iPhone 12が“ジョブズがいた頃のデザイン”に回帰した理由

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  • author 照沼健太
iPhone 12が“ジョブズがいた頃のデザイン”に回帰した理由
Image: Apple

iPhone 12では3年ぶりに大きくデザインが変更されました。

まるでiPhone 4~iPhone 5sに回帰したような、側面がラウンド(湾曲)していない直線的なスタイルです。しかし、iPhone 12で突然このデザインに戻ったわけではありません。皮切りは2018年のiPad Pro。このモデルからそれまでラウンドしていた側面がストレートになり、2020年10月に発表されたiPad Airでもこのデザインを踏襲することになりました。

これは一見すると退行のようでもありますが、何故なのでしょうか。その理由をいくつか考えてみました。

可能性その1:5G対応のためのアンテナ感度優先

この可能性が高いと思います。

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Image: Daniel Barry / 特派員 / Getty Images News

そもそもアップルがソリッドな側面デザインを採用したのは10年前、2010年のiPhone 4からですが、iPhone 4発表時にスティーヴ・ジョブズは、(実は2つに分割されている)ステンレスフレームについてアンテナを兼ねていることを説明。この構造を採用した理由については「受信感度が高いため」と語っていました。

しかし、その後持ち方によって受信感度が下がってしまうという事実が判明して、“アンテナゲート”と呼ばれる問題に発展してしまいました。打開策としてフレームを囲む「バンパー」と呼ばれる純正ケースを無料配布する事態となったことから、失敗したデザインとして記憶されている方も少なくないでしょう。ですが、アップルは次期モデルのiPhone 4Sでは金属フレームを3つに分割したほか、アンテナを2つ搭載し、アンテナを使い分けるシステムを搭載してこの問題を解決することで、(ジョブズ存命中に)一応の決着を見せました。しかし、この革新的なアンテナデザインはここで途切れてしまうことになります。

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今回のアップルの発表ビデオを見る限り、iPhone 12はiPhone 4シリーズのリベンジと考えることができます。その根拠はこの分割されたアンテナ構造。どう見てもあの頃のiPhoneを思い出さずにいられません。

iPhone 5も側面がソリッドだったじゃないかって? それは違います。iPhone 5は側面のデザインこそiPhone 4シリーズを踏襲しているようですが、実は構造的にはまったく違います。iPhone 4シリーズはステンレスフレームをディスプレイとガラス筐体で挟んでいるのに対し、iPhone 5シリーズではアルミをベースとしたユニボディ筐体にディスプレイを乗せる作りだったんです。

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Image: Justin Sullivan / スタッフ / Getty Images News

ちなみに背面上下のガラス部分はアンテナの電波を通すためのものだと言われています。

そしてiPhone 6では側面が湾曲したユニボディが採用されましたが、やはり背面の上下には樹脂による線(通称Dライン)が入っており、これもアンテナの電波を通すためのデザイン。

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Image: George Frey / 特派員 / Getty Images News

このアンテナ用の線はiPhone 7以降も引き続き健在ですが、だいぶ目立たなくなりました。技術は進歩したんですね。

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では、なぜiPhone 12で再びiPhone 4の構造を採用したのか?

注目したいのは、今回が5G通信に初対応となる機種だということ。そして5Gは減衰しやすく遮蔽物の影響を受けやすい電波であるということ。

つまり、そうした弱い電波を掴むたため、そして3G、LTE、5Gといった複数の通信方式に対応するためには「あのアンテナこそが最適である」とアップルが判断したということなのではないでしょうか?

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だって、この電波を検証する部屋、アンテナゲート時の釈明に使われたあの部屋を思い出さずにいられないでしょう。

5Gという新たな技術に対応するために、あの伝説のデザインを掘り起こす…! ロマンチックすぎますか? いやいや、楽しんだもん勝ちです。

ちなみにiPad ProやiPad Airで先にこのデザインが採用されていたのはなぜかというと、iPhoneの5G対応、つまりこのiPhone 12を中心としてラインナップのデザイン言語を統一するための戦略だったのではないでしょうか。だって、iPhoneこそが現在のアップルの主力プロダクトですから。

可能性その2:画面大型化優先

iPhone、iPadの歴史は、画面大型化の歴史でもあります。

そもそも初代iPhone、初代iPadともに、同時代のスマートフォンやタブレットに対して非常に大型かつ美麗なスクリーンを持っていたのが特徴でした。そこからスクリーンを絶対的に大型化しつつ、ホームボタンを減らし、ベゼルを削り、極力ディスプレイ以外の要素を削っていくことで相対的にも画面を大きくしていく。これがアップルの一貫した姿勢です。

そう考えると本来iPhoneやiPadのデザインは、側面がソリッドあるいはすり鉢状でなければなりません。iPhone 6以降iPhone 11まで続いたラウンドデザインでは、画面の外側にあるベゼルをより大きく見せてしまうからです。

ではなぜiPhone 6以降、ラウンドデザインを採用したのか? その裏にはiOSとiPhoneのさらなる融合、そしてユーザーの教育が目的として存在していたことが考えられます。

アップルのプロダクトデザインを統括してきたジョナサン・アイヴが初めて全面的に監修したOSであるiOS 7以降、iOSは設計思想とともにデザイン、画面構造、操作性が大きく変化しました。

まずiOSのフラットデザインの採用に目を向けてみましょう。初期iPhoneが提示したマルチタッチインターフェースはユーザーにとって極めて珍しいものであり、馴染みのないものでした。そのためアップルは我々が現実に慣れ親しんだテレビやカメラ、メモ帳などを写実的に模したスキューモーフィックデザインを採用しました(純正ではないですがインスタグラムのアイコンが良い例です)。そこから数年を経てユーザーがiOSに慣れたところで、初めてフラットデザインを採用してボタンをテキストに置き換えることに踏み切ったのです。

それと同じように、当初iOSはスワイプのような目新しい操作よりも、画面上のボタンをタップして画面を遷移させることを重視していました。「迷ったらホームボタンを押せば元に戻れる」という出口を用意した上で、トライ&エラーを繰り返させ、ユーザーが十分に慣れ親しんだと思われるタイミングで、スワイプを中心とした操作でOSやアプリ内の画面を行き来するiOS 7の構造と操作性を導入しました。

そんなiOSの流れを念頭に置いてiPhone 6を見てみれば、アップルがラウンドデザインを採用した理由は明白です。思い出してみてください。iPhone 6は単に筐体が丸みを帯びているだけではありませんでした。エッジと画面をほぼ段差なく成形することで、指の引っ掛かりなく滑らかに画面の端から中心部へスワイプできるようにデザインされていたのです。これは、ジョナサン・アイヴがOSとハードを根本から融合させようとしたことの現れ。それによって現在まで続くiOSのスムーズなユーザー体験が実現できているのです。

しかし、このラウンドデザインには課題もありました。その最たるものが「ケースをつけていると満足なユーザー体験が得られない」というもの。そして前述の通り「ベゼルが大きく見える」効果があるのも、見落とすわけにはいきません。ほとんどのユーザーがiPhoneにケースをつけていること、そしてiPhone X以降に登場したノッチ両脇のスペースと画面下のメニューバーの存在を考慮し、アップルはラウンドデザインを廃止したのではないかとも思われます

可能性その3:iPhoneを落とす人が増えた

最後に、単純なようですが、ありえない話ではないでしょう。

アップルは各ストアでユーザーと直接コミュニケーションを取れる構造を持っているため、どんなスマートフォンメーカーよりもユーザーの行動や声を把握しています。

「iPhone 6以降のデザインのiPhone、あるいはiPhone Xでホームボタンを廃止して以降、落下による破損持ち込みがあきらかに増えた」なんて可能性も地味に捨てきれないと思います。

いずれにせよ、ひさしぶりに楽しみなiPhoneです

最後に個人的な話ですが、今回のiPhone 12 Proには久しぶりにワクワクしています。

LiDARを活用したカメラとApple ProRAWの組み合わせはスマホどころかカメラ史における新たな1ページを開くことになるでしょうし、MagSafeには予想以上のポテンシャルがあるのではないかと期待しています。

でも、あのうるさいシャッター音には本当に辟易しているので、「日本版iPhoneでもシャッター音をオフにできるようにしてくれよ」と言っておきますね。あれではどんなに魅力的なカメラでも魅力半減ですから。頼みますよ〜。

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