こんな監視なら大歓迎。
カリフォルニア州は今、これまでに見たことがないような危機に見舞われています。山火事シーズンのピークも迎えていないというのに、大規模な山火事によって、たった1週間でロードアイランド州ほどの面積(3,144平方キロ=鳥取県や奈良県よりもちょっとだけ小さいくらい)が燃えてしまったそうです。
3州にまたがる山火事監視カメラネットワーク
最前線にいるプロのカメラマンや地上から3万5000キロ離れた宇宙空間の人工衛星に至るまで、さまざまなメディアが驚くほど広範囲に燃え広がる炎の様子を捉えています。その中でも最も生々しいのは、炎に覆われた山や丘に設置されたタイムラプスカメラの映像かもしれません。ニューヨークのアパートから、丘の上のカメラに向かって広がってくるLNUライトニング・コンプレックスにおける山火事のタイムラプス映像を最後まで見ていると、熱さをリアルに感じそうで、思わず画面から身を引いて縮こまってしまいます。
カメラは、遠く離れた場所にいる人々へ素早く映像を提供するためだけに設置されているわけではありません。ネバダ地震研究所の所長であるグラハム・ケント氏が「ビッグ・ワン(大地震)を待つのに飽きた」と述べているように、カメラは地震学者によってつくられた「ALERTWildfire」と呼ばれるネットワークの一部なのだとか。結局のところ、「ビッグ・ワン」は、カリフォルニアを海に沈没させるほどの大地震ではなくて、とんでもない暑さを引き起こす気候によって州を蹂躙している山火事を指すことになってしまったようです。
ALERTWildfireネットワークは、消防士が火災を初期段階で特定して消火しやすくするために設計されました。まずタホ湖周辺で試験運用されたのち、カリフォルニア州全体に加え、ネバダ州とオレゴン州まで広くカバーするようになりました。過去2年間だけでも新しいカメラが600台設置されたとのこと。このチルト機能とズーム機能を備えた標準的な監視カメラは、ストリーム映像を各サイトからALERTWildfireに送っているそうです。
消防士は通報があった火災を映像で確認して、消火活動に必要なリソースを迅速に送り込むことができます。また、ケント氏によると、オレンジ郡のボランティアネットワークは、火災発生の危険性が特に高くて非常事態と判断した日には、約400人を動員してカメラから送られてくる映像を監視しているそうです。
暑さがひどくなってきた世界では、消火活動の予算が不足していることや、広範囲に及ぶ大規模火災がより一般的になっていることから、火災に立ち向かうためのリソースが貴重なものとなっているため、適切なタイミングで炎を狙い撃ちし、必要に応じて地域住民を避難させることができるこの火災監視ネットワークのコンセプトは完璧に理にかなっています。しかしながら、8月末から続く山火事は、消防士と監視カメラシステムを圧倒する勢いです。
ケント氏は近年の山火事についてこう話しています。
山火事がこんなにひどくなるまでは、911(日本の119番)に電話がかかってきたら、カメラで確認して空から消火活動するための飛行機やヘリコプターを送り、延焼を防いで次の現場へ向かえばよかったんです。なのに、今ではカメラシステムがどの火災現場を優先させるかを決めるツールになってしまっています。
カリフォルニアはこれから本格的な山火事シーズンに
カリフォルニアを飲み込んだ多くの山火事の全容を把握するのは難しいみたいですよ。少なくともそのうちの560件については、記録的な暑さを伴う尋常じゃない雷雨が原因だそうです。8月末に起こった2つの山火事は、州の歴史上最大規模といわれています。小さな町の人口に相当する消防士(8月末時点で12,000人)が、州全体に派遣されています。何万もの構造物が危険な状態にあり、州全体で数百万人が避難しているものの取り残される人もいて、輪番停電まで起こっています。しかも、同州は新型コロナが猛威を振るっている真っ最中でもあります。最悪なのは、これから秋にかけてサンタアナとディアブロの風によって本格的な山火事シーズンに入ることです。まさに、終わりの見えない危機に見舞われているとしか言いようが……。
消火活動を手助けするはずのカメラが命を救うツールに
ケント氏によると、ネットワークのカメラのうち10台が燃え尽きてしまったそうです。それでも、残っている何百台ものカメラで監視できるのは、多くの州や国にとっては夢のような状況みたいです。昨年にはこの監視ネットワークによって、キンケイド火災の予想進路上にいた人々を避難させ、最初の24時間における死傷者をゼロにすることができました。一方、このような監視ネットワークを持たないオーストラリアでは、この夏の山火事が直接の原因で少なくとも30人が命を落とし、445人が煙に関連した病気で亡くなっています。初期段階での避難誘導ができなかったため、多くの人が取り残される事態も発生しました。
カメラが映し出しているのは変わりゆく前代未聞の気候
消防士や、山火事が発生しやすい地域のコミュニティにとって、避難するための貴重な時間を与えてくれるALERTWildfireのようなシステムは、まさに救世主のような存在かもしれないですね。しかし、このツールは私たちが直面している危機の深刻さを教えてくれているんだとつくづく感じています。これらのカメラはが目撃しているのは、人類史上前例がない気候です。そしてこの気候は、石油産業の大嘘や電力会社の強欲、化石燃料と結びついた経済成長システムによってもたらされたものです。

ケント氏は、カメラが炎に焦点を合わせようとする様子を、近年における山火事の状況を把握しようとする私たち自身の葛藤になぞらえてこう話しています。
カメラはパニックに陥っている人間の様子を捉えようとしているかのようです。私たちはまさにエスカレートする悲劇に直面していて、それは年々じわじわと悪化していくんです。
何千キロも離れた場所に座っていたというのに、山火事を目の当たりにした私は同じようなパニックと悲劇を感じました。大規模な山火事が頻繁に発生している地域において、私たちを守る立場にある人たちのリソースは不足しています。でも、心配ばかりしていてもはじまりません。地球上のあらゆる場所で上昇する気温が人類をたたきのめしてしまう前に、行動を起こさなければいけません。