子ども向け…なのかな?
7歳のブロック遊び好きな子供を持つ親として、「Kano PC」にはけっこう期待していました。PC本体を自分で組み立て、コーディングが学べるファーストPCなんて、理想の子どもパソコンなのではないか!と。
教材PCなら、私のお下がりのMacbook Airを使わせるよりも自由度をコントロールでき、セキュリティ面でも安心・安全だろうと期待し、ぜひ実際に子供に触らせてみたかったのです。
というわけで、今回はブロック遊びとガジェットが好きな7歳の息子に「Kano PC」を1ヶ月使わせてみたレビューをお届けします。
組み立ては面白い! がすぐ終わる

「Kano PC」のハイライトは、組み立てにあると言っても過言ではないでしょう。
ガイドに従って、バッテリーやスピーカーを取り付け、PCの大まかな仕組みを知る。レゴやガンプラ、『パフィシック・リム』のジプシーデンジャーなどのプラモデルを組み立てるのが好きな息子は、「Kano PC」に飛びつきました。とはいえ、「組み立て」の工程はバッテリーとスピーカーをはめ込んでカバーを取り付けるだけ。ちょっと物足りなかったようです。

そして気になることが…。「Kano PC」は子どもが初めて手にするPCというコンセプトであり、対象年齢は6歳以上。つまり、漢字はもちろんのことひらがなも危うい子どももターゲットに含まれているわけです。しかし、取説にはルビもついていない漢字がたくさん。
いくら玩具みたいな外見をしているからと言って、PCはPCなので、組み立て作業を子どもひとりでやらせるつもりはありませんでした。しかし、親がとなりで取説を読んであげないと何もできないレベルだとは思っていませんでした。
Windowsの壁以上に高い「言葉の壁」
息子は赤ちゃんの頃からApple製品を触ってきました。『ポケモンGO』もプレイしていたので、iPhone操作もお手の物。私のMacbook Airをお下がりしていることもあり、iOSだけでなく、Mac OSにも慣れ親しんでいます。
そのため、初めて触るWindows 10のインターフェイスにはそれなりに戸惑ったようでした。戸惑っても自分で触りながらなんとなく慣れてくれれば問題はないのですが、何を触っても読めない「漢字」が出てきます…。日本の小学校では、段階的に漢字を学びます。英語設定ならどうにかなったかもしれませんが、日本語設定だと読めない漢字が壁になるんですね。
例えば「Kano PC」の目玉でもある「Kano Code」を起動させてみたらコレです(ちなみに起動は無茶苦茶遅いです)。

指示に従ってコーディングを勉強するのですが、しょっぱなから「従って」という漢字が出てきます。「学年別常用漢字一覧(平成23年4月〜)⇄(令和2年4月〜)」によると、「従う」は小学校6年生で習うそうです。つまり、6年生未満は漢字辞書を使ったりググったりしなければ、ひとりで「Kanoコードへようこそ」すら読めないということになります。
息子は生まれてからの5年間をマレーシアで過ごし、現地では英語教育のローカル幼稚園に通っていたため、日常会話程度の英語は使うことができます。なので、英語に拒否感は持っていません。
また、私自身、コーディングは日本語よりも英語で学んだ方がわかりやすいだろうという考えを思っている人間なので、英語表記なのはむしろ歓迎です。しかし、日本語と英語を混ぜた指示、例えば、「黄色いドット」と表記すればいいものを「yellow beacon」と書いたりしているので混乱しました。

英語でも日本語でも、一事が万事この調子。「値」や「追加」など、小学生低学年では読めない漢字だらけ。コーディングが目的なはずなのに、そこにたどり着く前につまづいてしまいます。慣れないOS操作も加わり、息子は早々にギブアップしてしまいました。
純粋なコーディング教材として優秀
では、漢字うんぬんは別として、コーディング教材としてはどうでしょう? うちではZ会小学2年生講座のプログラミングを勉強しているので、それと比較してみました。

Z会のプログラミングは、小学校2年生用に作られているので、その年齢の子どもが飽きずに遊べるように、インターフェイスや音楽、イラストなどの工夫がされています。年4回配信され、1回の学習時間は約15分。何度も繰り返し遊ぶことで理解を深めるようになっています。ガッツリ学ぶというのではなく、本格的にプログラミングを学ぶための布石のような立ち位置。
一方の「Kano Code」は教材というだけあって、基礎からガッツリとプログラミングを学べるようになっています。

大人の私が使ってみましたが、プログラミングの仕組みがわかって面白かったです。でも、私が楽しんでいても意味ないんですよね…。
OSが英語設定で、英語圏の子どもなら、小学校低学年からバリバリ使えるかもしれません。教材としては優秀だと思いました。
カメラが付いていない
息子にとってはWindows 10も「Kano Code」もイマイチでした。しかし、どんなガジェットも活かし方があるのでしょうから、息子のオンライン英会話に使えないかと考えました。
息子が受講しているオンライン英会話は、Skypeを使って先生と話したり、Skypeのチャットボックスでタイピングの練習をしたりして生の英語を学びます。その授業で「Kano PC」を試してもらいました。
しかしここで重大な問題が発生しました。「Kano PC」にはカメラが内蔵されていないのです。昨今はオンライン授業が一般的になりつつあります。Zoomで授業を受ける子どもも少なくありません。カメラがないというのはどういうことか…。
軽くググってみると、KanoはUSB接続のカメラを29.99ドルで別売しているようでした。
ただ、この内蔵カメラ無し問題は、セキュリティを考えるといいことだと思います。セキュリティを気にして、内蔵カメラをテープで隠す人がいますよね。私もかつては隠していたのですが、テープの汚れがレンズに付着してしまいました。その汚れを拭き取るために力を入れすぎ、レンズを割った過去があります。そう考えると、必要ないときはUSBを外せばいい外付けカメラは子どもにとっては安全だなと思いました。
今回のレビューではカメラはさわれなかったので、息子は「Kano PC」をタイピング用に、iPad Proをカメラ用にとダブル使いしなくてはなりませんでした。うーん…。
想像していたよりはるかに重い
見ればわかる通り、「Kano PC」は大きくごついです。しかし、まさか1755gもあるなんて。15インチ級のPCくらいありますよ。
「Kano PC」はタブレットPCなのでキーボードを取り外して持ち歩くことができます。息子がタブレットとしてNetflixかなにかみるようになるかな、と思ったのですが、iPad Pro(11インチ)と「Kano PC」があれば自然とiPad Proを選んでいました。
まぁ、1755gの「Kano PC」と465gのiPad Proが横に並んでいたら、iPadを手に取りますよね…。
高学年向けの教材としてならよさそう
PCの仕組みとWindows 10の使い方、そしてコーディングも学ぶ教材としては、ありでしょう。
ただ、日本の場合、漢字の壁を乗り越えるため、対象年齢は小学校5年生、6年生、もしくは中学生くらいに引き上げる必要があるような気がします。やっていること自体は小学生2年生でも理解できるものなので、言葉が壁になってしまうのは本当にもったいないと思います。

もし「Kano PC」を我が家の7歳児に引き続き使わせるなら、親がつきっきりで指導していく必要があると思いました。
個人が教材として買うには不向きでしょう。PCとしても、教材としても、子ども一人で使うにはハードルが高すぎます。そしてマシンパワーが足りず、遅い。Appleガジェットに慣れてしまっていると、「Kano PC」の全ての起動待機時間に苛立ちを覚えると思います。
それに、小学生低学年向けのような玩具のような外見と、中身の難易度のギャップが激しく、子どもがファーストPCとして与えられても嬉しくなさそう。子どもは、大人が考えるよりはるかに大人っぽいものを欲しがっているんですよね。
5万円出すなら…
Kanoは約5万円です。5万円あったら、私が子どもに買い与えるのはiPad第8世代+Smart Keyboardです。直感的ですし、スペックも十分。iPadでプログラミング教材の「Scratch」をさせればいいと思います。
ポップなデザインで大人でも欲しくなってしまいますが、もともと「Kano PC」は教材用であり、家庭用ではありません。また、日本語環境が前提のコンセプトでもなさそうでした。もし、学校のコンピューターの授業で、中学生を対象にテストしたら違った感想が出てきたかもしれません。
Source: Kano PC