新型コロナのワクチンって今、どうなってるの?

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新型コロナのワクチンって今、どうなってるの?
Image: Shutterstock

今すぐ、すべてまるっと解決してくれるワクチンがほしいけど、実際は...?

パンデミックの終焉をもたらしてくれるかもしれない...世界中から期待の目が向けられている、新型コロナウイルス「covid-19」ワクチン。過去に作られてきたワクチンはどれも、4年以上という長い月日がかけられて開発されてきました。また、いつできるのかという問題に加えて、安全性有効性はどうなのかも気になりますよね。

新型コロナワクチン開発の現状や今後の見通しについて、米Gizmodoがまとめています。


ワクチン開発、現状は?

世界中の科学者たちが一丸となって、covid-19疾患を引き起こすコロナウイルス「SARS-CoV-2」ワクチンの開発に取り組んでいます。通常、ワクチンは臨床試験に到達するまでに数年の研究期間を要しますが、現在のところ、少なくとも30種類以上のワクチンが第一段階〜第三段階のプロセスにあるといわれています。

候補が多くあること、さらにウイルスに対してそれぞれ独自のアプローチをとっていることから、成功事例がひとつも見つからない可能性は低いのではないかと考えられています。なんでも通常は、臨床試験に到達したワクチンのうち約30%は承認されているのだとか。

米トランプ大統領は、選挙日の前の段階である「10月までにワクチンが入手可能になるはずだ」という大胆な予想を発言して専門家らから非難されていました。また、ロシアではさらに一歩進んで「スプートニクV(Sputnik V)」と呼ばれるワクチンを承認。先週には臨床研究の最終段階に入ったことを発表しています。ただ、どれほど効果が期待できるのか、いつ広く普及しようとしているのかに関する確かな情報はほとんどないのが現状です。

安全性を確保するには、急がば回れ

ワクチンの効果が、たとえば数日程度で実証できたなら、物事はもっとスピードよく進んでいたことでしょう。

米国ではおよそ3万人の人々が、開発の最終段階にあるモデルナ(Moderna)のワクチンを接種することになっています。ひとりひとりの被験者にワクチンを打つのに数ヶ月かかり、新型コロナウイルスの発症率を調べ、専門家がデータを分析・評価し、FDA認可まで進めるかどうか判断する...というようなプロセスが必要になります。被験者グループを故意にウイルスに晒すというようなアプローチもある一方で、こうした試験を安全に行なうにはあと1年ほどかかると専門家らは考えているようです。

開発まである程度の時間がかかることはわかりました。でも、できることならば一刻も早くワクチンが開発されてほしいというのが多くの人の願いでもあります。プロセスをいくつかカットして、時間をセーブすることはできないのか? ジョンズ・ホプキンズ大学の研究者で生物統計学者のSteven Salzberg氏は、フォーブスの記事で「今すぐにでもワクチンを運用開始すべきだ」と執筆し、ほかの科学者から批判を受けることに。翌日には、「わたしが間違っていた、ワクチンの最終トライアル段階をやらないわけにはいかない」という旨のタイトルの記事を執筆していました。

現実的には、来年か?

一方、専門家の意見を無視して米トランプ政権が選挙に向けてワクチンを投入しようとする動きは今後、なきにしもあらずです。ただし、明確な安全保証がないワクチン接種の危険性は計り知れません。2009年に発生した新型ブタインフルエンザの大流行の際、米国ワクチンの運用で科学顧問を務めたノースカロライナ州立大学のシステムエンジニアであるJulie Swann氏は次のようにいいます。

10月にはワクチンができるか? いや、できなさそうだ。可能性はないのか? ある。ただ、そのワクチンをわたしが受けたいかどうかはわからない。

非常に楽観的ではあるものの、より現実的なタイムラインとしては、年末までに候補として見込みのあるワクチンが発表され、2021年に展開が開始するというシナリオ。ただこれも、計画がすべて順調に進んだ場合の話ではあるのですが。

ワクチンの信頼性は?

反ワクチン派はさておき、急いで作られたワクチンの安全性に多少の懸念を抱く人もいることでしょう。

今のところ、ワクチン試験で重篤な副作用の報告はないとのこと。一方で、発熱などの症状は比較的多く確認されているといいます。どんなワクチンや薬剤にも副作用はつきものですが、リスクを上回る、決定的な利点は不可欠です。理想は感染リスクを90%以上下げる効果の高いワクチンですが、FDA認可の閾値は50%となっています。

FDAは安全で効果的なワクチンのみを承認するとしていますが、米国ではトランプ政権の発言によって惑わされている部分もあるのだとか。ジョンズ・ホプキンスのブルームバーグ公衆衛生大学院の感染症・ワクチン専門家であるWilliam Moss氏は、不安を煽るような言動の危険性について次のように述べています。

ワクチンが適切な評価なしに使用されるとは考えられませんが、適切な評価が為されなかったという認識は、SARS-CoV-2ワクチン接種だけでなく、すべてのワクチンへの信頼を損ない、公衆衛生を深刻に脅かす可能性があります。

不安を和らげる方法の一つとして、あらゆる人口層が臨床試験に参加することは有効です。特に有色人種や妊婦の人々は臨床研究から排除されてきた歴史があります。ワクチン開発に関わる研究者は、被験者の多様性を確保することを表明しています。ただその一方で、ワクチン接種を躊躇う人の数は年々増えてきていて、その多くは反ワクチン運動の誤ったプロパガンダに影響を受けています。covid-19ワクチンに関しても、こうしたハードルを乗り越えて集団予防接種の重要性に対する理解を呼びかける必要がありそうです。

最初にワクチンが接種できるのは?

ワクチンの開発がうまく進んだところで、生産が追いつくまでにはしばらくの時間がかかることが想定できます。米国政府はModernaPfizer といった企業と、候補となっているワクチンの初回バッチをそれぞれ1億回分ずつ製造・配布する契約を結びました。臨床試験が行なわれている間にも製造されることになっていますが、すべてそろうまでには年末までかかるとか。いずれにせよ、これらは米国の人口の3分の1にも満たない数となっています。

世界中の政府や公衆衛生の専門家のあいだでもワクチン投与の優先順位について議論されていますが、どんな結果でも混乱を招く可能性があります。今のところ、医療従事者や高齢者、重度の病気にもっとも脆弱な人々を優先すべきであると話し合われているようです。

2009年のH1N1型インフルエンザ・パンデミックの際には、ウォールストリートのバンカーが最初の希少なワクチンを確保すべく列の先頭に乗り出していたことが判明し、初期の段階で論争になったとSwann氏。

covid-19ワクチンに関しても同じようなことが起きるとは予言できないにしても、ウイルス感染対策に必要な資源や検査へのアクセスを社会のエリート層が優先的に得ていることはすでに自明で、同じような事態は繰り返されるべきではありません。Moss氏はこう述べています。

最終的には、ワクチンが入手可能になってから1年後には、おそらく接種を希望するすべての人に十分な量のワクチンが提供されることでしょう。

しかし、誰もがワクチン接種を希望しているわけではありません。その理由としては科学、政治、ワクチンに対する誤った情報や不信感があります。最大のリスクを抱える人々がワクチンを接種するうえで必要な信頼を築くためには、多面的なコミュニケーション戦略が早急に必要となります。

ワクチン接種は、いくらになりそう?

費用の問題は、各地域の行政によって対応が変わってきそうですが、米国の場合、ホワイトハウスは6月中旬、保険会社が自己負担なしでワクチン接種をカバーするとの見通しを発表。援助が必要な人には無料のワクチンを提供することを約束しています。

ワクチンによって"通常の"生活に戻れるのか?

一言でいうと「まだ」というのが今の答えだそうです。なぜか? ワクチンは、開発に成功した後もすべての接種希望者に行き渡るまでに時間がかかり、ベストケースシナリオでも来年の半ばまでかかる見込みなのだとか。また、専門家らは、最初のワクチンですべてが見事に収まるとは考えていないようです。

現在、最終試験段階にあるワクチンはどれも、被験者の免疫反応を誘発しましたが、この反応が実際の感染症予防においてどのように反映されるのかはわかっていません。ワクチンが重篤な病気を予防し、将来的なcovid-19アウトブレイクの発生を和らげるという点では非常に有用であるにしても、パンデミックの危険性はある程度存在し得ると専門家らはいいます。

いずれは、はしかのように非常に効果的なワクチンが完成する日が来るかもしれません。それでも、はしかがそうであるように、ワクチンがある今でもリスクはゼロには達していません。このことから、covid-19ともしばらくは共に生きていかなければならない可能性が想定できます。実際のところ、何十年にもわたってゆっくりとはしかを根絶してきたにもかかわらず、子供にワクチン接種をさせない一部のコミュニティなどによって、ヨーロッパやアメリカを中心にウイルスが再び蔓延しようとしています。

ワクチンは1800年代から存在していました。しかし、人類がワクチンで予防可能な病気を根絶することができたのは、天然痘という1つの病気だけであるのは注視しておくべき事実かもしれません。いつかはcovid-19も、世界を震撼させた災害的なウイルスから、単に厄介な病気のひとつに格下げされることになるでしょう。

それでも、covid-19ウイルスを根絶できるかはわかりません。そして、このパンデミックによる経済的、社会的、健康的な影響はワクチンの普及が始まってからもしばらく続くことになりそうです。