プラネタリウムって、星空しか観られないんだと思ってた。
そんな思い込みをいい意味でひっくり返してくれたのが、2年前に福岡市科学館で鑑賞した『サカナクション グッドナイト・プラネタリウム』でした。
星空と音楽の融合

もともとサカナクションが好きで、「プラネタリウム × サカナクションのコラボ」と聞いてMVの豪華版みたいなもんかな〜とかるい気持ちで観に行ったんですが、ぜんぜんふつうのプラネタリウムじゃなかったんです。
福岡市科学館のドームシアターは、直径25mを誇る最新鋭の「統合型プラネタリウム」。漆黒の闇にまたたく数多の星は息をのむ美しさでしたし、さらにそこに8Kに匹敵する超高画質デジタル画像で夜の海やきらびやかな摩天楼が重ねて映し出され、音楽とともにロマンチックな物語が紡がれていきました。
極めつけはフロアスピーカー22台をつないだ迫力の立体音響システム。ふだんはちっぽけなイヤホンを通して自分の脳内だけに響いてくる『ユリイカ』や『ミュージック』などの愛おしい楽曲たちが、プラネタリウムのドームいっぱいにサラウンドサウンドで響きわたるカタルシスったら…!
感動で心がふるえました。プラネタリウムは星を観るだけではもったいない、とそのとき気づきました。
新しいプラネタリウムがやってくる
『サカナクション グッドナイト・プラネタリウム』は、コニカミノルタプラネタリウム株式会社が力を入れているコンテンツ事業の賜物です。

「コニカミノルタってコピー機とかレンズで有名な電気機器メーカーじゃなかったっけ?」と思った方。わたしもそう思ってたんですが、実は日本初の国産プラネタリウムを製造した先駆者でもあるんですって。
それから60年以上経った今では、コニカミノルタの技術とノウハウが日本中のプラネタリウムの半数を支えているそうです。そしてつい先日、日本のプラネタリウム業界に新しい風を吹きこむべく、新事業「Connected Dome」が発表されました。
コニカミノルタが目指しているのは、プラネタリウム事業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化。
プレスリリースによれば、今まで単体で運用されてきたプラネタリウムを5Gネットワークとクラウドでつなぎ、日本各地で多様な映像コンテンツを上映できるようにするほか、スクリーン自体が発光するLEDドームシステムや最新鋭のエッジサーバーなど、ハード面でもデジタル技術を提供していくそうです。
音楽・スポーツ・eスポーツのライブ配信、アニメーション上映、国際宇宙ステーションからの実況中継などなど、ただ星空を眺めるだけじゃない新しい可能性を持ったプラネタリウムが今後日本中にどんどん広がっていくと思うと、ワクワクしますね…!
以下、ざっくりとではありますが2020年10月9日に行われたコニカミノルタのオンライン発表会の概要をお届けします。
「私たちは星空を作っている会社です」
まずはプラネタリウムの歴史をちょこっと。
コニカミノルタによれば、世界初の投影式プラネタリウム機器がドイツで開発されたのは今からおよそ1世紀前の1923年でした。

1937年に大阪市立電気科学館(現:大阪市立科学館)にドイツ製のプラネタリウムが導入されたのを機に、「星好きでしばしばプラネタリウムを見に行っていた」千代田光学精工(現:コニカミノルタ)社長の田嶋一雄氏が国産化に着手。1957年には国産初の「ミノルタプラネタリウム1型」が誕生したそうです。
光学式投影機は言ってみればピンホールカメラのような仕組みになっているそうで、黒いガラスに穴を開けた「恒星原板」に光を当ててレンズで星影を投映します。なんと、穴の数は100万から1億個だとか!技術の進展とともに恒星原板の精密度も向上し、今では限りなく自然の星空に近い映像を表現できるようになったそうです。
さらに、1985年以降は光学式プラネタリウムの星空にデジタル映像を融合することで、地球を飛び出して「宇宙視点」を表現できるようになったそうです。なるほど、プロジェクションマッピングとCGを組み合わせることで、わたしたちはあたかも太陽系を離れてほかの恒星系を旅したり、超巨大ブラックホールの降着円盤をギリギリかすめたりしながら宇宙を俯瞰できるようになったんですね。
プラネタリウムの「大航海時代」到来、と言ったところでしょうか。
日本はプラネタリウム大国

ところで、日本ではプラネタリウムってさほど珍しくないのですが、それもそのはず。全世界におよそ2700館あるといわれているプラネタリウムのうち、400館は日本にあるそうです。面積あたりで計算すれば、日本は世界で一番「プラネタリウム密度」が高い国かもしれないってことですね。

日本にある400館のうち稼働しているプラネタリウムはおよそ350館で、2019年の観客動員数は889万人にものぼったそうです。ところが、この数字には偏りがあるようで、首都圏エリア・大阪・名古屋・福岡などの都市部では動員数が安定している反面、地方自治体が運営するプラネタリウムでは集客率が伸び悩んでいるという内実もあるようです。
Connected Dome Libraryの可能性
日本にはせっかくプラネタリウムがたくさんあるのに、充分に活用できていないのかも。これってもったいないことですよね。
さらに、新型コロナウイルスの蔓延により新しい生活様式への対応を迫られた結果、観客数を大幅に削減せざるをえなかったことも、プラネタリウムを運営していく上で大きな課題となっているようです。
そこで、今までアナログな「配給式」だったプラネタリウムのコンテンツを、デジタルな「配信式」に切り替えていこう!と提案しているのがコニカミノルタの「Connected Dome」事業の第一弾である、「Connected Dome Library」です。
プレスリリースいわく、
現在、プラネタリウムで新コンテンツを上映する際には、自動投映プログラムを上映館ごとにセッティングする必要があり、この作業のために数日の休館を余儀なくされています。「Connected Dome Library」は、クラウド経由でダウンロードしたコンテンツを専用サーバーに格納し、そのまま上映できるため、より多くのコンテンツを手間なく、効率的に上映でき、休館日数の削減に寄与します
とのこと。

この構想を技術的に可能にしているのが、今後どんどん広まっていくであろう5Gネットワーク環境。そして、デジタルプラネタリウムシステムの開発と製造を手がけるフランスのRSA Cosmos社の子会社化です。
イメージとしては、Amazon Prime VideoやNetflixのように、プラネタリウム番組の配信をネットワーク化・サブスク化する感じでしょうか。
プラネタリウム同士がネットワークによってつながるだけでなく、コニカミノルタがユーザーに直接YouTubeやDMM動画サイト上などでコンテンツを提供するサービスも展開中とのことです。
すでにDMM動画のVR部門で販売ランキングトップに輝いた実績もあり、ステイホーム期間中にYouTubeで無料配信された「癒し系星空コンテンツ」は1ヶ月で20万回以上の再生数を記録したのだとか。プラネタリウムコンテンツの需要の高さが伺えます。
ニューノーマル時代の全天周エンターテイメント

冒頭でご紹介した『サカナクション グッドナイト・プラネタリウム』のようなコンテンツも、まさにコニカミノルタが得意とするエンターテインメント性の高い作品の一例です。
今後の展開として、直近では10月16日(金)、「コニカミノルタ プラネタリアTOKYO」にてChemistryの堂珍嘉邦さんをお迎えしての無観客音楽ライブ配信『真夜中のプラネタリウム -Midnight Planetarium Live-』を行うそうです。
また、10月17日(土)・18日(日)には『J-Wave Innovation World Festa 2020』を同じくプラネタリアTOKYOにて開催し、フルハイビジョン映像と360度VR配信を行うそうです。
プラネタリウムに一歩足を踏み入れると、頭上に広がる全天周スクリーンに圧倒されますよね。それもそのはず、通常の平面スクリーンよりも投映面積が4倍近くあるそうで、それだけ没入感も違ってきます。
全天周スクリーンでもっと多様な映像作品を楽しみたい。それらの映像を、ステイホームしながらVR体験したい。こんな欲求に応えてくれる新しいかたちのエンターテイメントが今後どんどん発信され、プラネタリウムがより身近なエンタメスポットとなりそうです。
たとえば、人類史上初めて超巨大ブラックホールの撮影に成功したイベント・ホライズン・チームが、今後M87*ブラックホールの姿を動画として捉えることに成功した暁には、プラネタリウムの全天周スクリーンでその美しさに圧倒されたい…!! こんな夢のような話も、いずれ叶うんでしょうか。
百聞は一見に如かず、とはよく言ったもので、人は「見る」ことで多くを学び、感動を覚えます。5G時代の全天周エンターテイメントだからこそ、可視化できることはたくさんありそう。そこには、きっとワクワクするような発見と、学びと、感動が待っています。
Reference: コニカミノルタ株式会社, コニカミノルタプラネタリウム株式会社 プレスリリース