ゲームボーイといえば、電池。
『ポケットモンスター・赤』をプレイしていたあの頃、ちゃんとセーブしておかないと電池切れでやり直しになるという責め苦を何度も味わいました。あれはもう、子供の頃のトラウマですね。同じようなことを思っている人はきっと私だけじゃないはず…。
さて、そんな時代からもう二十年近く経ち、コンソールもかなり改善されました。が、今度は気候危機という文脈でバッテリー問題と向き合う必要性が出てきました。これは間違いなく、電池切れで悔しい思いをした個人的な体験よりもっとずっと大きな問題です。
でも、ゲームボーイに限った話でいえば、ノースウェスタン大学とデルフト工科大学の研究者たちが開発した電池いらずのデバイス「Engage」でよりサステナブルに遊べるようになるかもしれません。なんでも、太陽光とボタン連打で動くんですって!
電池が切れたら、ボタン連打!
ここでひとつ明確にしておきたいのは、見た目こそほぼゲームボーイですが、「Engage」は私たちが知っている8ビットのゲームボーイと同一ではなく、"クローン"であること。とはいえ私たちが慣れ親しんだ任天堂のソフトで遊ぶことは、可能です。
では、何がどうオリジナルのゲームボーイと違うのか。ひとつは、本体にソーラーパネルがついていること。もうひとつは、ボタンがバッテリー代わりになっていること。そして、これらの電源ソースのおかげでなんと10秒くらい遊べるということ。電池が切れたら、ボタン連打をば…。
え、そんなんじゃ遊びようがないじゃないか、ですって? 現状はこんな感じですが、今後は「電池切れしたことすら気づかなかった」となるような、充電速度が速く回復が早いゲームボーイを作ることが目標とされているそうですよ。
ちなみにバッテリー以外のソースからエネルギーを取得する、この種の低電力デバイスの背後にあるコンセプトは断続的なコンピューティングを意味する「intermittent computing」と呼ばれているそうです。
セーブ問題はどうなる?
ゲーミング界での「intermittent computing」において大きな課題となるのが、やはり"セーブ"はできるのかどうか。私たちが知っているゲームボーイは、バッテリーパワーやRAMでセーブをします。電池切れを起こすと、セーブのチェックポイントも途切れることになります。
10秒ごとに電池切れする「Engage」に関しては、研究者らがクレバーな"応急措置"を考えつきました。セーブボタンを押す代わりに、データを保存するための新しい手法によってミリ秒単位で保存・復元できるようになっているのだそうです。
CNETの取材によると、デバイスが低電力状態になったとき、新しいチェックポイントが生まれて古いチェックポイント以降の変化をセーブするようになっているのだとか。このため、たとえばスーパーマリオでジャンプ中に電池切れしても、また同じ場所からスタートできるようになっているそうです。素晴らしい。
ゲーミング体験は(今のところ)難ありかも
ただし、実は普通のゲームボーイと違う点がまだあるんです。それは、音が出ないこと。現状、低電力デバイスとなっているためサウンドが非サポートとなっています。それから、もうお気づきの方も多いかもしれませんが、スクリーンがとにかくちっちゃいこと。あと、ゲームによって調子が変わること。チェス、ソリティア、テトリスなどは比較的相性がよい一方で、たとえばポケモンなどのゲームでのエクスペリエンスはちょっと乏しくなるかもしれないみたいです。
じゃあ、なんで作ったの?
ゲーム本体として、ちょっと大丈夫かなと思えるところが多い「Engage」。研究者らは、プロジェクトの背景として、やはりビデオゲームコンソールが気候変動に影響していることを視野に入れていたとCNETの取材で明かしています。
コンソールの高速化が進み、グラフィックスがよりパワフルになるにつれて、エネルギー要件はますます厳しくなっています。充電式リチウムイオンバッテリーもまた、リチウム採掘にあたり水源の汚染を引き起こすなど犠牲を伴うことが指摘されています。それに、消費者が使わなくなったゲーム機を積極的にリサイクルしているかというと、残念ながらそうではありません。
ゲーム業界を、サステナブルに!
持続可能なゲーミングは、現実になろうとしています。電池を一切使用しないことにより、私たちはその方向に大きな一歩を踏み出しました。
このプラットフォームを通じて、楽しさと喜びをもたらす持続可能なゲームシステムを作ることは可能であることを示したいと考えています。
デルフト工科大学のPrzemyslaw Pawelczak氏は、プロジェクトの共同リーダーとしてコメントしています。また、もう一人の共同リーダーでノースウェスタン大学コンピュータエンジニアリング助教のJosiah Hester氏の説明によれば、彼らが使用しているのはコンデンサと呼ばれる2つの金属板で、これにより何百万回でも継続的に充電できるようになっているのだそう。
たとえばニンテンドースイッチのようなデバイスが電池いらずになるまでには、もう少し技術的な進歩が必要になりそうです。でも、だからといって踏みとどまっているだけでは先に進めませんからね。「Engage」の研究者らは、これを機にゲーミング界での「intermittent computing」の現状を打破するうえで何ができるか議論が始まることを期待しているといいます。
サステナブルな「Engage」は来週、UbiComp 2020でお披露目される予定です。また、ソースコードへのリンクを含む技術仕様はGithubでも公開されています。