科学技術の進歩と共に魔法が忘れ去られて消えかけたファンタジー世界を舞台に、性格が正反対の兄弟が、死んだ父親を復活させるための魔法を探す冒険に出るディズニー&ピクサーの最新作『2分の1の魔法』。
今回はその監督で『モンスターズ・ユニバーシティ』でも知られるダン・スキャンロン監督と、プロデューサーのコーリー・レイにインタビュー!
主人公となる兄弟を演じるトム・ホランドとクリス・プラットの起用の経緯や、剣と魔法の世界の”現代”を作り出した経緯など、たくさん伺ってまいりました!

──物語の重要な要素として、テーブルトークロールプレイングゲーム(TRPG)『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を彷彿とさせる「QUEST OF YORE」というゲームが登場しますが、物語の中で、TRPGを絡めるというのは誰のアイデアだったのでしょう?
ダン・スキャンロン(以下スキャンロン):そのアイデアがどこから出てきたかは覚えていないけど、僕らは、こういった冒険の旅を描く映画でしかやれないことを、やりたかったんです。実はコーリーと僕は、TRPGあまりで遊んだことはあまりなかった。この映画のためにやってみたけど、子供の時には遊んでいませんでしたね。
なにより、主人公がTRPGを、冒険に使う地図や魔法を使う方法を学ぶために用いるのは最高におかしいし、すごくユニークなアイデアだと思いました。そこで僕らは、TRPGの大ファンである他のピクサーの社員や、僕らの映画のアーティストたちと話しながら素晴らしい時間を過ごしました。その時間は、このゲームの独自性を出すためのアイデア作りや、それらのゲームのプレイの仕方がリアルに感じられるようにする上で、僕らの助けになりました。
──この物語は、剣と魔法の世界の“現代”を舞台にしています。それはどこか、TRPGの『シャドウラン』も彷彿させました。そういった設定はどのよう過程で生まれたのでしょうか?
スキャンロン:この映画は、まず観客に既視感があるファンタジー映画を見せ、そんな映画に出てくるようなファンタジーのクリーチャーたちが、今まで見たことのないような現代的なことしている姿を見せるというコメディ映画にしようというところが始まりですね。その設定づくりは、お馴染みのファンタジー要素と映画独自のコミカルでユニークな要素のバランスを見つけることでもありました。この世界全体を生み出す上で最高に楽しいことの一つでしたね。
──この作品を作る上で直面した難しさは、どんなものがありましたか?
コーリー・レイ(以下、レイ):1つの大きなものはなかったけど、小さなものはたくさんありました。そして、テクノロジーをいつもとは違う方法で使わないといけなかったものがありました。一つは、“魔法の見え方”を作り出すことですね。私たちは、準備段階で自分たちが求める魔法の見え方を見つけ出すために、デザイン面と同じくらいテクニカル面について多くの時間を費やしました。私たちは魔法を子供っぽい感じではなく、ちょっと怖い感じにしたかったんです。イアンは魔法について自信がなく、魔法を怖がっていないといけないですからね。だから、私たちは魔法の表現方法に多くの時間を使いました。
また、お父さんの“半分だけのズボン”でどうやって感情を表現するかを見つけるのにも、たくさん時間をかけました。観客が表情や台詞がないズボンの動きだけを見て、共感したり感動したりする必要がありますからね。その解決策を見出すために多くの時間を使いました。
他にも、キャラクター・チームは、この世界を彩る多様なファンタジーを題材にした独創的で素晴らしいクリーチャーを用意するという、実に見事な仕事をしてくれましたよ。

──物語は剣と魔法の世界が舞台ではあれど、そこに暮らす人々は、魔法よりも便利だからという理由でテクノロジーを選択しているという歴史を持っていますよね。これは最近のテクノロジーの進歩に関してのメッセージなのでしょうか?
スキャンロン:僕らはテクノロジーで作られた映画を見せながら、観客に「テクノロジーは悪い」というような映画を作りたかったというわけではありません。どちらかといえば、僕らは毎日、テクノロジーで魔法を作ってるんですよ。
強いて言うならば、「チャレンジ精神を失ってはいけない」というお話です。テクノロジーの便利さがあっても、そこから抜け出して、自分自身にちゃんと挑戦を課すんだということですね。イアンは自分に自信がない内気なキャラクターで、自分自身の可能性を試さない。でも旅を通して、イアンが自分には不可能だと思っていたことに挑戦していきます。僕らの映画の中で魔法は、“自分自身の可能性”のメタファーなのです。そして、できるとは思ってなかったことを成し遂げた時に感じる驚きと、そこから湧き出てくる自信が“魔法”なんですよ。
──兄弟の関係や原動力がこの映画の軸である中、トム・ホランドとクリス・プラットの相性は素晴らしかったです。最初から彼らに決めていたのですか? キャスティングはどのように進んでいったのでしょう?
レイ:最初は、声優がトムとクリスになるとは決まっていませんでした。本当に誰になるかはわからなかった。ピクサーの場合、まず先にキャラクターやストーリーが十分に仕上がったと感じてから、役者の声を聞いてみることになります。なので、今作ではイアンとバーリーのキャラクターをしっかりと作りこんでいくことに時間をかけました。なので映画が出来上がる数年前になるまでキャストを決めませんでした。
そして候補の声を聞くときも、キャラクターのデザインを見ながら聞く形で、その声の主が誰かはわかりません。こうすれば、その声の主が有名かどうかなどの情報によって判断に影響を受けないですからね。この二人のキャラクターが出来上がってすぐに、まず僕らはイアンの候補の声のを聞きはじめました。そして、トム・ホランドにやってもらったら、とても見事にフィットしていました。イアンが持つ自信のなさや内気な高校生の感じを見事に演じられていました。そしてイアン役をトムに決め、続けて僕らはバーリーのキャスティングにしました。クリスは自信過剰で、大きくて、がっちりしていて、おかしくて、優しさに溢れたキャラクターのバーリーを演じるのに完璧でしたよ。

──トム・ホランドとクリス・プラットは、今作のプロモーションの中で一緒に『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をやりたいと話していましたが、それは実現しそうでしょうか?
スキャンロン:いいえ(笑)。
レイ:彼らのスケジュールがそれを許すかどうかわからないですね(笑)。彼らは二人ともとても忙しいから。
スキャンロン:そうですね、やりたいと思っているだろうけど、残念ながら実現しないでしょう(笑)。
レイ:彼らが自分たちの家族とプレイ出来たらいいですね。『Quests of Yore』のTRPG版を作ったので、それが発売されたら、トムはよく一緒に遊んでいる自分の兄弟たちと、クリスは自分の息子と遊べるといいですね。
──今作の監督にダンさんを起用した理由はなんでしたか?
レイ:『モンスターズ・ユニバーシティ』の後、ダンともう一度一緒に仕事をしたいと思っていました。私たちはあの作品で素晴らしい経験ができましたし、仕事上のすごくいい関係を築くことができていましたからね。なので、今作では一緒にオリジナルのアイデアを考えるところから始めました。ダンは素晴らしい監督で、物語作りだけでなく、製作チームのやる気を引き出し、長い作業期間の間、エネルギーや勢いを維持するかといくのも上手なんです。本当に素晴らしい才能を持った監督ですよ。
スキャンロン:チームをやる気にさせるというところは、コーリーから学んだことですよ。僕らは10年間、映画作りのパートナーでした。彼女はいつも、スケジュールよりもストーリーを優先する人で、時間通りに仕上げるよりも、ちゃんとしたもの仕上がることを大切にしています。僕がなんとか締切に間に合わせてしまおうとするのを止めてくれるような人です。
そして彼女はチームをまとめ上げ、彼らの最高の仕事を引き出してくれます。そしてまた脚本作りなどのクリエイティブな方面にも重要な発言をしてくれる人で、映画を仕上げる手助けをしてくれるんです。僕らはとてもいい関係だと思いますね。

『2分の1の魔法』
8月21日(金)全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2020 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
Source:『2分の1の魔法』公式サイト, YouTube