映画の筋書き通りに怖いことが起きる

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  • author satomi
映画の筋書き通りに怖いことが起きる

フィクションが未来に干渉する──そんなばかな…。

Netflixで世界に公開になったポーランド映画「ヘイター(The Hater)」は、SNSのフェイク拡散でヘイトを煽り、罪のない人の人生を破壊する悪意を描くヤン・コマサ監督の問題作。しかしクランクアップの3週間後の2019年1月13日に実在の市長が右翼に殺される事件が発生し、あまりにも映画と酷似していることから急きょ公開が延期になった’いわくつき’の作品です。

あらすじはレビューサイトFilmarksでくわしく読めます。論文盗用で退学になった法学部の貧乏学生トメクが、残忍コンテンツの正誤判定という心が折れるバイトでなんとか食いつなぎ、やっとありついた広告代理店のウソ炎上マーケティングで異様な才覚を発揮し、やがては右翼を洗脳して市長暗殺の凶行へと導いていくというもの。

ブラック・ミラー」も預言的とされますが、そういう漠然とした予兆のレベルを超えるシンクロニシティで、殺されたグダンスク(グダニスク)のPawel Adamowicz市長(53)は劇中の市長と奇しくも同じファーストネームだったんですね。ゲイや移民に寛容な開かれた社会を目指すリベラル系というのも一緒。チャリティーイベントで襲撃される状況も近いし、人を疑うことを知らない笑顔までそこはかとなく似ていて戦慄をおぼえるほどです。

民主化の象徴の街が今は…

ベルリンの壁とともに共産主義政権が崩壊して30年が経ちますが、ポーランドは東欧で最初に民主化革命が起こった国であり、グダニスクはそれを牽引した労組(連帯)が生まれた造船所のある港湾都市。いわば民主化の象徴の街なのに、今はここでもヘイトといじめ、嘘で塗り固めた中傷合戦、脅迫がすごく大きな社会問題になってるみたい。

殺された市長(20年以上市長を務めた超ベテラン)も2017年に、負傷したシリアの子どもたちの治療受け入れを訴えて極右青年組織「All-Polish Youth」から政治的殺人予告を受けたりしていたそうですよ? そういうの繰り返していれば本当に斬りかかる人が現れるのは時間の問題…。犯人は前科と精神病歴のある当時27歳の若者でした。

葬儀は盛大に行われ、連帯のワレサ議長もお別れの言葉を寄せました――。

加害者の顔から生気が失われていく

映画では主人公が政治家とはなんの関わりもない個人的動機に駆られてヘイト増幅マシンになっていく過程が克明に描かれていて、案外そんなものなのかと思ってしまいました。いきなりパソコンを何台も広げて、SNSでいいねを山のようにつけてひとりでバズを盛り上げたり。ネットでいじめられて社会全体を敵に回したかのように思えるときにはこの映画を見ると、なんだ…と拍子抜けするかもしれません。最近落ち込み気味の人にはおすすめです。

「自殺ルーム」の続編

日本では「ヘイター」が先行したのであまり知られていないかもしれませんが、本作はコマサ監督が日本のひきこもりをヒントに、ネットの誹謗中傷を被害者視線で描いた「自殺ルーム( Sala samobojcow/英題:Suicide Room)」を加害者視線で描いた続編です(日本語レビューは)。

不穏な月、同性とキスした動画が拡散して身の破滅を招くプロット、広告代理店女性社長の家に被害者の遺影があるところ、「千の風になって」などで伏線がつながっています。

こちらの主人公はネットの自殺ルームだけが生きることを許されたメタバース。そこに静かに流れるのは、セカンドライフで結成された日本のユニット、Chouchouが歌う「Sign 0」。

日本はお盆ですね…。

Sources: Radio Times, Seattle Times

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