SNSと政治…闇な響き。
アメリカのテッド・クルーズ上院議員による「Twitter炎上事件」から2年が過ぎました。Twitterアカウントでポルノ動画に「いいね!」したことがバレて炎上したクルーズ議員は当時、「秘書がやりました」という王道の弁明を披露。「これって万国共通なんだ!」とある種の感激を与えてくれました。
先日、これと似たような事案が中国でも起きましたが、こちらの対応はアメリカよりもなかなかシャープです。7日、駐英中国大使のTwitterアカウントがポルノ動画および政治的に問題があると思われる投稿に「いいね!」したことが報じられました。現在、中国は「大使のアカウントが攻撃された」としてTwitterに調査を要求しています。
問題視されたのは、ポルノよりも「当局の非人道的行為」
ある朝、同大使のアカウントがポルノ動画に「いいね!」していたことがフォロワーに伝わり、それがTwitterユーザーの間で拡散しました。これだけなら米議員のときと同様なのですが、事態はもう少々複雑でした。大使のアカウントは、新疆ウイグル自治区で中国が行った非人道的な行為を糾弾するツイートにも、「いいね!」していたのです。むしろ、当局が問題視したのはこちらでしょう。
中国最大のイスラム系民族であるウイグル人は今、当局から非人道的な行為を受けていると報じられており、新疆ウイグル自治区は世界中が注目しているデリケートな地区です。家族がバラバラにされて強制収容所送りになったり、女性が人工中絶や不妊手術を強要されるなど、耳を疑うような話も聞かれます。
中国を批判する過激投稿にも「いいね!」
今回「いいね!」された投稿の1つは、新疆ウイグル自治区のキャンプをドローンで撮影した映像でした。囚人と思われる人の群れが目隠ししたままひざまずき、列車に乗せられるという、21世紀と思えないような内容です。今年はじめ、BBCが劉大使にこの映像を見せた際、彼は中国で起こっている不正行為について「何の映像かわからない」と述べています。
他にも、大使のアカウントはがこんな投稿にも「いいね!」しています:
リップサービスを駆使して内政干渉を拒むのが中国の常とう手段。
そうして彼らは世界に避難されることなく、自国民を殺害している。
香港に自由を、満州に自由を、モンゴルに自由を、ウイグルに自由を、
シャン族に自由を、タイの軍事政権を転覆させろ。
大使館サイドは国民に対し「信じるな、広めるな」。
劉暁明駐英大使は自身のアカウントから問題となった「いいね!」を削除し、イギリスの中国大使館のスポークスマンによる声明をリツイートしています:
先日、一部の反中国勢力が劉大使のTwitterアカウントを、悪意を持って攻撃し、卑劣な手法で人々を欺いた。
中国大使館はこうした憎むべき行動を強く非難する。
大使館は本件をTwitter本社に報告し、徹底的な調査を行うとともに厳しく処理するよう要請した。
大使館はさらなる対応を行使し、国民がこれらの噂を信じ、拡散しないことを期待する権利を留保する。
暗に「大使はハッキングされた」と主張しているようですが、明言もしておらず、どこかあいまいな印象です。米ギズモードがTwitterに問い合わせたところ、現状に関するコメントは控えるとの返答でした。
本当の目的は、当局の糾弾?
もしもこれが本当に「攻撃」によるものなら、ポルノ動画はいわゆる「釣り」で、本当の狙いは「政治的に緊急性の高い投稿に注目を集めること」だったのかもしれません。
中国ではTwitterが禁止されているのですが、国民はVPNを使ってファイヤーフォールを回避しているのが実情です。実際、中国共産党の政治指導者の多くがTwitter経由で海外のオーディエンスと会話しています。
本件がどんな影響を生むのか、は未知数。
今年7月、Twitterではバイデン候補やジェフ・ベゾスといった大物アカウントへの大規模ハッキングが勃発し、同社は大バッシングを受けました。この事件をきっかけに、著名人などのTwitterアカウントが悪用されれば、世界を揺るがす一大事件につながるという方程式ができてしまいました。今回の一件でTwitterに何らかの政治的影響が及ぶのかどうか、今はまだわかりません。
今のところ、本件について劉大使本人は「良い金床は、金づちを恐れない」という、不可解なことわざを披露しただけで、あとは沈黙しています。これがいったい何を意味するのか、それともしないのか。今後明らかにされるのか、されないのか…。