量子物質で遊べるWebカメラみたいな環境、できました

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  • author Sophia Chen - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
量子物質で遊べるWebカメラみたいな環境、できました
ColdQuantaの新システム「Albert」では、ガラス容器に入った量子物質をネット越しにいじれます。 Image: Cold Quanta

みんなが量子物質で遊んだら、津波の観測や星の成り立ちの理解に役立っていくのかも。

米コロラド州を拠点とするスタートアップ・ColdQuantaが、「量子物質をクラウドに乗せた」と発表しました。…って、なんかすごそうだけど、実際何ができるんでしょうか?

へんてこな物質を、Web上でいじれる

まず「量子物質」とは何なのかってことですが、このColdQuantaの発表では、ルビジウム原子数万個を絶対零度近くまで冷却したものを指します。次に「クラウドに乗せた」とは、Web越しにいじれる状態にしたってことです。ただしそこにアクセスするには、ここからColdQuantaに申込んで、許可が必要です。

冷却したルビジウム原子は、常温のときとは違い、量子的振る舞いをします。つまり粒子と波、両方の性質を持っているということです。そんな動きを、Web上でユーザー自身が操作しながら、インタラクティブに観察できるんですね。

誰でも量子物質で遊べるんだと示したいのです」ColdQuantaのチーフテクノロジーオフィサー・Dana Anderson氏は言います。「この奇妙で難解な、科学者や量子コンピューティング研究者が作ったものに、あなたもアクセスできるのだ、と。」現段階でアクセスできるのは、バグ洗い出しのために欧米の100ユーザーに限定されていますが、ColdQuantaはその後対象を拡大していくと言ってます。

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ColdQuantaのWebインターフェース。(Image: ColdQuanta)

ColdQuantaは、ルビジウム原子とハードウェア、ソフトウェア含めたこのシステムを「Albert」と呼んでます。Albertのご本尊であるルビジウムのものすごく冷たい原子は、コロラド州ボルダーにあるColdQuantaの研究室内のガラス容器に入っています。ColdQuantaの科学者/エンジニアたちはそこにレーザーや磁石などの機器をつないで、ルビジウム原子をネット越しにいじれる環境を作りました。ブラウザ上でボタンを押すと、実際に研究室にある機器が動いて、原子に何かしらできるって仕組みです。

Albertでできることは、ガラス容器の中のルビジウム原子を拡大して見たり電磁場を作って原子がそのバリアを通ってくるところを撮影したり原子を気体から「ボースアインシュタイン凝縮」という状態に変化させたり、といったことです。原子の波を相互に干渉させたりして(池の中で波と波がぶつかると跳ね上がったり、逆に深く落ち込んだりする部分ができるように)波の性質を観察することもできます。ある意味パンダとかの動物を観察できるWebカメラと似てますが、Albertの場合の「動物」は、人間の髪の毛よりも細い、そして極めて冷たい量子なわけです。

量子物質をもっとみんなのものに

と、いってもなんじゃそりゃ感は残るかもしれませんが、ColdQuantaの目標は、量子物質を今よりもっと普通の存在にすることです。Anderson氏は、一般の人に量子物質とそのふるまいに親近感を抱いてもらいたいと言い、たとえば「レーザー」と同じくらい身近でイメージの湧くものにしたいと語っています。「レーザーについて人に話しても、とくに問題ないですよね」とAnderson氏。「でもレーザーとは、とても量子的なシステムなのです。」

「これは教育のためには素晴らしいです」ドイツ航空宇宙センターの物理学者・Lisa Worner氏は評価しています。これまで量子物質を研究するには、原子の捕捉とか冷却とかのために、研究室いっぱいの小難しい機器を駆使する必要がありました。でもクラウド上に素材があれば、遠くの教室の中でその振る舞いを見せることが可能です。

物理学の世界では、冷却した原子の量子的性質を何らかのデバイスに応用できそうだと見込んでいます。量子物質は、たとえば正確な重力センサーにできるとWorner氏は言います。それは、原子がお互いに切り込んで干渉パターンを作るとき、そのパターンが地球の磁場によって変化するという性質を使っているそうです。NASAはすでに冷却原子を使ったセンサーのプロトタイプを構築済みで、それを使って地球の磁場のマッピングもしています。これがあれば、氷河のかたまりとか津波の動きといったものをより正確に観測しやすくなるかもしれません。

またWorner氏いわく、量子物質は他の衛星の組成の研究にも使えるかもしれないんです。量子物質を冷却してボースアインシュタイン凝縮になるまで冷却し、ブラックホールのような複雑な自然現象のミニチュアモデルを作ったもあります。このモデルを研究することで、実際の対象についての仮説を立てるときに役立つんです。この手の原子冷却技術は広い意味での「量子技術」であり、量子技術には世界のあちこちから何十億ドルという投資が集まっています。

他分野からの参加で、可能性がさらに広がるかも

量子物理学の専門家はまた、この技術には彼らの想像を超える応用先があるのではないかとも考えています。だからColdQuantaは、他分野の人がもっと量子物質に触れられる環境を作りたいんですね。「目的は、多くの人が彼ら自身の量子システムをデザインして、自分の問題を解決できる状態にすることです」とAnderson氏は言います。量子物質に何ができるのか、専門外の人にも理解してもらえれば、ColdQuantaは彼らが作る専用のチップやガラス容器の市場を作り出すこともできます。

遠隔操作できる量子物質システムとしては、Albertが初めてではありません。2018年、デンマークのオーフス大学の研究チームが、ボースアインシュタイン凝縮を操作するゲームに600人を招待しました。またColdQuanta自身も2018年、NASAのジェット推進研究所に協力し、国際宇宙ステーション(ISS)に量子物質研究室を設置しました。ISS内の物質を、地球上の研究者が操作できる仕組みです。

量子技術についての啓蒙活動は、業界的により長期スパンでのメリットも生み出せます。「量子関連は人手不足なんです」ランド研究所の量子政策研究者で物理学者のEdward Parker氏は言います。「この仕組みは、研究所を立ち上げたり博士課程に入ったりといったコミットメントをしなくても、冷却原子に触れるために役立つことでしょう。」

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