“みんなで楽しむ”が、これで変わるかも。
先日ギズでもお知らせして大反響をよんだ「人気ゲーム『フォートナイト』内で米津玄師がスペシャルイベントを開催!」というニュース。
結果として広くSNS、新聞、ワイドショーも巻き込んだ話題となりましたが、8月7日に何が起こり、何が変わったのでしょうか? 体験レポートを通してお届けします。
「PS4かMacか?」寿司をつまみながら米津玄師の登場を待つ開演前
8月7日午後7時。イベント開始1時間前と、早めに『フォートナイト』にログインした僕は、缶ビールを開け、Uber Eatsで頼んだお寿司をつまみながら、Macの画面を前に開演を待っていました。
『フォートナイト』はマルチデバイス対応タイトルです。それだけに、PS4、Nintendo Switchといったゲーム機から、Mac、iPad、iPhoneなど、手持ちのどのハードで視聴しようか迷いました。「安定性ならばPS4かな」とも思ったのですが、最も良いスピーカーと接続しているデバイスとして、今回はMacでのログインを選ぶことにしました。
MacBook Pro 15インチにPS4のコントローラーをUSBケーブルで接続すれば、自動的にコントローラーを認識するため、スムーズにイベント会場であるパーティロイヤル内のメインステージにたどり着くことができました。本当は手元にあるPro Display XDRの32インチスクリーンで体験したかったのですが、MacBook Pro 15インチでは6Kの大画面で『フォートナイト』を満足に動かすことができず、断念。「Mac Pro欲しいな~」と思いつつ、大人しく諦めることに。
開演1時間前にもかかわらず、メインステージ前の広場にはすでにたくさんのプレイヤーが集まっていて、中でもスクリーン正面に位置する高台の足場は人気スポットに。見やすい場所にお客さんが集まるのは実際のライブやフェス同様です。
その中でも個人的におもしろかったのは、開演を待つプレイヤーの多くが立て膝の姿勢あるいは折りたたみチェアで待機していたこと。後ろのお客さんも見やすいようにとの配慮なのでしょうか? ゲームの中とはいえ、コロナ禍の現実に失われつつある行動様式が再現されていて、感慨にふけってしまいました。
現実では、Macの画面を前にビールを飲んで開演を待つ自分。そして『フォートナイト』内には、入手したペイントランチャーでインクを乱射しながら開演を待つ自分…なんだかふしぎな気分です。
実写映像ではなく、3DCGでパフォーマンスすることの意義

そして20時。開演間もなくスクリーンに登場したのは、3DCGによってモデリングされた米津玄師でした。
モーションキャプチャなのか、実写映像を加工したものなのかはわかりませんが、動きはとてもリアル。それでいてルックは『フォートナイト』のキャラクターと並べても違和感のないリアリティーレベルに抑えられており、絶妙な塩梅です。
イベント全体としては、そんな3DCGの米津玄師が、楽曲ごとに作られた仮想世界で全5曲のパフォーマンスを行い、その様子をプレイヤーがスクリーンで眺める構成。
それは、ともすれば“ゲーム内でただ録画映像を観ているだけ”なんて印象になってしまいそうですが、実写の米津玄師がそのまま登場するわけではなく3DCGになるワンクッションがあることによって、上手く体験に落とし込まれている気がしました。
演出や体験の目新しさよりも、“みんなで観てる”感の再現が強烈
先行する米ラッパー、トラヴィス・スコットの『フォートナイト』内ライブの破格の内容からすれば、今回の米津玄師のイベントには表現としての物足りなさがあったのが正直なところ。
しかし、その分パーティロイヤルならではの楽しさ、そしてライブが激減している現状だからこそ感じられる意義があったのも事実です。
例えば、MCの最中に号泣するエモートを行うプレイヤーがいるなど、パフォーマンスへのリアクションも人それぞれで、実際に“みんなで観ている”あの感覚が蘇る場面も少なくありませんでした。数多くのライブが中止に追い込まれてしまっている現在、同じように感じた音楽ファンも少なくないことでしょう。
未曾有の事態を前に失われつつある“体験”が、確かにゲーム内の空間に生きている。それは強烈でした。
そして、中にはスクリーンの頂上に登ってダンスするプレイヤーがいたり、ゲーム中でピザを食べ始めたりと、もはやライブを観ることすらせずに楽しむ様子は、海外でライブを観ているような感覚を覚えました。
しっかりとステージに集中し、MCの言葉すべてを受け止めようとするのが、多くの日本人の音楽ライブの楽しみ方ですが、『フォートナイト』を介することでそれとは違った日本人の音楽ファンとしての一面が見えてきたのは、今回得た発見の一つでもあります。
「みんなで“バルス”」など、“新しいニコニコ動画”的空間としての可能性を感じた
光の粒子やプレイヤーの周りに舞うエフェクト、楽曲に合わせた天候や時刻の変化、強制バウンスなどの演出はあるものの、パーティロイヤル内のスペシャルイベントは、極論すれば「『フォートナイト』内に存在する平面のスクリーンをみんなで観る」というものに過ぎません。
今回の米津玄師のイベントも、双方向コミュニケーションではないため“ライブ”を観ている感覚はほとんどありませんでした。
しかし、その分、今後パーティロイヤルのイベントは高い汎用性を持つのではないかと感じました。
例えば、数年前から話題となった「応援上映」「発声可能上映」のような映画館イベント、『天空の城ラピュタ』のTV放映時のバルス祭りなどを、パーティロイヤル内で行ったら? 話題のアニメの最新話をリアルタイムでみんなで観られたら?
純粋に映像を楽しむ環境としては、決して優れたものではありません。しかし「みんなで同じコンテンツを楽しみたい」という欲求をこれ以上に手軽にかなえてくれるツールはほとんど見当たらないでしょう。
双方向性が強化されれば仮想ライブ会場としてのポテンシャルも発揮すると思います。しかし、現状のパーティロイヤルは、むしろ「新しいスタイルの映像体験の場」であると感じたイベントでした。