イーロン・マスクの「脳とマシンをつなぐデバイス Neuralink」がもうすぐ発表に。その前に知っておくべきこと

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
イーロン・マスクの「脳とマシンをつなぐデバイス Neuralink」がもうすぐ発表に。その前に知っておくべきこと
Image: Mark Brake/Getty Images

実際に動いてるとこ見せます、と。

脳とマシンをつなぐインターフェース技術を開発しているNeuralink(ニューラリンク)。ファウンダーのイーロン・マスク氏が、8月28日にいよいよNeuralinkの動くデバイスを発表すると息巻いてます。

動いてるNeuralinkのデバイス、ライブWebキャスト

金曜日午後3時、米太平洋時間(訳注:日本時間8月29日午前7時)https://t.co/PouLbrGzFU

脳とコンピューターを直接つなぐなんてSFそのものですが、この分野の研究は近年急ピッチで進んでいます。とはいえ、脳で思い浮かべるだけでメールが送れる、とかはまだまだ先の話です。マスク氏がこれまで生み出したSpaceXやTeslaといったスタートアップとは違い、Neuralinkの開発や実装にはいろいろと制約があり、そこまで爆速には進めないはずです。とはいえ、理論上こういうことができそうだとか、それはどれくらい実現できそう(できなそう)だとか、他にも同じことやってる人いるんじゃないのとか、そんなこんなはだいたいわかっているので、この記事でまとめていきますね。

まずはNeuralinkって何だったっけ? をおさらい

Video: ギズモード・ジャパン/YouTube

2017年にマスク氏が発表したNeuralinkは、「超広帯域脳マシンインターフェース」を使って「人類とコンピューターを接続する」とされています。人間の脳とコンピューターを、脳に埋め込むチップでつなぐんです。

Neuralinkの脳マシンインターフェースは、まずはパーキンソン病やてんかん、うつといった脳の異常の治療に役立つことを目指します。また高度な支援機器と組み合わせることで、装着した人の思考で義肢などを操作できるようになるともされています。でもマスク氏の究極のビジョンが実現できれば、たとえば体に直接つながっていない機器を念力で動かせたり、他人の脳に思考を直接送信したり、認知能力を拡張して知性や記憶力を高めたりといったエスパーみたいなことができるようになる…はずです。本当に実現できれば。

もっとコンセプト的にいうと、マスク氏にとってのNeuralinkは、AI(人工知能)による世界の終わりを回避する手段であり、2017年にはこの技術が「AIとの共生」を実現すると言ってました。人間のちっぽけな脳にAIの力をくっつけて増強することで、人間が進化したテクノロジーに追いつけるだろうという考え方です。AIに勝つのはもうムリだから、その力を自分に取り込もうっていう発想ですが、仮に技術的には取り込めたとしてもそんなに都合よく回るのかっていう問題は残ります。

また、脳に何かしら埋め込んで外部のマシンとつなぐっていうアイデアそのものは別に新しいものじゃありません。SFではもう何十年も前からこの種のネタが作られていて、ウィリアム・ギブスンの頭蓋ジャックとか、イアン・M・バンクスのニューラルレースとか、映画『マトリックス』の脳プラグとか、いろんな形で描かれてきました。

そんな文字通り小説とか映画の中のものが実際に作られてること自体はすごいワクワクなんですが、問題は、電気自動車とかロケットと違って、脳コンピューターインターフェースは医療機器という位置づけになることです。つまりNeuralinkも、人間に対して使う機器の臨床実験とか製品化のためには、米国食品医薬品局(FDA)とかとかの政府の承認を受ける必要があります。

一般的な製薬会社とか医療機器メーカーと同じように、Neuralinkはその製品の安全性・有効性を証明しなきゃいけなくて、そのためには詳細で時間のかかる臨床実験を行なうのが普通です。Neuralinkの場合、とくにまるっきり健康な人の脳にもチップを埋め込もうとしているという意味で独自の難しさがあり、十年単位の時間がかかると思われます。Neuralinkが目指してることの中で病気の治療的な部分はごく一部で、残りは人間の機能拡張なので、そのへんも厄介になることでしょう。

他の研究プロジェクトも着々と進む

こうしたハードルがありつつも、この分野の研究者たちはすでに、SF世界の具現化に向けて大きく進歩してきました。メディアの注目のほとんどはマスク氏に集まっていますが、もっと地味な研究者たちこそ新たな技術を作り出していて、これまでもその進化ぶりを明かしてくれています

たとえば2019年、コロンビア大学の神経科学者チームが脳波を発話に変換することに成功しているし、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のチームは、人間が話をするときのあごや唇と言った物理的な動きに関連する脳波に着目し、その脳波を元にバーチャルな声道(声を出す器官)を動かすシミュレーションを実現しました。2016年には、手を切断した人が脳インプラント経由で義手の指を動かすこともできました。思考でコントロールする外骨格とか、触覚の修復とか、失われた運動機能の回復といった研究成果も出ています。さらに人間の脳対脳で直接コミュニケーションする実験も、まだ初期段階ですが始まっています。

動物実験でも良い結果が出ています。大きなところでは、ワイヤレスの脳マシンインターフェースを使ってサルが車いすを操作したり、脳インプラントを装着したサルが1分あたり12ワードを思考だけでタイプしたりといったことができています。

なのでマスク氏のNeuralinkは、その方面から見るととくに画期的ってわけじゃないんです。ただ他と違う点があるとしたら、その規模、資金、Neuralinkが目指しているもの、そしてもちろんイーロン・マスクというカリスマがやっているということです。ただしこの分野には学術界の外にもライバルがいて、Facebookも最近神経インターフェースのスタートアップCTRL-labsを5〜10億ドル(約530〜1060億円)で買収したし、Braintreeのファウンダー・Bryan Johnson氏は1億ドル(約105億円)を投じてKernelというプロジェクトを立ち上げました。そして米軍のDARPAもこの分野に6500万ドル(約69億円)を投じています。脳マシンインターフェース分野の競合は徐々に激しくなっていて、Neuralinkが成功できるかどうかはまだまだわかりません。

で、脳インプラントって具体的にどんな?

Video: ギズモード・ジャパン/YouTube

2017年のWall Street Journalによると、Neuralinkのシステムでは「ニューラルレース」(イアン・M・バンクスへのオマージュですね)なる技術を使います。これはおそらく、何らかの脳インプラント(メッシュ状かも)を介して脳を外部のコンピューターに接続するってことです。

Neuralinkには2019年時点で1億5800万ドル(約160億円)が投じられていて、うち1億ドル(約105億円)はマスク氏の私財だとNew York Timesは伝えています。従業員は今90人ほどいて、スタンフォード大学の神経外科医も協力しているし、他の研究機関も入ってくるかもしれません。

Neuralinkは段階的なアプローチを取ると言ってるので、まずは脳疾患から始め、徐々にもっと拡張系のことにスケールアップしていくはずです。脳から読み取れる情報の帯域を広げることは超重要になると思われ、であればほぼ確実に、脳波検査みたいな当たりさわりのない方法じゃなく脳インプラントが必要で、そのためには手術とか、丈夫かつ柔軟で生体適合性のあるコンポーネントも必要です。

マスク氏は2019年、カリフォルニア科学アカデミーでNeuralinkのさらなる詳細を発表しました。Neuralinkのホワイトペーパーにも明記された彼らの手法とは、外科医が専用のミシンのようなロボットを使って極細の糸、またはプローブを脳に埋め込んでいくことでした。この糸は太さがたった4〜6マイクロメートルしかなく、太さ50〜100マイクロメートルの人間の髪の毛よりはるかに細いです。

この極細糸は何本も埋め込まれ、それが頭の中のチップにつながります。ホワイトペーパーにもあるように、このロボットを使うと1分あたり6本の糸、または192個の電極を埋め込むことができます。Neuralinkでは「それぞれ32個の電極を備えたポリマーの糸96本、計3,072個の電極の高速な埋め込み」も可能になっています。このロボットがあっても脳外科医は必要になりますが、New York Timesによれば、Neuralinkのプレジデント・Max Hodak氏は同じタスクをレーザーでも可能にして頭に穴を空けずに済むことも目指しています。

Neuralinkはすでに、脳に埋め込んだ1,500個の電極から情報を読み取れるシステムを発表しましたが、それはネズミの脳でした。それでも、人間を対象にした同様のシステムより15倍の性能でした。

専門家もまだわからない

彼らがこんなに早くここまで実現したことは素晴らしく、どこまでいけるか興味深いです」ニューカッスル大学の教授で神経インターフェースを専門としているAndrew Jackson氏はコメントしました。「Neuralinkがやっていることは、大量の脳細胞の電気的活動を読み取ろうとしている数多くの取り組みのひとつです。Neuralinkのアプローチは、ある種のミシンを使って柔軟なポリマー糸を脳に多数差し込み、その糸が皮膚の下に埋め込まれた電気部品に接続するというものです。」

Jackson氏は他にも、シリコンの小さな針を使った他のアプローチも紹介してくれました。Howard Hughes Medical Institute(ハワード・ヒューズ医学研究所)Naelia Research CampusのTim Harris氏らは、550万ドル(約5.8億円)かけた共同プロジェクトで、700以上のニューロンを同時に記録できるNeuropixelsというプローブを作り出しました。小さなワイヤレスインプラントを脳全体に配置する「ニューラル・ダスト」というコンセプトもあります。

「イーロン氏の乗った『馬』が正しかったかどうか、時間を経ることでしかわからないでしょう」とJackson氏。「たしかなことは、商業的な資金提供によって神経インターフェース分野全体が進化できる可能性です。神経科学者は最近まで、脳の記録にかなり古めかしい設備を使ってました。だからシリコンバレーからこういった興味と資金を与えられるのは非常にありがたいです。」

当初の予定では、Neuralinkはすでに人間対象の実験を始めているはずでしたが、まだできていません。彼らは予定を立てるときに前のめりすぎたのかもしれないし、FDAからの承認が降りなかったのかもしれません。Neuralinkは、サンフランシスコに自前の動物実験施設を作ることに興味を示していて、動物モデルでの実験の必要性を強調していました。

脳マシンインターフェースの専門家、コベントリー大学・レディング大学の名誉教授・Kevin Warwick氏は、Neuralinkがポリマーのプローブを使っている点を評価しています。それは単に、ポリマーが柔軟だというだけじゃありません。

いろいろなパターンの電極を作れることが非常に良いんです。壊れにくいという意味で、構造的な面でも役立つでしょう」彼はメールで説明しました。「問題はそれをどうやって脳に差し込むかですが、彼らはそのために埋め込み用ロボットをデザインしたわけです。」

ホワイトペーパーでは埋め込み用ロボットの説明が非常にふわっとしているんですが、このロボットこそがカギだとWarwick氏は言います。「Neuralinkが言う通りのことを埋め込み用ロボットができるなら、脳の複数カ所にたくさんの電極を埋められるはずです。でも私からすると、この点は本当に証明が必要です。彼らは本当に、そんなポリマーをしっかりと安全に、正確に脳に差し込んで、ロボットでも脳に使えることを証明できるんでしょうか?」

これからNeuralinkのチーム、そして神経インターフェースを開発するどんな人たちも、いくつもの大きな課題を克服する必要があります。それはたとえばこの技術の侵襲性(頭に穴空けたり)、脳の信号をマッピングするユニバーサルな方法(各システムが個人個人の特異性を学習する必要があります)、必要な実験の規模を、安全かつ倫理的かつ効果的なやり方で広げる方法(動物、人間両方に対して)、などなどです。

たとえばインプラントの異常な発熱とか、埋め込んだデバイスが急速に時代遅れになっていくとか、予期しない問題も出てくるでしょう。です。あとは脳から取り出したデータが何か便利なことに使えるのか、お金になりそうかどうかを研究者が判断する必要もあり、そこも難しそうです。人間の脳とかその仕組みについてはわかっていないことがまだまだ多いので、今考えられているやり方がこのまま順調にいけると思うこと自体わりと無理があるのかもしれません。

8月28日、マスク氏がどんな発表をするのか楽しみですが、まだまだ手放しで乗っかることはできません。脳マシンインターフェースの複雑さを考えると、進歩はゆっくりと、段階的なものになっていくことでしょう。

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