モノ選びの達人・ハイロックがつくるバッグ、テーマは「エラー」。偶然の産物に隠された狙いとは

  • author 望月智久
モノ選びの達人・ハイロックがつくるバッグ、テーマは「エラー」。偶然の産物に隠された狙いとは
Photo: Victor Nomoto(METACRAFT)

ハイロック印の、ポップで愛しい“エラー”な世界。

ギズモード読者ならご存知の人も多いであろう、数々のメディアで多岐にわたるプロダクトを紹介している“モノ選び”のプロ、アートディレクターHIROCK(ハイロック)さん。彼が、新進気鋭のバッグブランド「UNCAR COMPOUNDED(アンカーコンパウンデッド)」とコラボレーションし、オリジナルのバッグコレクションを公開しました。

独自の視点と感性を持つ、目の肥えた達人が作るバッグとはどんなモノなのか。きっとそこには面白い仕掛けがあるんじゃないかと気になってしまうのが、ぼくらの性(さが)。

コレクションのテーマは“ERROR”意図せず起こるエラーによって偶然生まれたデザインを表現したバッグってことで、いかにもハイロックさんらしいひねりの利いたコンセプトです。その真髄について、いろいろと教えていただきました。

“ERROR”という突然変異なご愛敬

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Photo: Victor Nomoto(METACRAFT)

──「UNCAR COMPOUNDED」とオリジナルバッグコレクションを制作した経緯を教えてください。

ハイロック:UNCAR COMPOUNDEDからお話をいただきまして。過去にはチームでデザインしたことはあるけど、個人でバッグをデザインするっていうのは初めてだったんで、まずやるかやらないかのジャッジを自分の中で問いましたね。

というのも、バッグってジャンルとしてはさまざまなものがあるし、優秀なプロダクトが多いんですよ。登山などのアウトドア用途や日常使い、どの分野においてもバッグは重要なツールだから。その中で自分が作れるものってあるのかなって。

──UNCAR COMPOUNDEDとして、ハイロックさんをオファーした理由は?

荒澤(UNCAR COMPOUNDED企画):ブランドのレギュラーラインは、ビジネス寄りで価格帯も少し高めに設定されています。ハイロックさんがおっしゃっていたように、バッグが世の中にたくさんあるなかで、UNCAR COMPOUNDEDとして既存のイメージにない斬新なバッグを提案したいという思いがありました。そこで雑貨やツール、さまざまなプロダクトに精通しているハイロックさんのデザインの知恵をいただけたら面白いものができるんじゃないかなと思い、お願いしたんです。

──ハイロックさんは自身でも、メディアを通じて数多くのバッグを紹介してきていると思うんですが、その中で今回のコラボコレクションを引き受けて、デザインするに至るまでどのようなプロセスがあったんですか?

ハイロック:バッグという分野の中で自分に何ができるか、というのはつまり“隙間”を探していくことなわけです。その“隙間”こそが今回のテーマにもなっているんですよね。

まずは僕が作る意味とか理由みたいなものをどう説明したらいいかをすごく考えました。僕がものを選ぶ際に思う“カッコイイもの”って2つあるんです。デザイナーがカッコイイものを作るぞって意志を持ってカッコ良く作られているもの。当然それはデザインプロダクトと呼ばれるものです。その一方で、意志を持たないカッコイイものもいっぱいありますよね。例えば、野球のグローブとかドライバーとか、極端に言うと道ばたにあるドラム缶とか。どちらかというと後者のものを表現したいなと思いました。

狙って作るから、そこにデザインの意志は介在しているんだけど、意志がないようなデザインにできたら面白いなと。「UNCAR COMPOUNDED」にとっての突然変異的なバッグを作ろうと思ったんです。

日常/人生のエラーを楽しむユーモア

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Photo: UNCAR COMPOUNDED

──それで偶然の産物である“ERROR”がデザインテーマになったんですね。

ハイロック:自分がやろうとしていることを一言で説明したいってときに、この言葉が浮かんだんです。“ERROR”って、プログラムを書いているなかでも起きることだし、人が生きているなかでも起きることじゃないですか。偶然の出会いもある意味、“ERROR”。もっと言うと、友達とこんなことで喧嘩したとか、パートナーと別れちゃったとか。でもそこから新しいことが始まったり、今までになかったアイデアが浮かんだりすることもあって、言い方は雑かもしれないけど、エラーによって引き起こされるイレギュラーな物事って、総じて面白いんじゃないかと。そういったプロダクトデザインにしようと方向性を決めました。

荒澤:イメージを受け取ったとき、本当に面白い切り口だなと思い、ワクワクしましたね。

ハイロック:実は、リリース後に起きた面白いエピソードがあって。いわゆるB品がお客さんの手元に届いちゃったらしいんです。サービスセンターに問い合わせが来たとき「すぐ取り替えますね」って対応を取ろうとしたら、そのお客さんが「これ、今回ハイロックさんの掲げるコンセプト通りですね」「直さないで使います」って言ってくれたみたいで。そんなおしゃれなお客さんがいたのは嬉しかったですね。それを聞いて「B品出ても大丈夫だ」って思いました(笑)。

──(笑)ユニークと言えば、カタログに起用された写真も、人選含めて面白いと思いました。

ハイロック:手法としては僕が在籍した「A BATHING APE®」のNIGO®さんがやっていたことのオマージュなんです。仲間たちに着せたい服をコンセプトに、実際に当時スチャダラパーやコーネリアスの小山田圭吾さん、Pharrell Williamsとかが「A BATHING APE®」を身に付けていました。そんなNIGO®さんの手法を真似しつつリアルな僕らしさを出すために、プロのモデルではなく普段から繋がっている仲間に声をかけました。

──登場しているみなさんの自然な表情や個性的なスタイルも相まって、どこか愛おしさすら感じました。

ハイロック:昔、アップルの“Think different”キャンペーンというのがあって、個性あふれる時代の異端児たちが起用されていましたが、今回の友人たちは僕の中でまさにそれで、”ERROR”という言葉を直接当てはめてしまうと失礼に聞こえてしまうけど、個性を持って人とは外れた”ERROR”な人たちです。

プロダクトデザインと資産とアイデアと

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Photo: UNCAR COMPOUNDED

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Photo: UNCAR COMPOUNDED

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Photo: UNCAR COMPOUNDED

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Photo: UNCAR COMPOUNDED

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Photo: UNCAR COMPOUNDED

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Photo: UNCAR COMPOUNDED


──プロダクトをデザインする過程で、映画や音楽、プロダクトなど、インスピレーションを受けたものは何かありますか?

ハイロック:分かりやすいもので言うと、“エッグポーチ”ですね。エイリアンの卵をイメージしています。映画『エイリアン』がすごく好きで、丸型のポーチってあまりないなあって思ってデザインに取り入れました。

また、今回の象徴的なグラフィックのひとつとして総柄を取り入れています。これはステンレス製品などが傷付かないようにラップする梱包材のシート、ガムの包み紙のような包装紙、家の壁の内部に使われるタイベックの防水シートとか、そんなイメージのパターンがソースになっています。

──そういった包装紙的なものって意識しないと目が行かないものですよね。

ハイロック:そう、でもよく見てみるとカッコイイんです。表側に使われることはないものを逆手にとって表に使ってしまおうというのが、“ERROR”的発想なんですよ。

──コレクションを見ると、ジップではなくバックル開閉式のものだったり、バッグ内に仕込まれて必要時に広げられるレインカバー、マジックテープの代わりにブロックを組み合わせるように止める“マジックブロック”など、独特な機構が使われています。こういったものはすでに「UNCAR COMPOUNDED」のレギュラーラインでも使われていたんですか?

ハイロック:「UNCAR COMPOUNDED」がすでに使っていたものですね。クルマに搭載されている機能を落とし込んでいるのがブランドの特徴なので、バックルで上半分がガバっと開くのはオープンカー、コンバーチブルをイメージしていて、サコッシュやポーチで拡張できるのもクルマをカスタマイズする感覚のもの。トートのボトムからレインカバーが出てくるっていうのは緊急時のエアバッグをイメージして搭載された機能なんです。“マジックブロック”に関してはアパレルにおいても見たことないなあ。こういったブランドの特徴やイイ部分は最初から使おうと思っていました。資産として残しつつ、僕のアイデアを足していった感じですね。

──“ERROR”コレクションの推しポイントはズバリどこでしょうか?

ハイロック:ファッションの延長で作っているつもりなので、あんまり作り手が推しを語らない方がいいなと思うんです。これは僕の定義ですけど。季節感さえ押さえていればあとは自由。それぞれがいいと思う部分を遊びながら楽しんでもらえれば。

荒澤:今回バックパックを同じサイズと型で、3つのカラーバリエーションで作っているんですけど、カラバリだけではなく、3つとも前面が違う仕様のデザインになっています。バッグとしてはかなりイレギュラーな試みで、そこは楽しめるポイントだと思います。

──いろいろなバッグを、見て、触って、使って、紹介してきたハイロックさんが制作したバッグ、自己採点するとしたら何点でしょうか?

ハイロック:性格的にどうしてももっとああしたかったこうしたかった、って後から出てきてしまうので、プロとしては下げざるを得ないんだけど…(笑)。でも90点くらいは付けてもいいかなと思ってます。

──コロナ禍の影響はありましたか?

ハイロック:コロナの時期を挟んだからこそ時間はかかっちゃったけど、逆に時間がたっぷり使えたことは良かったですね。結論をだしたことも、もう一度考え直せる時間だったし。一気に物事が進んじゃったらできなかったであろうことをプラスできました。総じてネガティブにならなかったかなあって。いま渋谷PARCOにポップアップショップを出店しているんですが、それも時期的に良かったのかなと思いますね。

荒澤:時期を読むのは難しかったですけど、結果的にタイミングは良かったかもしれないですね。

モノや感性と巡り合うタッチポイント「Hi-Touch」

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Photo: UNCAR COMPOUNDED

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Photo: UNCAR COMPOUNDED


──渋谷PARCOに11月1日まで出店しているポップアップストアについて改めてお聞きしたいのですが、店名の「Hi-Touch」の由来は?

ハイロック:“ハイロックのお店”っていうのを表したかったので、“ハイ”か“ロック”かどちらかは入れたかったのと、そのまま“ハイタッチ”という意味、品物と巡り合うための高いタッチポイント(接点)になってほしいというダブルミーニングでこの名前になりました。

荒澤:UNCAR COMPOUNDEDは実店舗を出したことはなく、ECサイトのみで展開していたブランドなんですけど、初めて実店舗で商品を触って選べるという意味でも、すごくいいなと思った名前です。

──ソーシャルディスタンスが叫ばれているなかで、あえての「Hi-Touch」というネーミングはすごくポジティブに聞こえました。人とハイタッチできないけど、モノや感性にタッチできる場所というか。

ハイロック:響きもかわいいですよね。アイデアが浮かんでから、ロゴデザインは15分くらいでできちゃいました。

──早いですね。

ハイロック:あまり作り込みすぎるよりも、シンプルな味付けで素材をささっと炒めてパッとお皿に盛りつけた方が料理もおいしいと、僕は思うので。

──バッグの他、ハイロックさんセレクトのアイテムも販売されていますが、どういった視点でアイテムを選んだんですか?

ハイロック:基本的には誰でも買える要素を持っているものなんですけど、それが一同に会すことはない、というラインナップですね。モノ単体で見るよりも、集合体として見てひとつのアートになるようなイメージです。“これとこれが隣り合わせで並ぶお店ってないよね”っていうのを意識しています。

店頭に立っていると、僕がセレクトしたアイテム目当てで来た人が、バッグを面白いって思って買っていってくれるので、狙い通りと言えば狙い通りですね。セレクトアイテムとバッグ、どっちからかじってもおいしいような仕組みにしています(笑)。

──さすが、“モノ好き”が食いつくフックをいっぱい作っていますね「Hi-Touch」の店舗づくりに関して、こだわった部分はありますか?

ハイロック:今っぽい内装にはしてあるんだけど、実は“小学校の教室の風合い”にまとめてるんです。正方形の木のマスを使って教室のロッカーを、パンチングボードを使って音楽室の壁をイメージしていて、なんとなく懐かしさを感じられるような仕掛けになっています。ロッカーをイメージしたマスは、僕らが大人になったぶん、小学校のときよりも大きくしているのがポイントです。

──フォトスポットも象徴的ですよね。

ハイロック:ガラスをカーブさせたあの壁は、他の店舗も持っているものなんだけど、色で差を付けたいなと思って黄色にしました。バッグにも差し色に黄色を使っているので“ERROR”のアイコンカラーだし、視認性も上がりましたね。「Hi-Touch」のロゴにハイタッチして撮影ができるようになっています。

──お店の売れ筋アイテムを教えてください。

荒澤:バックだと“エッグポーチ”が人気ですね。見た目も値段も、手に取りやすいですし。

ハイロック:雑貨で言うと、KFCのチキンを模したストレスボールとか、輸入モノ系が売れてますね。

お店で買い物する理由=“古着屋の店主の話”

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Photo: Victor Nomoto(METACRAFT)

──オンラインでも買うことができるものを、あえて実店舗で売ることのいちばんの魅力って何だと思いますか?

ハイロック:そこはなんといっても“古着屋の店主”の話ですよね。僕らが学生のときって、例えば古着屋に行ってジーパン買うのに1時間くらい店長に話を聞いてから買ってたんですよね…貴重な御説法を聞いてから(笑)。どこどこのコレクターから買い付けた、みたいなサイドストーリーを聞くことで、そのアイテムの付加価値が高まっていたわけです。

今ってボタン一個で全部買えちゃうじゃないですか。すごく便利になってプラスしかないんだけど、僕個人的にはモノ選びや買い物に“古着屋の店長の話”の要素って必要だと思っています。モノに対してのストーリーや蘊蓄(うんちく)を大事にしていて、それが伝わるお店にしたいという気持ちで「Hi-Touch」を作りました。

──実際お店を訪れたとき、ハイロックさんはもちろんですが、スタッフのみなさんも、商品について丁寧かつマニアックで面白い話をしてくれて驚きました。

ハイロック:そうなんです。スタッフには語れるプロを選んでいるんです。

荒澤:初日にはハイロックさんも店頭に立たれて商品を販売していたので、スタッフもさらにそれを見て聞いて吸収してくれています。

ハイロック:僕の話を、残りの会期のスタッフ全員にシェアするシステムを採用しています。最終日に入るスタッフが、ハイロックが初日に語っていたことを同じように語れるような仕組みです。そこまでやってこそオンラインとの差別化ができるかなと。

──伝言ゲームみたいに、途中で内容が変わっちゃったりしないんですか(笑)?

ハイロック:変わっちゃってもいいと思っています(笑)、面白ければ。だって“古着屋の店主の話”も同じようなものだもん(笑)。背びれ尾ひれがついて完成するんです。

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Photo: Victor Nomoto(METACRAFT)

取材後、ギズモード・ジャパン編集長の尾田さんとの雑談のなかで、ちょうど取材時に発表になったばかりだったiPhone 12についての話題になりました。“モノ選び”から繋がる、テクノロジーについての面白い見解がうかがえましたので、こちらに追記しておきますね。

──iPhone12、ハイロックさんはいかがでした?

ハイロック:大(Pro Max)か小(mini)かってところですね。単にプロダクトとして楽しむフェーズは、自分の中で終わっているんです。それはもちろんどれを買っても大丈夫というアップルの信頼があってこそなんですが。僕は常に生活の中に良い行動を習慣化するようにしていて、その一方でその習慣に新しい刺激を与えてプログラムの組み換えを行ったりするんです。“小さくなること”で、自分のライフスタイルが変わることを楽しみにしてるんですよね。画面に依存しないライフスタイルとかそういう考え方で選ぶとしたらminiですね

尾田(ギズモード・ジャパン編集長):おもしろいですね。miniと聞いて、ハイロックさんらしいとは思いましたが。

ハイロック:尾田さんとは前に話したけど、本当の未来って『ドラえもん』の未来って感じがするんですよ。『2001年 宇宙の旅』ほど無機質な未来にはならず、テクノロジーが日常の裏側で走っている未来がいいなと思う。机の引き出しのなかにタイムマシンがあるような未来が、本当の未来の姿なんじゃないかと。今ってテクノロジーがむきだしだから、それってけっこう気持ち悪いじゃないですか。気付いたら便利だったっていう方が、人とテクノロジーの理想的な寄り添い方じゃないかと、僕は思いますね。

【総力取材】最前線のクリエイターに聞く「iPhone12シリーズ、どれにしますか?」【随時更新】

選ぶ理由は、人それぞれ。iPhone 12 mini、iPhone 12、iPhone 12 Pro、iPhone 12 Pro Maxと、iPh...

https://www.gizmodo.jp/2020/10/which-iphone-would-you-like-to-buy.html

“ERROR”というハイロックさん的ユーモアが詰まったオリジナルのバッグコレクションは、11月1日まで渋谷パルコ3F にオープンしている「Hi-Touch」で、実際に見て触って体験してみてください。完売していたハイロックさんセレクトの雑貨アイテムもリストックされているかも。

バッグコレクションの詳細なレビュー記事も出ているので、ご参考に。

また、ギズモード・ジャパンのYouTubeチャンネルにも、ハイロックさんがゲスト出演し、持ち物を紹介してくれている動画が公開される予定なので(“ぼくらのあみとうさん”とのコラボ動画です)、一緒に観ると、ハイロックさんのビジョンがより共有できるかもしれません。

2020/11/09追記

ポップアップストア「Hi-Touch」は会期終了しましたが、多数のリクエストを受け、キュレーション型通販サイト「HACTH」でも買えるようになったそうです。遠方で来られなかった方も、これで購入できますね!

ハイロック(アートディレクター)

アパレルブランド「A BATHING APE®」のグラフィックデザインを経て2011年独立。表現の場を選ばないマルチクリエイターとしてのキャリアをスタート。デザインワークを生業とする一方で、自身の情報サイト「HIVISION」を運営し、雑誌やウェブマガジンでの連載をはじめメディア各方面にグッドデザインアイテム、最新のガジェットを紹介。著書に『I LOVE FND ボクがコレを選ぶ理由』。

Edit: Sachiko.T(GIZMODO)

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