(かんべ だいすけ)の過去と目的に迫る第7話となりました。そして過去と現在を結ぶのは、大助が幼い頃に神戸家で起きた事件のようです…。
第7話では、神戸家の過去の事件に関する情報を握っていると見られる武井刑事を特殊な形で尋問します。VRシステムで仮想世界をさまよわせて、心揺さぶる思い出のシーンと事件関連の恐怖のシーンで波状攻撃…。武井はあえなくキーパーソンへの連絡先を手元のスマホに入力してしまい、VRシステムによる尋問は終了しました。

今回のガジェット解説では、このVR尋問で使われた網膜投影型VRシステムをご紹介します。
デジタル化・IoT化がグイグイ進んでいく中、仮想世界は僕らにとって現実の延長線上にある空間となるはずです。そしてその仮想空間へ行くためのガジェットがVRシステムで、体に装着しない(&体に埋め込まない)タイプのものとしては、網膜投影型のVRが最高峰のシステムになると思われます。
これからどんどん進化し、普及してくるであろうVRシステムたち。その一種の完成形がコレです!
『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』は毎週木曜24時55分からフジテレビ“ノイタミナ”ほか各局にて放送中。各放送・配信情報などはこちら。
装着感ゼロ、違和感ゼロ

今回のガジェットコーディネートで解決しなければならなかった課題は、主に2点でした。
・尋問対象の武井から鍵となる情報を引き出せるガジェットであること
・尋問中それを悟らせない仕組みであること(対象が正気では口を割らない相手のため)
なのでシナリオを決める本読み段階では、脳から強制的に記憶を読みよるガジェットなども案として上がっていました。当時ちょうどNeuralink(脳マシンインターフェースのスタートアップ企業)が大きな発表を行なっていたこともあり、「10年以内に実現できそうなガジェット」判定もパスできる、有力な案だったんです。
ただし、そうしたBMI(脳-マシンインターフェース)が可能だと、武井含めあらゆる人物からどんな情報でもお手軽に引き出せてしまいますよね。非常に便利なガジェットである反面、大助や相棒の加藤が活躍する場面が減ってしまいます。そこで便利すぎないガジェットとしてVRを使うことに落ち着きました。
具体的には、仮想世界を見ていることを気づかせないVRシステムで死後の世界を演出し、動揺しているところを突いて情報を引き出すという流れです。これには:
・装着感ゼロのVRディスプレイとオーディオシステム
・仮想と現実の触覚をシンクロさせるシステム
の両方が必要だったので、網膜投影ディスプレイを採用することにしました。
というのも、いま一般的に販売されているヘッドセット型だとどうしても頭に接触しているため、頭を振ったときや顔に手を近づけた際に装着していることがバレやすいんですね。なので作中のVRシステムは、顔と接触せずある程度の遮りにも対応できる網膜投影型ディスプレイを、ロボットアームで浮かせています。

これによって、たとえ武井が頭を振ったり手を顔に近づけたとしても、ロボットアームがディスプレイを高速で動かすことで接触を避けながら視線を追従できますし、避けているあいだも網膜に対する光の照射を工夫することによって、仮想空間の映像を途切れさせることなく見せ続けられます。

これが網膜投影型の優れたところで、通常であれば網膜の右側に当たる光は視界の左側からこなければなりません(だからこそ視界の左側から来たと知覚するように脳が鍛えられているわけです)が、網膜に直接光を当てる仕組みなので、右側から照射しながらも網膜の右側に当てられるんです(虹彩を通るルートのレーザー光はこの研究の応用などで通したりしなければなりません)。言うならば眼球ハック。
と、要するに網膜投影型だと装着感ゼロで仮想空間が見れるわけなんですが、1つ弱点があります。それは部屋全体を暗くしなければならない点。
目を覆うヘッドセット型と違って環境光が入りやすい仕組みなので、没入感をマックスにするには環境光をゼロに=部屋を暗くしなければならないんですね。光をコントロールしやすい神戸家の広大な地下ラボは、まさしくうってつけのロケーション。ちなみに手などが至近距離で視界に入ってしまう(網膜投影ディスプレイと眼の間に入ってしまう)ときは、プロジェクションマッピングで手そのものを仮想世界に合わせた色で照らすなどの工夫で乗り越え可能です。

オーディオに関しては、ディスプレイと同じくサラウンドスピーカーをロボットアームで耳の近くに浮かせる仕組みです。なので、これも手が近付いたりした時に距離を取って避けるわけですが、その際は音の出し方を工夫することで聞こえ方を同質に保つことができます。言うならば聴覚ハック。
最後のハードルが、触覚(ハプティック)フィードバックです。武井が仮想空間内で触れる椅子やベンチなどの触覚を現実世界でも再現しないと、ミスマッチが起きて仮想空間であることがバレやすくなってしまいますよね。そこで、ここでもロボットアームが活躍し、仮想空間内の環境に合わせて現実世界の環境を合わせています。言うならば最強の黒子です。

ここまで作り込んだVRシステムで最高品質のVR映像(製作費70億円ちょいらしい)を流されたのならば、死後の世界を見ていたと勘違いしてもおかしくないですよね。
神戸家の警備ドローン

加藤が神戸家に押し入ったときに仰々しく現れたドローンは、ダクトファンの推力をフィンで偏向しながら浮くドローンです。後方には空気噴射で姿勢制御や加減速するためのスラスター群が備え付けられています(このおかげで姿勢を崩すことなく方向転換などできる)。

また警備ドローンなので、ある程度の防犯装備を内蔵しています。レーザーで照準を合わせた対象に何かしらを打ち込む訳ですが……、左右にある丸っこい装備が特にガジェッティーな仕組みになっています。これに関しては第8話のガジェット解説記事にて。
ちなみにこの警備ドローンのフイーンという飛行音は、ギズが参考ようにお送りしたこ・れ・らの動画をベースに、音響チームの方々が作ってくれているのだそう!
アドリウム

トンデモ物質アドリウムに関する解説はもう少しあとになりそうです。勘のよい方はもうお分かりかもしれませんが…!
