もしも、個人データがすべて一斉に漏えいしたら私たちはどうなるの?

  • author Daniel Kolitz - Gizmodo US
  • [原文]
  • Rina Fukazu
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もしも、個人データがすべて一斉に漏えいしたら私たちはどうなるの?
Image: Elena Scotti/Shutterstock

プライバシー・パラドクスを考え直したくなる?

私たちのスマホやパソコンには、他人に見られることを前提としていないデータで溢れていますよね。個人的なメール、メモ、検索履歴...すべてのプライベートなデータが一気に漏えいしたら、私たちの生活や社会はどうなるのでしょうか?

「秘密がバレてパニックになる」のはもちろんですが、専門家によれば、もしかするとすべてがネガティブに働くわけではないかも...という見解が出てきました。

短期的には「プライバシー・パラドクス」が起きる

Fred Fineberg(ミシガン大学マーケティング学科長・教授、統計学教授。不確かな環境のなかで人々がどのように意思決定をするかに関する研究に従事)

2つのレベルで考える必要があります。対人関係(個人の関係にどのように影響するか)と社会関係(考え方や行動がどのように変化するか)です。それから、短期と長期の両方の側面も考慮しましょう。

短期的なものはだいたい予測がつきますね。解雇される人、離婚する人、恥をかく人、逮捕される人、偽善が明るみになる人、横領や虐待、もっと残酷な罪が発覚する人もいれば、ハッカーやハッキングされた人に対する訴訟の脅威もあります。

数日から数週間ほどで人々の恐怖は怒りに変わり、いわゆるプライバシー・パラドクスが起きて、ほぼすべての人にとってニューノーマルな生活が始まるでしょう。大きな秘密ごとが明るみになった人は、他者からの反応が期待よりも薄いと安堵や失望の念を抱くでしょう。

長期的には、測定するのがより困難です。すべての人に同じ問題が起きると「みんな一緒」の精神で、より高度なセキュリティに対する集団的要求が市場と一致するでしょう。

また、私たちがとして隠す必要があるとしてきたものがいざ明るみになると、無害でないにしても実害はないことに気づかせてくれるかもしれません。人々の記憶のなかで、同性愛者であることや、薬物を使用しているといったことが、人生を台無しにしたり、刑務所に送りになったりすることもあります。今日、プライドパレードや合法的に大麻を販売している店が存在するのはすべて、個人的な勇気や意図しない開示の積み重ねの結果として得られたものかもしれません。1回限りの"絶滅事象"レベルの漏えいは短期的なパニックを引き起こすだけでなく、長期的なポジティブな変化を引き起こすと信じることもできます。

検索しまくるようになる

Tessa West(ニューヨーク大学心理学准教授。社会的知覚の性質とダイナミクスの理解に関する研究に従事)

ほとんど誰もが、インターネット上での秘密を抱えているはずです。元彼/彼女のサイバーストーキングをしたり、もはや制御不能なオンラインショッピングの癖があったり、こうした秘密が明らかになるのは恥ずかしく感じるものです。でも、もっとシリアスなものだったらどうでしょう? 非常にセンシティブなもので訴訟、離婚、解雇の可能性があり得るものならば...?

秘密が明るみになることについては、対価があるにもかかわらず、インターネット上の秘密が漏えいすることを心配の種として常々抱えている人は少ないようです。でも、それはあまり賢明ではありません。なぜならデータは日常的にハッキングされ、明るみになるものなのですから。

ある朝、目が覚めて、他人のデータをすべて簡単に見える状態になっていたらどうでしょうか? すぐさま、身近な人たちのデータを調べるでしょうか? いや、おそらく私たちはまず自分自身のことを検索するでしょう。それはやはり、人類は自己中心的なところがあるためです。社会科学者らは、このことをスポットライト効果と呼んでいます。他者が実際よりも自分のことにもっと注意を払っているという信念です。私たちはみな、秘密がバレることを心配していて、他人事よりも自分自身のことや自分の検索履歴の方に意識が向いているはずです。

その次にしうることは、有名な人の秘密を探ることでしょう。近隣の年老いていく人たちや、退屈な同僚のことよりも、有名人のストーリーを読む方が余程興味深く感じるものです。それに、多くの人にとって人の不幸は蜜の味ですからね。すべてを所有しているかのように見える人の堕落を見たいと心のどこかで思うものです。有名人の爽やかではない一面を知ることは、自分自身について感じている恥や不安への絶好な解毒剤になります。

それでも最終的には、身近な人たちの検索をかけるのか。おそらくは、そうなるでしょう。ただそれも、心の準備をしてからになるはずです。私たちが愛着を持ち、気にかけているものに関しては、前向きなバイアスが働いています。パートナーが宴席で失礼な態度を取った場合、あなたはその行動について「彼はただ疲れている」と解釈するかもしれません。彼/彼女が職場の新入りと親しそうにしていたら、人当たりが良い人なんだと思おうとするかもしれません。このように色眼鏡をかけていることは、ときに良好な関係性の維持へつながります。世界観が完全に打ち砕かれても構わないという人はどれだけいることでしょうか? あまり多くはないはずです。

このような思考実験から興味深い質問を引き出してみると、社会はどうなると思いますか? 不安定になってしまうのか、それとも逸脱した行動を許容するようになるのか。おそらく、どちらでもないでしょう。一般的なことでも、受け入れられていないことはまだ多くあります(たとえば、嘘をつくこと。社会的なやりとりの5回に1回は起きています)。指をさすことや、勝手にこの人はこうだと決めつけることも同様です。もしかすると、これを機に私たちはもっと正直になるべきなのかもしれませんね。私たちが夢中になっているものや、隠そうとしているものは、結局のところそこまで変ではないこともわかります。

正気の喪失→すべてが中断→再構築

Giovanni Vigna (カリフォルニア大学サンタバーバラ校のコンピューターサイエンス教授。脆弱性分析、Webセキュリティ、マルウェア分析、モバイルプラットフォームのセキュリティに関する研究にVigna主導・USCBハッカーチームのShellphishとともに従事)

おそらく、3つの段階があると考えられます。

第1段回:みな正気を失うでしょう。このフェーズでは、多くの要因が重要となります。たとえば、漏えいした情報はどのようなかたちで閲覧されるのか。もし、ひとつの大きなファイル形式であれば、その中から情報を見つけるというのは気が遠くなるような作業になります。一方、もしも情報にインデックスがかけられていたら(すなわち検索可能であれば)自分自身のどんな情報について開示されたのか知ろうとする人たちによるDoS攻撃が起きるでしょう。

第2段回:すべて中断されるでしょう。すべての財務上の秘密(銀行口座のPINなど)が開示されれば、財務システムは深刻な停止に陥ります。同様に、他のシステムは悪用を防ぐために即座にシャットダウンされます(投票も含め)。

第3段回:新たな夜明けとして、地球上のほとんどすべての人間が、アイデンティティ、財務情報、暗号鍵などを再構築するのに忙しくなります。

このフェーズでは、2種類の情報があることは明らかです。無効になった情報(変更がかけられるGmailアカウントのパスワードなど)と、無効にできない情報(妻が子育てで忙しいときに愛人に送ったメールなど)です。前者については、情報の種類によってリセットできるかどうか異なります。というのは、また同様の漏えいが起き得るならば、セキュリティやプライバシーを保護するための新たなプロトコル、メカニズム、技術、ポリシーが必要になることでしょう。これには時間がかかります。現在のところは、どうすれば良いのか明らかではありません。そのあいだに私たちが知っているような社会は消滅するでしょう。

もし、別の漏えいが起きることがないのなら、システムはゆっくりとリセットされますが、情報漏えいによって世界に走った衝撃は残り続けるかもしれません。

みんな他人のデータを漁ってる余裕がないほど忙しくなる

Michael Slepian(コロンビアビジネススクール リーダーシップ・倫理准教授。秘密にまつわる心理学の研究に従事。Keeping Secretsプロジェクト運営)

私たちの調査結果によると、人は一度に平均約13個の秘密を保持していることがわかっています。リレーションシップ、財政面、恥ずかしいこと、欲望、違反などが一般的で、誰もがどこかしらのタイミングで何かしらの秘密を持っていると考えられます。

では、人々のデータが一斉に漏えいするようなことが起きた場合はどうなるのでしょうか? どのウェブサイトに訪問したか、何を購入したか、どんな医学的なことをグーグルで調べたかなど、すべてが公になったとしたら? 明らかに13個以上の秘密を抱えていたことに気づかされるかもしれません。

私たちがプライベートなこととして捉えるデータの山の中には、隠しておきたい領域が多くあります。友人、家族、配偶者、同僚、上司はどう思うか。皆がみな、解雇されたり離婚したり友情を失ったりするのかというと、そうではないはずです。しばらくのあいだは、安全かもしれません。というのは、他人のデータを漁るよりも自分自身の公開されてしまったデータで忙しくなるはずだからです。

私たちが他の人のデータを閲覧(そして他の人たちが自分のデータを閲覧)するようになるとき、多くの驚きがあることには間違いないかもしれませんが、その一方で、漏れなくすべての人たちが同じ目に遭ったのならば、被害をもたらす以上に私たちを団結させることになる可能性もあります。

もしかすれば隠しごとのせいで孤独を感じる人もいるかもしれませんが、本当に孤独だという人はいません。それは、私たちが秘密を抱えるときに、なかなか気づくことのできないことのひとつです。

秘密を守ろうとすると、潜在的な助けや導きの扉を閉ざすことにもなります。他人と秘密を共有することは、その秘密に対する助けを得る方法に繋がることもあります。大規模な情報漏えいは、究極の暴露となるかもしれません。また、すでに存在していた「他者との共通点」は何か、見出す新たな方法にもなり得ます。

味気ない世界になるかもしれない

Art Markman(テキサス大学オースティン校 心理学、組織における人間事象、マーケティング教授。IC^2 Instituteエグゼクティブディレクター。著書に「 Smart Thinking」「Bring Your Brain to Work」などがある)

秘密というのは、いわゆる「情報の非対称性」の一種です。情報の非対称性とは基本的に、ある人はそのことを知っているのに、他の人は知らない状況を表します。秘密は、誰かが意図的に情報を隠して情報の非対称性を作り出したときに発生します。秘密を守る能力は、人間のコミュニケーションにおいて不可欠です。誰もが常に、すべてのことに関するあなたの意見を知りたい / 知る必要があるというわけではありませんからね。あなたが着ているシャツを私があまり好まないからといって、そのことを知らせることによってぎこちない1日を過ごす必要はないはずです。私たちは、人に知らせる内容を管理することで、円滑にコミュニケーションを行なっています。それにもちろん、サプライズを仕掛けるときはある程度の秘密性が必要ですよね。

さらに、秘密はときに良いものです。新規ビジネスを計画しているときに、会社を立ち上げて儲けを出す機会を得られるまではアイデアの詳細を人に知らせたくないとします。情報が溢れている世界では、最も裕福で大規模な組織が新しいアイデアを最も早く開発できるようになっています。新しいプレーヤーが市場に参入し、市場を混乱させることができるのは、人々が企業秘密を守る場合のみです。

もちろん、プラスの影響を持つツールはマイナスの影響を持つこともあります。人々は情報の非対称性を利用して、他者を傷つけることもあります。情報の非対称性が存在しない世界よりも、情報の非対称性が存在する世界のほうが良いとは思いますけどね。