核融合は人類を救うわけじゃない

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  • author Yessenia Funes - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
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核融合は人類を救うわけじゃない
Image: ITER

「原子炉」の常識を塗りかえられるか。

世界一の規模を誇る核融合実験炉「ITERの建設がついに始まりました。

これまでの原子炉は、原子爆弾に使われたのと同じ「核分裂反応」でエネルギーを作り出していたため、相応のリスクを伴いました。一方で、ITERは原子炉でありながらも「核融合反応」を用いてエネルギーを作り出すまったく新しい仕組み。もしITERが成功すれば、人類は化石燃料を燃やさずとも、核廃棄物の処理に悩まされずとも、安定したエネルギー源を手に入れることができるはずです。

ITERは果たして人類の期待に応えてくれるでしょうか。

とはいえ、冒頭のタイトル然り、核融合だけでは人類は救われないだろう、と米GizmodoのYessenia Funes記者は指摘しています。なぜなら、地球環境を守りつつも人類が持続的に発展していくには、技術だけでなく、私たち一人ひとりの行動変容が不可欠だからです。

核融合技術の利点、そしてその思わぬ落とし穴について、Funes記者が深掘りしました。


フランス南部、サン・ポール・レ・デュランス。

この地に置かれた核融合実験炉「ITER」の建設サイトで、いよいよ組み立てが開始しました。

ITER(イーター)は日本・EU・アメリカ・ロシア・韓国・中国・インドの7カ国間で運営している超大型国際プロジェクトで、2025年に運転開始を目指しています。もとは「International Thermonuclear Experimental Reactor」の頭文字を取った名称ですが、ラテン語では"道"も意味しているそうで、量子科学技術研究開発機構によれば「核融合実用化への道・地球のための国際協力への道」たれ、という願いも込められているのだとか。

ITERが拓く道。それは、石油にも核分裂にも頼らない未来です。

核分裂と核融合の違い

国際原子力機関によれば、いま世界中で稼働している原子炉は450機。そのすべてが核分裂反応からエネルギーを取り出しています。一方で、ITERは星の輝きを作り出す核融合反応を目指しています。

同じ「原子力」でもこれらの違いは大きく、科学者は長年にわたって核融合反応を地球上で再現しようと試みてきました。ITERは、この試みを初めて大型化したものです。

「核分裂と核融合の違いは、一方の核分裂原子炉は開発を始めて数年後には実現できたのに、もう一方の核融合原子炉は60年以上経った今でもまだ実現できていないことが如実に物語っています」

ITERに携わってきたEugenio Schuster教授(米リーハイ大学)はこう説明しています。核融合のほうが、はるかに技術的に困難なのです。

核分裂反応のリスク

しかし早い段階で実用化された核分裂のほうは、残念ながらいいことばかりではなく、安全面での課題が山積しています

核分裂反応では、ウランやプルトニウムなどの放射性元素に中性子をぶつけて核分裂の連鎖を引き起こし、莫大なエネルギーを放出させます。この反応を制御しながら行なうのが原子炉で、瞬時に放出するのが原子爆弾です。

原子爆弾がもたらした惨劇は言わずもがな、原子炉もメルトダウンの危険性が伴うほか、大量の放射性廃棄物(俗に言う「核のごみ」)を出してしまう問題も抱えています。

また、核分裂反応に使われるウランの採掘が環境問題を招いているケースも。アメリカではウランの採掘がナバホ族の土地の水を汚染し、健康被害をもたらしているそうです。

ウラン汚染がナバホのようなアメリカ先住民族のコミュニティにもたらす被害は甚大です」と話すのは環境保護団体Diné C.A.R.Eの事務局長・Carol Davisさん。「ウランに汚染された飲み水が放置されっぱなしなのに、ナバホの人々はその水を飲んで使うしかありません」。

アメリカだけでも9万トンの核のごみが行き場を失くしている今、健康被害や環境汚染ももたらす核分裂反応に懐疑的な目を向けている人は多く、Davisさんもそのひとりです。大量の放射線物質をまき散らすリスクに加え、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギー技術に費やす時間と資金とを奪っているとの厳しい見方を隠していません。

核融合反応のメリット

では、核融合反応はどうなんでしょうか。

そもそも核融合とは、その名のとおり軽い原子核同士が融合してより重たい原子核に変わる反応のことで、融合した時に大きなエネルギーを生み出します。核融合は星の中心核で生み出されているエネルギーの源。我らが太陽は、核融合反応が起きた時に生まれる莫大なエネルギーによって光り輝いています。

星の中心で起こっていることを地球上で再現するとなると、1億5000万度(!)という超高温環境が必要になってきます。物質は1万度以上に熱されると「プラズマ」と呼ばれる第4の状態になり、原子核と電子がバラバラになります。さらに1億度以上に熱すると原子核がすばやく飛び回るようになります。この状態になってはじめて原子核同士がものすごいスピードで衝突し、合体して、より重たい原子核に変わる──要するに、核融合が起きるのです。

一億度に熱されたプラズマと聞くと非常に危険なかんじがしますが、このプラズマは超伝導磁石によってドーナツ型の装置に閉じ込められるので、外に漏れ出す心配はないとのこと。すなわち、核融合反応は原子炉がメルトダウンする危険性がなく、ウランを必要とせず(必要なのは水とリチウムのみ)、地球温暖化ガスも直接は排出しません。

「なぜ核融合に多額の資金と時間を注ぎ込んでいるのか。核融合にそれだけ大きな希望を託しているからです」と前出のSchuster教授は説明しています。

「温暖化ガスを排出しないという観点から見ると再生エネルギーと同じメリットがあると同時に、同じエネルギー量を作り出すために必要な面積はずっと小さくてすみます。さらに、これまでの原子炉のように半減期が長い放射性廃棄物や、原発事故が発生する心配もありません」

ITERでは水素の同位体である重水素三重水素(トリチウム)を核反応させます。重水素は海水中に自然に存在しているものを使い、三重水素は自然に存在している量が少ないのでリチウムから作り出します。核融合反応に必要なリチウムと水(海水)の量は、採掘産業などに比べたら微々たるものだそう。ITERが年間消費する燃料の総量はたった250キログラムとも言われています。しかも、Schuster教授の指摘によれば、重水素を取り出した海水はほとんどが水源に戻されるとのことなので、環境への影響は比較的小さく済みそうです。

核融合の落とし穴

ITERに対する懸念はむしろ環境負荷ではなく、安全性です。

プリンストン大学助教でITERに関わっているEgemen Kolemenさんは、「核分裂反応とは違うものの、核融合反応もやはり核反応です。ですから、少量ではあっても核のごみが生じることは避けられません」と指摘しています。そして、核のごみが生じると、必ずそのごみの負担を巡って不平等が起きます。

「核融合炉に関しては信じがたいようなメリットが触れ込まれていますが、同時にコスト面にもしっかりと目を向け、誰がその影響を受けるのかを精査する必要があります」と忠告しているのは環境保護団体Diné C.A.R.Eで活動するLeona Morganさん。「私たちはこれまでも原子炉を巡って人権侵害や環境汚染などの問題を目の当たりにしてきました。まずはこれらの問題から学び、教訓を活かすことが不可欠です」。

そのためには、核融合炉を作る前にまず核のごみをどう対処するかを公平に決めなくてはなりません。アメリカの歴史上、核のごみ問題が少数民族や低所得層コミュニティーに重すぎる負担を強いてきたことは否めないからです。

核融合は人類を救わない

今、ITERは、持続可能な人類の発展を支える新しいエネルギー源として大注目されています。まだ実験段階ですが、ITERが成功すれば石油燃料に頼らない発電が可能になり、地球温暖化に歯止めをかけられるかもしれませんし、核分裂炉ともおさらばできるかもしれません。

でも忘れてはいけないのは、核融合は技術に過ぎず、技術のみでは人類は救われないということ。どんなにカンペキなエネルギー源を開発できたとしても、それだけでは変われません。

地球温暖化を止めるには、私たち一人ひとりの行動変容が鍵となります。温暖化ガスの排出を削減するには、クリーンなエネルギー源を開発すると同時に、消費を減らして、エネルギーを無駄使いしない新しい生活様式が身につかなくては意味がないのです。

それに、そもそも温暖化ガスの排出量を削減するために立場の弱いマイノリティーに不相応なツケを払わせては本末転倒

気候変動の危機を注視するばかりに、ほかの問題から目を背けてしまってはいないでしょうか。このまま地球温暖化が進んで地球が灼熱地獄と化すのはもちろん嫌ですが、搾取され続けてきたマイノリティーが今後も犠牲になり続けるのはなんとしても避けなければいけません。

核融合に必要なリチウムは主にアルゼンチンとチリで採掘されます。現地に住む先住民族からは、採掘に必要とされる大量の水資源と、土壌汚染について懸念が上がっています。

地球温暖化が進むにつれて池や河川は次第に干上がり、地下水が枯渇して、水はどんどん希少になるでしょう。平和目的のための核融合エネルギーでさえ、大きなコストを孕んでいるのです。

Reference: ITER, 量子科学技術研究開発機構